006――能力
さて、俺の影で尖兵は全滅させたわけだが。
どうやら、砦は防衛戦に持ち込む気らしい。
門を固く閉じ、砦の上からこちらに弓や弩で狙いを定めている。
「さて、じゃあ僕等も少し頑張りましょうかね」
「ああ、私も出よう」
だが、俺が最強と呼べるならば、『エクストラ』メンバーもまた、最強なのである。
「さて、行くぞ!」
まず先に出たのは緋音。
緋音の能力は、『焔』。
言うなれば、ややこしい手順を踏む俺の能力の、正反対の能力。
この能力の意味は正にこの一言、『焔』で言い表せる。
即ち、体表面から炎を出す。ただそれだけ。
両手から。両足から。体はおろか髪からも。
全身に焔を纏い、そしてその焔を操る。
部分的には摂氏2000度オーバーのその焔は、軽く鉄さえ溶かし、大地を焼き焦がす。
そして、緋音は超高温の焔を纏い、砦へと前進する。
たとえ石の壁だろうと、たとえ鉄矢が当たろうと、緋音に触れる事すら叶わずに灰へと帰る。
ただ歩くという行為だけで、砦の城壁に巨大な穴が開く。
まぁ最も、この焔は緋音が意志を向けた相手しか燃やさないのだが。
ついでに、感情に左右されやすく、慌ててるときは不安定だし、落ち込んでるときは温度が落ちる。
もっとも、怒っていれば温度が上がるのだが。
大分前に、3000度近い焔を右手に怒られた時はガチで死ぬかと思いました。
影は温度関係なく防げると分かっていても、触れただけで体が蒸発する温度なんて心臓に悪いです、はい。
「緋音さん、怒ってますねー」
「黒鍍に手を出した奴には容赦ないからねぇ」
どうやらいつもより温度が高いらしい。南無三。
「さて、では僕も」
未だ砦内には緋音が居るが、琉青も出るらしい。
「ふぅっ…………はっ!」
琉青の力は、『風刃』。
即ち、風の刃。
まぁようは、鎌鼬だ。
風、つまりは空気を固めて刃にし、そのまま飛ばす。
大きさは自在で、10cmほどから数百mまで。
形を維持するには、それなりに意志の力が居るらしいが、本人は結構涼しい顔で数百個の鎌鼬を作る。
ちなみに空気である必要は無く、「手に触れている物」であれば基本的になんでも変形可能らしい。
空気、正確には風が一番刃にする事と相性が良いらしく、またどこにでもあるものだから『風刃』らしいが。
刃なのは本人の「敵意の現れ」らしい。詳しい事は知らん。
ただ、細かく弄る事は出来ないらしく、大概大雑把に風の刃を作って相手にブチ当てるという戦法をとる。
応用を聞かせれば、例えば鍵穴とかを解除できそうなものだが、壁に穴を開けるほうが速い。
せいぜい空気ボンベ程度だ。
まぁ、空気なんてすぐにどっかに流れて行ってしまう物。そう易々と固定できるものではないらしい。
さて、そんな『風刃』だが。
既に大きな溶けた穴がある砦の壁は、既にこれによって壊滅している。
まぁそりゃ身長の数倍はある風の刃が飛んできたら石の壁でも崩れるだろうけどよ。
さて、2人の一方的な攻撃で、敵兵は既に退却、いや逃走を始めている。
砦を破壊しろとの依頼なので、あらかたは終わったのだが。
「リーア。念のためだ、最後の基盤も壊しておいてくれ」
地面に埋まっている柱や、地下室なんかも破壊しておこう。
「はいはーい。ノーリ! 出番だよー!」
リーアが、地面へと声をかける。
途端、地面が揺れ始める。
そして、その揺れが一段酷くなった後、巨大な何かが、姿を現した。
トカゲのような全身像に、体から生えている足の様な鉤爪。
全身は金属の様な鋼色。ただ、顔に当たる部分に、紅い眼が2つ光っている。
高さは2mを越し、全長ともなれば10mはあろうかという巨体。
正に、竜と呼ぶべきそれが、地面から現れた。
「ニーギス……」
隣で、グラウがその魔物の名を呼んでいた。
そう、ノーリとはニーギスという魔物を、リーアが手懐けた名。
魔物とはこちらの世界に生息する、特殊な動物。
本来は、普通の動物だったものが、人と言う脅威に対抗すべく進化を重ね、強大な存在となったモノ。
巨大化し、毒を備え、火を吐き、空を飛ぶモノ。それが魔物だ。
動物と魔物の差は特に無いが、基本的に一般人では太刀打ちできない物を魔物と呼ぶ。
もっとも、魔物と言っても、一般兵でも数人集まれば簡単に討伐できるものもあれば、精鋭たる騎士団が大隊を率いて突っ込んでも勝てない物まで多種多様だが。
そして、リーアの能力は『服従』。
対象となる動物を、ほぼ一方的に隷従させるもの。
正確には、動物に極端に好かれるといった能力と呼ぶべきか。
しかし、あまりにも忠実に命令を聞く動物たちを見ると、『服従』と呼ぶべき力だろう。
そして、この世界の魔物。即ち動物の進化種。
本来なら、人に懐くことなど有り得るはずも無い彼等だが、リーアの能力によって懐柔され、今や忠実な部下となっている。
リーア本人の戦闘能力は皆無。だが、その部下達は魔物、しかもその頭だった奴等。
人よりも強く、人よりも忠実で、人よりも賢い。
正に最強の部下と言えよう。
恐らく、今のリーアに攻撃でもしようものなら、1国の全兵隊でもってしても生き延びれないだろう。
それほどまでに強く、人の脅威たる化け物。それが魔物。
そして、その魔物達を従える事が出来るリーア。
最強と呼ぶべきコンビだろう。
まぁ、それでも目の前で暴れてるコンビや俺には勝てなかったりするのだが。
それは良いとして、その魔物の中でも凶悪なのがニーギアである。
本来は、地下奥深くで、ちまちまと地中に居る他の生物を食っている魔物だが、もし地面から掘り出してしまったらまず助からない。
鉱石の埋まる火山すら悠々と掘り進む強靭な顎と、鋼鉄にすら劣らない硬度を持つ硬い皮膚。
そして、その巨体から想像もつかないほどの掘削速度。
これらが、ニーギアの武器である。
地上では、移動速度は遅く、満足に動けないが、一度潜れば恐ろしく強い。
「頑張ってねー。ノーリ」
「があああああああああああああ」
さて、そんなニーギアのノーリは巨大な咆哮を上げて地面に潜った訳です。
まぁ、後は釘一本残さず地面深くに埋められて終わり。
ついでに砦で抵抗しようなんて考えている兵は残らず地面へと引きずり込まれる。
「これで、トドメかね」
「そりゃそうでしょうよ旦那。これでまだ壊滅しなかったらそれ兵じゃないですよ」
「…………戦闘終了?」
見れば、レウムが手元で銃を持てあましていた。
「ああ。そういえばグラウやレウムの番は回ってこなかったな」
「そこは別に良いですがね。戦闘狂じゃないんですから」
「…………臆病」
辛辣なレウムの言葉が、グラウに突き刺さる。
「まぁ、戦わんに越したことは無いですよ」
「そうかもしれんなぁ。俺達は戦ったが」
「今回は旦那達4人だけの手柄って事でいいんじゃないですかい?」
「…………同意」
「別に手柄なんて欲しくねぇよ。そんな事よりさっさと帰って寝たい」
さて、今回の戦闘では長ったらしく4人の力について説明したわけだが。
これらの力は別に異世界召喚特典でくっ付いてきたわけでは無く、元々生まれた時から持っていたものである。
もっとも、平和主義国日本では、せいぜい鉛筆拾ったりコンロ代わりにしたり不良をボコボコにしたりする程度の能力だったんだが。
言うなれば超能力、異能力ってとこか。
俺、いや俺達を観察してた奴等は『異常者』なんて呼んでいたが。
とにかく、とびっきりのイレギュラーだった。
それでも何とか平和に、楽しく過ごしていた。
異常者同士集まって、お互いに庇いながら、日常を維持してたもんだ。
それでも、どうしても所謂世の闇って奴に足を踏み入れる事もあったし、人を殺したのがこっちに来てから初めて、って訳でもなかった。
そう考えると、どっちも同じような世界なのかもしれない。
どっちの世界でも人を殺し、生きる糧を得る。そう考えれば、同じような物なのかもしれ無い。
まぁ、どちらの世界も生きるに辛い世界だが、
「生き続けるしか、ねぇからな」
「旦那? 何か言いましたか?」
「いや、なんでも無い」
「…………?」
俺達は生きていく。
たとえ世界全てを敵に回しても、
たとえ世界全てを殺し尽くしても、
俺達は、ずっと、生きていく。