011――追跡
――カルリア候国。首都ロレンから南に約300km。
第二王女が失踪し、それを追うギルド『エクストラ』メンバー。
通常の馬車の10倍以上の速度で走る車の上で、俺達は――
「怠い……」
とてつもなくやる気が失われていた。
車の荷台の上で、各々好きな方法で暇を潰しているものの、時間的にもうそろそろ無理らしい。
普段はこんなことは無いのだが、今回に限っては飽きるのも仕方ないと言える。
何せ、ここ数時間景色が一切変わっていない。
似たような木が生える森がが延々と続いているのだ。
さらに、何故かは調べてみないと不明だが、この木は周囲の動物に嫌われているらしく、動物はおろか虫一匹さえいない。
ここまで居ないと一種の異常である。
俺の予想では、多分ここらに植物系の魔物か、それとも巨大な地中系の魔物か何かが住んでいるのだと思うのだが。
まぁ原理はどうでもいい。というかこの世界で常識を振りかざしたら負けである。
問題は、この景色に飽きているという事。
「ねぇ、まだ着かないのー? あと何キロ何キロ?」
「気持ちは分かりますが……何度確かめても距離は縮みませんよ?」
「うー、早く着かないと飽きるよー」
特に顕著なリーアは、さっきから10分おきぐらいに琉青に同じ質問を繰り返している。
琉青の方も、顔には出していないが、そろそろ飽きてきている。今にリーアの質問も無視して無言モードになるだろう。
「というか、リーアは既に飽きてんだろうが」
「あ、バレた?」
「…………」
リーアの狙いすぎの笑顔はツッコミ待ちという意味だが、現状においてそんな事に気力を使う気は無い。
スルーさせてもらう。
「…………(zzz)」
後、レウムは既に寝ている。目は開けているので一見黙々と耐えているように見えるが寝ている。
まぁ、寝れるときに寝ておくというのは間違っちゃいないし、危険を察知すればすぐにでも起きるので問題は無い。
というか、俺も寝たい。寝かしてください。
けど、俺が「俺も寝るかなぁ」というと、
「…………(ニヤリ)」
「…………(フフフ)」
「やめとけ黒鍍」
と、他のメンバーの動向が一気に怪しくなる。
まぁ、緋音の注意に従って素直に起きてた方が良いだろう。貞操的な意味で。
「娯楽物の1つでも持ってきた方が良かったか」
元の世界から持ち込んだものやそれの複製品があるので、本拠地に帰れば、トランプ、ウノ、チェス、将棋、双六、囲碁、果てはとデュエル! と叫ぶカードゲームとかもあったりするのだが。
「まぁ、いまさら言っても遅いか」
ちゃんとこうなると予想できていれば、ボードゲーム系以外を全て持ちだすなんて事も出来たのだが。
ある程度はあったものの、今まで4日ほど車に揺られ、殆どの暇つぶし用品は使い切ってしまった。
トランプはあるが、既存ルールは殆どやりきっている。
それに、メンバーが変わらない以上手の内や作戦、癖などはお互い知り尽くしている。
「ま、駄々捏ねてないでのんびり待ってろ。それが一番だ」
「うー……」
まぁどうでもいいのだが。さっさと街についてほしいものである。
――カルリア候国。都市オーガン。
カルリア候国首都ロレンから南に500km。都市オーガン。
大きさとしては、ロレンのおよそ半分ほど。
特に大きな特徴は無いが、特産品としてメロン似の甘くて緑色の果物がある。
「ようやく着いたか」
とりあえず、街の門を車で抜け、そのまま車は馬車置き場に置いてきた。
最初は、街に着いたのに誰1人車から落ちないというやる気の無さっぷりだが、街の活気からモチベーションが上がってきた。
ここに着くまであの後本当に景色が変わらなかったからな。
最後は、実は車が止まってるんじゃないかとか思ったりしたぐらいだ。
まぁ、そんな訳で、ただ今少しやる気が出た所で、本日2度目のお仕事である。
無論、内容は姫様の捜索。正直ついさっきまで頭から抜け落ちていたが。
「姫様がここに居てくれるないかなぁ」
既に時刻は夕暮れ。後30分もすれば、完全に日が沈むだろう。
時間的にも、場所的にも第二王女が居る可能性は少ないのだが、正直これ以上追うのはめんどくさい。
「とりあえず影で探すか。緋音は宿取っといてくれ」
何時ものように、踵で影を叩きつつ、緋音に頼む。
本来は、影の動きが見えないところでやるべきだが、既に暗くなり始めているし、「労働後の一杯」でもしているのか、街のあちらこちらでは酔っ払いが軽い騒ぎを起こしている。
こんな時に、影に注目している人間などそう居ないだろう。
とりあえず、壁に体を預けて、影に意識を集める。
さて、集中集中――
「リーアは何すればいいー?」
早速邪魔が入ったよ。まぁいいけどさ。
「お前はグレイ・ビー飛ばしといてくれ。あと魔物での調査をよろしく」
けど、一応リーアにも探ってもらった方が良いし、もしかしたら魔物が匂いとか発見するかもしれないし。
複数で探した方が見つかる可能性は高まるんだからな。
それでも、ここで情報がみつかる可能性は低いんだけど。まぁしょうがないな。
そんな事より、情報に集中集――
「先輩、僕は何をすればいいでしょうか」
また邪魔か。今度は琉青か?
まぁ良いけどよ。琉青は仕事お願いした方が良いからな。
下手に「待ってろ」とか言うと、機嫌を損ねられる。いや、正直琉青の能力は超戦闘用なのでこの手の依頼の時は仕事が少なくなるのは当然なんだけどよ。
「琉青は補給お願い。一応、食料とかのチェックをしといてくれ」
いざとなった時に非常食が鼠で全滅してた。なんて事が起きたら死ねるからな。
まぁ、最悪の時はその辺の動物か魔物を狩って御飯にすればいいんだけどさ。
……嫌な予感がする。が、集中――
「…………何する?」
今度は、袖をクイクイされたかと思ったらレウムが居た。
「あー……、レウムは上空から街の周辺を探してくれ。もしかしたら姫様居るかもしれん」
「…………了解」
うーん。
とりあえず、今度からこいつらに自主的に動くように訓練した方が良いかもしれんな……。
ギルドマスターは俺って扱いだが、別に上下関係も無いし。
毎回毎回こうやって指示を出すのも面倒なんだが……。
「っと、集中しなきゃな……」
影に意識を集め、流れてくる情報を五感で感じる。
第二王女に関する物のみを、掬い上げる様に集める。
「さて、あるといいけどな」
――カルリア候国。都市オーガン。宿屋。
案の定、影で町全体を調べるも、無駄骨。
こういう風に、影を広げるのって疲れるから嫌なんだけどなぁ。
とりあえず、影を元に戻して緋音の入っていった宿屋に入る。
「おーい、緋音。宿は取れたか?」
「ああ、一等の部屋を一応な。受付に少し渋られたが」
見ると、緋音の前に座っている受付は、額に汗をだらだら流している。
見た所、生意気な子悪党雰囲気のボーイなので別にどうでもいいが。
どうせ、緋音に難癖付けて断ろうとしたんだろう。俺達、普通に見たら金持ちには見えないからな。
そして、財布から出てきた額の多さに驚いたとか。ボろうとして『焔』で逆に脅し返されたとか。
一応、服の素材とかは特殊素材で、一点限りのオーダーメイド。本来なら単価数万ディルの物なんだが。
緋音の服は、『焔』で焼けないよう、燃えにくい特殊な魔物の皮を使ってるらしいし。
俺の服も、「柔らかいけど硬い」という矛盾するような素材で、衝撃を緩和して鎧としても機能しつつ、俺の行動を妨げないという優れもの。
ま、影があるので俺の服はどんなものでも構わないのだが。
他の奴らの物も、詳しくは聞いたことないが何かしらの特殊物だった気がする。
「緋音ー。俺は先に部屋で寝る。疲れた」
「え!? あ、ちょっと」
今日1日で町単位での『影繰り』を2回もしたんだ。精神的に相当疲れている。
というか、もう無理。このままベッドに倒れるようにして寝たい。
「黒鍍ー! 部屋はダブル――」
「んじゃ、部屋に……」
影で緋音の手から鍵を回収し、そのまま影を使って高速で階段を上って、部屋へと入る。
場所は聞いてなかったが、鍵を片っ端から当てて特定。
「ここか」
扉を開けると、50畳ほどの部屋が。いや洋風の部屋だから80m四方って言うのか? まぁどうでもいいや。この部屋形ややこしいし。
あ、でも、なかなかいい部屋だコレ。ベッドが広いし何より清潔感がある。
「それでは、おやすみー……」