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発つ魔王様、あとを濁さないわけがない5


お待たせしてすみませんでした。

2月ぶりですね、お久しぶりです。

サブタイトルはむりやり5としました。

違うじゃん!とかいうツッコミはスルーしてください。


そして、今回は長いです。


「なにそれ、言い逃げってやつ?」


 立ち去ろうとしたら、王子に腕をひかれた。強い力で、どうにも外せない。

 亀の腕って、繊細なつくりになってるんだ。若鷹同様、器用に物をつかめるし。……ああ、そういえばこいつら人間だったっけ。人外ビジョンだから興味失くしちゃったわー。

 じっと亀の腕を見つめてつらつらとそう考えていると、ぱしんっ、と腕に衝撃が二つ走る。


「触るな」

「兄上…」


 若鷹が亀王子の腕を振り払い、その勢いのまま亀の豪奢な袖を握りしめる(ように見える)。

 あの、私の腕をゲル状で包んでいる奴も貴方の腕を攻撃したんですが、スルーでいいんでしょうか?

 とりあえず奴に一言物申す。


「ナディ、気持ち悪い」

「愛が痛いです」


 いや、ただ君のゲル状の触感が気持ち悪いんだよね。だから放してほしいなー、といつも通り腕抜けをする。だって肌に悪そうだし。スライムって、こう・・・・・・酸性な気がするんだよね。中性ならまあ許せるんだけど、この前ナディが体を分離させて木を溶かしてたから、なるべく触られたくない・・・・・・。体液をコントロールできるだろうとはわかっているんだけどね。


 と月竜国コンビで攻守していたら、後ろが口論していた。

 なんだ煩いと思い振り返ると、ちょうど若鷹が亀王子の袖を振り払っている瞬間を目にする。


「どうして邪魔をするのですか!」


 亀王子が若鷹を激しく糾弾する。

 戸籍上の甥を不快そうに見やる若鷹は、この地に至るまでの彼らしくない。あの国にいたころは、亀王子と共同戦線を張るくらいの仲だったというのに。

 そんな亀に対し、若鷹は舌打ちをしつつ一歩下がる。目は逸らさぬままチキリ…と愛剣を鞘から少し刃を見せ、すぐに抜刀できるよう構えなおした。

 

 物騒な上司の姿に、カワウソは自分の役目を思い出したのか、二人の間に割り込み、体を張る。・・・きゅん。


「団長、やめてください」

「邪魔だジェームズ。細切れになりたいのか?」

「せめて一息にお願いします」

「なぶり殺しに決まってるだろう」


 だがしかしヘタレだった。

 へっぴり腰で負けを宣言している彼だけど、気丈にも目は逸らさずに背後に亀王子をかばう。

 彼に対峙する若鷹は、魔王然としている。・・・・・・まあ、たしかに黒靄の息子なわけで、魔王の息子だから間違いではないのだろうけども。

 これぞ騎士なのかな。

 主人を身を挺してかばう姿は、どこかの児童書の挿絵に扱われていそうだ。

 見事にセオリー。へっぴり腰で足がすくんでいる姿は、少々違うけど。情けない姿だ。



 でも、そういうの嫌いじゃない。

 手助けしたくなってしまうような、そういう心にさせるカワウソは、私よりもずっと勇者にふさわしいのではないかと思う。



 だって、勇者は周りからの力を借りる者のことでしょう?



 私は正義だとか勇者だとかよくわからないけど、なんとなく自分ではそう考えている。

 勇者の仲間になるものは、皆勇者に力を貸す。彼らは嫌々貸すのではなく、最終的には自分の意志で協力するのだ。

 まあ、たまに違う場合……一人ですべてを成し遂げる存在もいるけれども、そこは置いておく。




「のう、勇者」

「何さクルト」


 もういい加減『勇者』と呼ぶのやめてくれないかなあ。

 面倒に思いながらも、兎に向き直ると、彼はこちらを見ずに


「何故お主はそこまで我らと関わろうとしないのだ?」

「・・・・・・」


 そう告げた。

 いつの間にか、彼の視線はこちらを見据えている。どことなく亀王子の視線を髣髴とさせるような、強いもの。生まれとか育ちで培われたものだろうか。

 私は兎の言葉に、すぐ返すことが出来なかった。ぐっとつまり、まるで喉に魚の骨が刺さったかのように、喉元に言葉がとどまる。詰まったかのようなその感覚が不快で、でもどうしようもないことに苛ついた。


「ラキアス殿がお主を慕っているのは明白だろう。

だが、お主はそれを拒絶した。

なぜだ?」


 慕うっていうのは、少々違うと思うよ。

 彼はただ、混乱しているだけ。


「ただ私が、(ラキアス)の手を取りたくなかっただけ」


「それだけか?」


 兎が疑り深い目で探ってくるが、本当のことだ。

 私は、誰かの人生に多大な影響など与えたくはないのだ。

 それが、たとえ友人だとしても。


 脳裏に思い浮かぶ少女の姿に、悼む胸は気のせいだと飲み干して。


 私の答えにようやく満足したのか、兎は低い声で呟いた。


「勝手すぎるのう、お主は」

「それ以上の勝手を押し付けてきた貴方たちには言われたくないよ」


 そう言うと、再び沈黙を選んだ兎は、先ほどまで強い光を有していた瞳を徐々に無機質なものに変えて、王族二人の喧騒に視線を戻した。


 一触即発な空気をしり目に、息子が心配でないのか今度は黒靄が私に話しかけた。


「君は、彼女の望みを知っているのか?」


「それよりも貴方の息子が心配でないの?」

「僕らの息子だから、大丈夫。

それよりも、僕が殺したってどういうことで、彼女の望みって何」


 必死そうな黒靄には悪いんだけど、私が教えることでもないと思うんだけどねえ。


「私は彼女じゃないのだから、知るはずがないでしょう」

「でも君は、あの子の望みを知っていると言っていた」


「彼女の望みなど、貴方が一番知っているんじゃないの?」


 ずっと、彼女の隣にいた黒靄ならすぐわかること。

 約束をたがえたのは黒靄で、でも白靄はコイツの破滅を望んでなくて。


 それよりも、ただただ黒靄と息子(ラキアス)の幸福を願っていた。



 何度この会話を繰り返すのだろうか。

 なんだかもう、疲れてしまった。飽きた。面倒くさい。


 どんなに言葉を重ねようとも、


 『白靄は黒靄に殺された』


 この事実がただ残るだけだというのに。

 認めたくないから、現実から目を逸らしてうずくまって、両手できつく目を瞑って。


 だれが、そんなひとを助けたいと思うの。


「私はね、我儘なの」


 言葉に反応する黒靄は、はっと顔をあげた。


「偽善者と言われてもしょうがないくらい、自分勝手で、自己満足の塊」


「でも、その結果彼女は救われた。

僕と彼女にとって、君は恩人だ」


 口早にそう告げる黒靄は、どこか数刻前とは異なる印象を抱かせた。その彼に、私は首を横に振る。


「恩人でなんてないよ。

 だって、私は君たちを完全に救えてないよ。

 私に力があったら、今この場に白靄(かのじょ)が存在しているはず」


 ああ、『最強』や『万能』が妬ましい。

 私は今もこれからも、その言葉を名乗れるような存在にはなれない。


「ごめんね」


 小さく謝罪の言葉がこぼれる。

 誰への言葉だったのかは、胸に秘めて。


 ふっ、とナディアスに視線を定めて、私は告げた。



「だから、この状況をそっくりそのままにしてさよならしようと思う」




 空気が凍った。

 背後でカワウソの「はあ?!」と叫ぶ声がする。

 どうやら皆、予想外だったらしく、間抜け面をさらしていた。多分彼らは今、イケメン(笑)とでも形容すべき表情なのだろう。

 その中で、唯一表情を変えることはしなかったナディアスは、溜息を一つもらす。


「やっとお決めになられましたか」

「ごめんね、ナディ」


 ずるずる引き伸ばしていた決心を待っててくれてありがとう。

 さっき、帰ろうとしたけれど出鼻をくじかれてしまったせいで、決心が鈍ってしまったのだ。

 もう、この世界の不具合は解決した。あとは、彼ら自身で成し遂げるべきだろう。


 私の想いを知らぬ彼らは、亀と若鷹でさえ諍いを中断し、こちらを見やった。

 先ほどまで私にフォロー(?)を入れていた黒靄が


「君は、僕を殺すために召喚されたんじゃなかったの?」

「先方はそのつもりだったらしいんだけど、私は了承してなかったし、面倒だし」


「最後のが本音でしょう?!」


 背後からカワウソの叫ぶ声がする。

 ははは、勿論じゃないか。



「私がこれ以上干渉しても、意味はないからね」


 私の役割は終わった。

 義理は果たしたし、約束も果たした。



「だから」


「お別れです」




 ナディアスから、まばゆいばかりの光の筋が形成されていく。

 水色、浅葱色、青、藍、紫、緑、白と若干青系統に属した光線が柔らかく、素早く入り乱れて神秘的な空間を作りあげる。

 そうして、収束したそれは、複雑な陣を織りなした。


 誰もが感嘆の息をついてしまいそうなソレにむけ、私は足を進める。



「まて!」


 叫んだのは誰であったか。



 足を踏み入れたと同時に、輝き全てを白光に染め上げた陣に視界を奪われたからわからない。




■ ■ ■


 光が薄れ、消え失せると私は閉じていた瞼を開く。


 私は帰ってきた。


 ようやく、人心地がつけそうだ。


「ただいま」


 眼前のぬいぐるみと大蛇に、そう告げる。

 声が震えてしまったのは、仕方がないと思う。


「おかえりなさい、魔王さま」

「おかえり、魔王様」


 二人のほかにも『おかえり』と言ってくれる声がして、心が軽くなった。

 やっと、帰ってこられる。世界が、私を縛ってくれる。

 『ただいま』と言えば『おかえり』と返してくれる、そんな関係にやっとなれたらしい。

 気恥ずかしいけど、うれしい。


「よかったですね」


「うん・・・・・・・・・・・え?」


 おいおい、こいつは幻覚か?

 もちろん幻覚に決まっているよなあ。


 だがしかし、驚愕の色に染まりあがっているスライムの様子からして、コイツが月竜国(ここ)に存在していることは夢でも幻でもないらしい。


「ちょーっとまて。

騎士団長がどうして私の隣にいるのかな?」


「勇者様…いえ、魔王様のいるところ私ありです!」


 いつのまに、というか何故。

 聞きたいことはいろいろあるが、親子の語らいそっちのけでここにいるのか。

 というよりも、さっきの『まて』は若鷹に対する言葉だったのか?!



 ・・・・・・・・・・・・もういいや、面倒くさい。見なかったことにしよう。




 そうして、私は現実から生じる諸問題から目を逸らすことに決めた。

 背後にすり寄るレオンに体を預け、もふもふに心をいやすことに決めた。



 だから、背後でコントをしているスライムと若鷹の姿などは見えない。見えないったら見えないのだ。










 ふと、視線を床に落とすと見覚えのある銀色が。脳裏に駆け巡る固有名詞に、思わず声をあげてしまう。


「…………あ、」

「どうしました、魔王様?」


 勇者の武器(スケルトン)持ってきちゃった。



おわったああああああああああ!

勇者編やっとこさ終わったよ!

でも伏線回収しなきゃいけないんだよ。

次は、『残念な(仮)』の短編をアップして、番外編を二つほど入れたらまた一話単位で終了する話を書く感じです。


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