003――ギルド
――場所を移動して、本拠地一階。広間。
ちなみに、ここは我らが『エクストラ』の本拠地である。
異世界に来て、3ヶ月後ぐらいに建てた俺達の家。もっとも増築に次ぐ増築で、もほや最初の頃の面影など残っていないが。
三階構造で無駄に広いのと、ある理由で間違っても泥棒等が侵入できないのが特徴。
俺の部屋はもちろんの事、ギルドメンバー全員の部屋、鍛練部屋、武具・食料倉庫、鍛冶場まである。
ただ、部屋は有り余ってる癖に、大抵のメンバーはこの広間の暖炉の前へ集まってしまうのは人間のサガか。
「よう、みんな集まってんな」
案の定、既に広間には2人の先客が居た。
「よぅ旦那、今頃お目覚めかい?」
片方の、安楽椅子に揺られながら煙草を咥えているのが、グラウ・ストリア。
埈竜族と呼ばれる種族で、右腕だけが以上発達していて、左腕の二倍はある筋肉と同じく右腕だけに生えた鱗、そしてその先にある巨大な鉤爪が特徴だ。
本来は、土堀りに特化した腕、らしいがグラウはもっぱらその背中に担ぐ巨大な大剣を振るわれるのに使っている。
一応穴を掘って落とし穴を作る、なんて事も出来るらしいが、少なくとも俺は穴を掘る姿を見た覚えは無い。
元はある国の騎士団長だったのだが、俺がその国を滅ぼした際にギルドへと勧誘した。
元々、腐りきった国の上層部に頭を下げる毎日にはうんざりしていたらしく、割とすんなりとギルドへと入った。
ただ、忠誠心は強いらしく、一度主と決めた相手には裏切ることは無い。実際、ギルドに入る時もその腐りきった王族の命を助ける事を条件にするほどだ。
生粋の肉体労働派だが、基本的に戦争は嫌いらしい。
出来れば今の様に煙草を片手にのんびりする方が性に合ってるとの事。
ただ、実力は折り紙つきで、強力な右腕による突破力と、歴戦の兵の勘。冷静な判断と、的確な分析。
まぁ、理想的な傭兵と呼ぶべき奴だろう。
「…………おはよう」
もう一方の、無言で銃を手入れしているのはレウム・フェイジア。
蝙膜族と呼ばれる種族で、背中から生える蝙蝠風の翼と、黄色い眼、先の尖ったエルフ耳が特徴だ。
翼は今は収納されているが、展開時はかなりの大きさになり空を飛ぶことも数時間なら可能。耳もかなり良いし暗闇でも目が見える。
両手に握られ、手入れされている銃は本来この世界には無いものだが、俺が特注の品を造り、それの使い方を教えた所、気に入ったらしい。
今ではスナイパーで、暗殺なんてことをやっていて、翼を生かした、1000m上空からの遠距離射撃を得意としている。
元々はフリーの傭兵で、その頃はナイフを扱っていたのだが、依頼で一緒に行動した際に、俺の持ってきていた銃に興味を示して、そのままこっちに移籍してきた。
その前の事はほとんど不明。
形としては利害関係の一致以外に協力する点は無いが、なんだかんだで今まで仲間として行動している。
基本的に無口だが、良く見てやればきちんと感情的に怒ったり悲しんだりする普通の奴だ。
ちなみにフードをかぶる癖がある。目深にフードをかぶり、口を完ぺきに閉じてると、気配さえ無くなる生粋の暗殺者だ。
「ったく一度寝坊したくらいでうるさ過ぎるんだよ」
「はっはっは。旦那が寝過ごすなんて珍しいからなぁ」
「…………異常」
さて、そんなメンバーに挨拶しつつ、俺達の暖炉周りの椅子へと腰かける。
「で、今度の依頼は何だ?」
「コイツさ」
俺の呼びかけを聞いて、『エクストラ』の依頼受付係、ベイスがギルドの広間へ顔を出す。
『エクストラ』受付兼情報収集係、ベイス。本名不明。ちなみに本人すら分からないらしい。孤児なので、孤児院で名付けられたベイスという名前しかない。
狗牙族と呼ばれる、頭にあるイヌミミと尻から生える尻尾が特徴だ。
その、全体的に茶色がかった白色の毛は、機会があれば一度モフモフさせてもらいたいものである。
もっとも、してもらったら最後、俺の人生は緋音によって終わらせられるだろうが。
情報戦担当で、依頼を受諾しつつ、各国の情勢なんかを探っている。
基本的には依頼時以外ギルドホームに居る俺達と違って、大概他の国に出かけては様々な事を調べている。
直接的な力は持たないが、バックアップ能力だけなら大陸でも群を抜くだろう。
「霧中要塞ベルメルグの攻略及び占領、ですか」
代表して受け取った琉青が依頼内容を口にする。
しかし、霧中要塞ベルメルグと来たか。
「霧中要塞ベルメルグって言うとあれよね? 年中霧だらけの大地に建てた、コルディア公国自慢の不落要塞。って奴よね?」
緋音が今言った通り、霧中要塞ベルメルグとはコルディア公国が霧だらけの大地、正確にはコルディア公国とトレシア爵国との国境の傍に建てられた要塞だ。
トレシア爵国とコルディア公国は例の如く戦争中で、戦線となっていた国境に、一旦締結された一時平和条約が効力を発揮している間に霧に隠れて構築されたのが霧中要塞ベルメルグだ。
本来ならトレシア爵国が有利に戦争を行っていて、今頃は落ちているか同盟でも結んでいるかという頃だったのだが、この要塞のせいで戦況がひっくり返った。
「たった半年でコルディアが要塞を建てたって聞いたときは驚いたけど、ホントだったんだ」
リーアが驚くのも無理は無い。
この世界の建造物は、簡易的な家でも最低6ヶ月。砦サイズなら普通4年はかかる。
俺自身は、はったりをかました立て板看板だと認識していたのだが、どうやら本格的に稼働しているらしい。
「それだと、依頼主はトレシアなんですか?」
「いや、とある大商人だ。名前は伏せる指定だから言えないけどね。恐らく、コルディア有利になった戦争の状況を元に戻して稼ぎなおそうとでも企んでるんだろうさ」
「相変わらず面倒な奴等だ。ま、俺達はどっちにしろ依頼をこなすだけだがな」
「その通りだ。一々感想は言ってられない」
俺達は傭兵。戦争屋。
依頼主が金を払うなら、注文通りに黙々と仕事をするだけだ。
「今回は誰が出れる?」
「グラウとレウム、かな。セーレイは前の依頼からまだ帰ってきてない」
グラウもレウムもセーレイもギルドメンバー、特に前線で戦うメンバーだ。
実力だけは確かなのだが、性格面に一癖も二癖もあるのが殆どなのが難点か。
「セーレイさんなんかは好きそうな依頼ですけどね」
「まぁ、アレは放っておこう」
『エクストラ』は人数で戦力が決まるタイプじゃないから、数人いなくとも問題は無い。もっとも、そもそも数人しかいないのだが。
「じゃ、楽しい楽しいお仕事のお時間といくか」
「セーレイはホントに楽しんでそうだけどね」
「はは、違いない」