あんぐりー魔王様
怒っている魔王様です。
これで怒ってるんです、彼女。
「私は認めない」
私が否定するとともに、黒靄の周囲は線で囲まれる。幾重もの線は、陣を成したかのように複雑に組み合わさる。
それを無関心に眺める黒靄は
「貴女が認めなくとも、過去は覆されない。
魔王の力を持ってしても、それは難しいんだよ。」
そう否定した。失笑したような、暗い響き。でも、貴方は何もわかってないよ。
魔王の力。
それは、干渉する力。
自然だったり、術式だったりと対象は定まらない。だが『時』のみ干渉は禁止とされる。
過去を変えれば、現在に支障をきたす。自然を操ることは生態系さえ狂わせることだというのに、『時』のみ禁止されるのはとても不条理なものだよね。
でも、私は「月の狭間で微睡む竜の国」の領主。
付け加えると、異界からの流れ者。世界の秩序なんて知ったことではない。
……守る道理などないさ。でも、郷に入っては郷に従わなければならないというか――――――ああ、けっしてお涙ちょうだいの熱血初心者小説の主人公みたいな行動はしたくないと思っていたのに。
腹立たしい。
低俗な主人公みたいな思考回路をまねるわけではないけれど、時を戻す以外での解決策を講じなければならないのだ。
偽善者みたいで本当に嫌。
「過去を覆せないんじゃないよ。ただ覆さないだけ。」
どこか三下のような発言。『今日のところは見逃してやる。覚えとけよ!』とでも言い捨てて逃げるべきだろうか。くだらない考えに失笑する。
でも事実なんだよなあ。
まあそんなことより気になってることがあるんだけれども
「貴方に答えを返されていないのだけれど、結局貴方はどうしたいわけ。」
ざらにもなく説得するような発言をかましたわけですが、それに対してノーコメントとかねえ?紳士の風上にも置けないやつだと思う。リア充めギリギリ、とでも言うべき?
「この状況でそれを聞くのかい?」
あきれたような響きをする黒靄。ですよねー。思いっきり陣の中で身動きが取れない状況ですものね。
でも、疑問をそのままにしておくのって、どこか虫の居心地が悪いというか。どんな未来予想図を描いていようとも、結局は断るけれども、気になるものは気になるのだ。
「まあいいけどさ。
初めに、君に役目を押し付けた国を消すよ。……今回の発端は全てあの国だからね。しかも首謀者は王族で黒幕は前国王。」
本気であの国救いようがないな。
どこか呪われた血でも流れてるんじゃないの?
「そう、わかった。」
決めた。
やっぱり『時に干渉』する。
時は戻さない。
でも、過去のある時点に干渉する。
その干渉を決めるのは私ではないからどうなるかわからないけれど、それでも黒竜国の魔王にやさしくなるような結末への布石が作られるように
わたしは、この力をつかうよ。
◆◆◆◆◆
『どうする?あなたは否定する?』
『<諾>もしくは<否>の返答をくださいな』
『ご利用ありがとうございます。
これにて、あなたの現状は<否定>されました。』
◆◆◆◆◆
『<選択を受諾>』
その言葉と共に、黒靄の周囲に張り巡らされた光の筋の集まりは消えうせる。
「……どういうことだい。
君は、何に干渉した?」
「そのうち判るんじゃない?」
言うまでもないことだよ。
きっと、現れるから。
彼女の証が。
狼狽える黒靄に気分を良くした私は、せっかくだし種明かしをしてあげようと口を開いた瞬間、
――――――――じょわああああああああ・・・・・・
「「・・・・・・」」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」
「兄上は溶解系?」
「「何で溶けたの?!」」
黒い魔王と私のツッコミが重なった。
ついでに一人増えてない?!
見覚えのあるゲル状の物体がいるんですけど……。
うん、とりあえず感動の対面が最悪な結果に陥ったってことは判った。
また続きます。
すぐに続きを上げられそうです(^O^)/