002――朝
懐かしい夢を見た。
本当に心の底から懐かしい、夢を。
ほんの1年前までは、あんな日常が続いていたのだ。
ゆっくりと流れていく、静かな時が。
けれど、夢は覚める物。
そう、決して、永久に続くことは無い。
「…い、起き…、黒鍍」
案の定、どうやらお目覚めの時間の様だ。
「後5分……」
「それ5分じゃ起きないだろう……」
夢の中でも聞こえた緋音の声が頭に響く。
けれど、夢の声より少し低くなった気がする。
まぁ、気のせいだろう。
「はいはい、さっさと起きればいいんだろ」
お世辞にもふかふかとは言えない自称最高級品毛布をはねのけ、起き上る。
寝巻は着ていない。普段着ている服ではないが、パジャマの様な柔らかい服ではなく少し硬い綿の服。
体を起こすと、リーアも琉青も既に起きていた。
「俺が最後かよ……」
滅多にリーアに先に起きられることは無いのだが。
「ほら、今日も頑張るよー?」
リーアが顔を覗き込みながら聞いてくる。
身長の低いリーアが覗き込む事が出来るのは相手が寝ているか座っている時だけだから、チャンスの時はここぞと顔を近づける。
その笑顔には色々と思う事はあるが。まぁ、微笑ましくて何よりだ。
「ああ、そうか。今日は仕事か……」
仕事。
異世界に飛ばされた、俺達4人が、この世界で生きていくために選んだ仕事。
そう、ここは異世界。地球では無く、アスフィリア大陸。
ほぼ1年前の頃、いつも通りの帰り道で、本当にいつも通りに、他愛ない話をしながら夕焼けの中を歩いていた俺達は、道端に出来た謎の穴に吸い込まれた。
幾何学模様に囲まれた丸いぽっかりとした穴を、見た瞬間吸い込まれた。
その後は何が何だかわからない内に異世界に放り出され、気が付いたら荒野の中に俺達4人はいた。
幸い、いや生憎と俺達は少し「普通」とは違ったから、その場で餓死するような羽目にはならなかったのだが、しかし最初の1ヶ月間は本当に嵐の様な日々だった。
この世界の仕組みや構成。様々な文化の違い。見知らぬ動物生態系。
ありとあらゆる事が地球と違う中、生き残るために俺達が選べた仕事は1つだけ。
傭兵。
この世界にある、特殊な職業。
詳細はその辺のファンタジーとほぼ同じ仕組みなので省くが、まぁ依頼を受けて仕事して金をもらう、それだけの仕事。
生憎とギルドカードなんて便利な物は無く、自称でしかない。
だが、俺達は、この傭兵職に就き、金を荒稼ぎしてきた。
各国に凄腕の傭兵が居るという噂が広がるぐらいには。
そして、ある意味俺達の今の立場を決定的に決めた仕事が、「リグリア攻城戦」。
リグリアとは国の名。
他国へ遠征しては、物資を持ちかえる事を王族の生業とする戦闘国家、リグリア王国。
そして、そのリグリアに目をつけられたフェリア侯国が、戦闘依頼を出した。
俺達のギルド『エクストラ』に。
藁でも縋りたかったのだろう。
依頼内容はリグリア王国の撃退。
報酬は100000000(1億)ディ。ディの価値は円やドルとは仕組み上、大分違うのだが、1000ディあれば、一般人が1ヶ月生きていけると考えてくれて構わない。
まぁ、この貴族政世界であっても相当の大金だ。
そして、相次ぐ敗戦で貧困に窮していたフェリアの全財産だ。
しかも、金庫の中身ではなく、城や調度品まで売って、その全てを集めての額としての全財産。
当時、確かに評判ではあったが、あくまで一般傭兵に過ぎない俺達にそんな国の先を決める依頼をしたのも、リグリアが相手だったため。
敗走したフェリアの兵では勝負にならないだろうし、他の国が加勢しても、そう簡単に勝てる相手ではない。
そして、フェリアを助けても国の全財産が少なく、得にならない。
それに、リグリアは土地は奪わないため、フェリアの跡を侵略しようなどと考えた国もいたのだろう。
少なくとも、当時フェリアに友好的だった国は、1国たりとも救援要請には応じなかった。
そして、依頼を俺達の所へと持ってきた。
自分達の全てを代償に、俺達に、「助けてくれ」と。
さて、そんなリグリア攻城戦。
結果は、俺が今生きてここで生きている事から分かるだろう。
そう、10万もの、隣国が怖れてやまなかった屈強な兵が、僅か10人足らずのギルドに敗北したのだ。
リグリア王国は破滅し、フェリア侯国は救われた。
めでたしめでたし。
もっとも、そこで話が終わればよかったのだが。
僅か10人。
僅か10人の、ただ1つのギルドに強国が敗れた。
その噂は風に乗り、大陸中へと流れていく。
そして、俺達のギルド『エクストラ』は、規格外の存在として、世の中に認識されるようになった。
対国戦争屋ギルド『エクストラ』として。




