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発つ魔王様、あとを濁さず2

 ・・・と言ったが、意趣返しなんてしてる暇があるならさっさとこの国から去るべきだよね。なんてったって、不法侵入してるんだし。


「まあ、とりあえず結論だけ述べるね。

 私が干渉したのは、貴方の恋人だよ」


 黒靄が引き攣る。それまでの彼の体表はもわああああ…と揺れ動いていたのに、それが一切なくなった。


「・・・・・・冗談だよね?」

「まっさかー☆」


 巫子の白兎が何とも言えない表情でこちらを見ている。視線が痛い。

 亀王子はいつもの読めない腹黒そうな笑顔を浮かべていた。コッチミンナ。


「あのー、ユウ様?もしかして時間軸に干渉したとか言いませんよね、大丈夫ですよね」

「HAHAHA、そんなわけないじゃーん。時間軸に干渉してたら、今私はこの場にいないでしょー?」

「その軽さに不安が募るのは俺だけっすか…?」


 失礼なジェームズ。カワウソはカワウソらしく私を和ませてればいいのだよ。

 実に頭痛をこらえているかのような仕草をとる彼らに、そんなに私は信用ならないかと少々落ち込む。

 その間に、一言も言葉を発しない若鷹をちらりと眺めると、なんとも無表情。うーむ、君は当事者なんだからもう少し興味を抱いてくれないと困るんだけどねえ。

 私の視線に気づいたのか、彼はこちらをちらりと見てふわりと微笑した。……ちょちょちょい、花を飛ばしてどうすんのー?


「勇者様、俺に何か?」

 何故微笑むし。とか聞いたらさらに脱線しそうだから、ぐっとこらえて本題に入る。


「ラキアス、貴方の父親は誰か知っている?」


 空気が凍った。

 特に亀と兎の表情が特に顕著で、警戒している。うーむ、これって国家機密?一応、ジェームズ(カワウソ)には恨みがないからあまり危険には巻き込みたくはないんだけれども。……まあ仕方ないか、許しておくれ。


「私の父親ですか?

 先代の国王だと聞いておりますが?」


 不思議そうに首を傾ける若鷹だが、どうやら何か勘付いているらしい。戸惑いの向こうに何か隠しているようだ。さすーが、上層部。駆け引きがお上手ですこと。何を隠しているのか知らないけれど、まあこれからの会話に衝撃を受ければいいよ。


「で、実際どうなのクルト」


 白に近い服が幽かに揺れた。王子からの鋭い視線が、彼女…否、彼を襲う。

 彼には知る権利があるんだし、そうまでして隠すことでもないでしょう?


 それに、もうすでに彼は気付いているんだし。


「国王だ。……今代の」


 はい、白状ありがとう。私の視線に屈したのか、細い声でつぶやく。

 王子は「余計なことを」と吐き捨て、クルトをきつくにらんだ。

 国民のジェームズは驚愕の色を纏う。だって、それは・・・・とこぼした彼は、はっと口を堅く結んだ。


 そうなんだよねー。

 王族の血の流れていない男の息子、ってことなんだよねー。


 ジェームズはちらりと若鷹を見た。しかしそのつぶらな眼には今までと同じ色しか浮かんでいない。

 うんー、なーる。カワウソは若鷹自身しか見ていなかったってわけね。だから、若鷹の出生がどうであっても向ける気持ちは変わらないと。私は若鷹の、軍内における人望がわかる気がした。

 人はさ、身分が変わることに露骨な反応するんだよね。それが身分を伴う感情のむけ方をしていたら尚更。でも、それがなかった。なんというか、凄く部下に恵まれてるよね。


 そんな当のラキアスはというと、少々驚いた顔をしていた。

 うんー?もしかして、先代の国王の子でないのは知っててけど、ってオチ?・・・・・・なんで知ってんの。


「もしかして、知ってたの?」

「なんとなくですが。まあそれが国王とは思いませんでしたが。

 先代にまったく似ていないこれで自覚していたんですよ」


「これ?」

「勇者様、これ以上はもう」


 亀王子が割り込む。

 せっかくいい気分で話してたのに、邪魔する気?


「いい、王子。勇者様には知る権利がある」


 そんなのねえよ、カワウソが小さく突っ込んだ。それはまあ私も同感かな。だって私当事者じゃないし。そう思ったらゾクリとした。なんだと視線を彷徨わせると、ガンつけるスライム。おいおい、野生のスライムじゃないんだから。


「私の肌、白すぎると思いませんでしたか?わが国は確かに肌が白い人が多いです。しかし、これは常軌を逸している。母もそれは同様だったそうですが、基本的に遺伝子は父親が勝ります。特にわが国では体色は必ず父親のものになるんです。それに、髪色も先代とは異なります」

 ぽつりと呟いたラキアスに、私は(ビーンゴ…)と内心で拳を握る。

 予想が当たるとうれしいものね。


「…母親って?」

「私の母は、人ではないと聞いています。詳しいことはわかりませんが、私を生んですぐに姿をくらませたとしか…」

「どんな姿をしていたか、聞いたことがある?」

「?ええ、それはまあ…。

 全体的に白い人だったそうです。髪も肌も爪も白い……まるで雪のような女性だったそうです。」


「瞳は」


 黒靄が食いついた。カタカタと震えている。


「紅色だが」


 少々警戒しながらも、若鷹は律儀に答えた。

 ふふふっ、気づいたか。


「まさか、君は」


 『なん、だ、と・・・?!』というに相応しい黒靄に、笑いが止まらない。

 そうだよ、あなたの大好きな『彼女』の息子よ。更に付け加えてあげようか。


「貴方の息子でもあるけれどね」

「むすこ」


 私は嬉々として事実を告げた。黒靄はおうむ返しにつぶやく。

 唖然とした空気が気持ちいい。意趣返し、というわけではないけれど、彼らの認識をことごとく覆せたことってすっきりするわー。

 性格が悪い?知ってるよもちろん。

 でもさあ、よく考えてよ。性格が悪くなきゃ、生きていけないんだよこんな世界では。

 お人よしが生き抜いていけるなんて、本当に少ないパーセンテージなんだよ?

 私が生きているのは、そんな都合のいい世界でもないんだよ?


 だから、仕方がないでしょう?



 信じられないというように、ラキアスを凝視する黒靄に笑いが止まらない。


「よく思い出してみなよ。

 さっき、あなたの術を消したのは誰?」


 亀は先ほど、『兄上は溶解系?』といった。つまり、若鷹が何らかの行為をとって黒ドームを消したことになる。


「彼の肌はどうなってる?」


 私には見えないけれど、彼の肌は雪色なんでしょう?


「髪は。顔立ちは。」



 気づいた?

 黒靄は仮面を床に落とした。彼を形作る靄が歪んで、その心情を物語る。

 若鷹にゆっくりと近づき、その正面に立つ。

 検分するかのように、彼から目を離さず、記憶に強く残る少女と照らし合わせているのだろう、自分らとの類似点を必死に探していた。

 ばかだなあ、そんなにしなくとも、もう気づいているのでしょうに。

 信じたいのに、信じられない。

 そんな、余裕のない黒靄はそれまでの憎たらしい態度からかけ離れた姿だった。


 気が済んだのか、強い視線を引っ込めて黒靄は若鷹に伝えた。


「君は、僕の…、僕らの息子だ」


 涙をこらえられないといった、すすり声で、一筋の希望を捕まえたかのような声色で、呟いた。

 そうして、そのまま若鷹へと腕を伸ばし、絡める。戸惑うラキアスを無視して、黒靄は感無量といったふうにつぶやく。


「彼女と僕の息子がいたなんて…」


 どうして、


 そこまで言ったところで、黒靄ははっとこちらを振り向く。

 あ、気づいた?

 そうだよ、私の干渉のせいですね。


 それとも「何故」ってことのほうが近いのかなあ?



ひと月すみませんでしたー

そしてまだ終わりませんでしたー


いい加減終わらないかなあ…?





えーと、複線回収しました。

たぶん詳しい説明は番外編あたりでしますね。

これから先はまあ、ねえ、とか言ってみる。

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