うぉんてっど魔王様
お久しぶりです。
今回は外側の話です。最初から最後までコメディです。
◇ジェームズの苦悩、黒ドームの外側では◇
魔王同士が語らっているその外側では、待機組が破壊行動に勤しんでいた。
彼らの眼前に浮かび上がった黒い空間は、彼らの渾身の攻撃にも耐えている。某有名な灰被りの少女並に無言で耐え続けている。
憎き黒ドームをラキアスは血走った目で睨みすえる。
「私ですら勇者様と二人っきりになったことがないというのに……!」
「何言ってやがるんですか」
ラキアスの言葉にジェームズは適切な言葉を返す。
先ほど魔王が展開した術式により勇者と遮断されてしまったラキアスは落ち着きが失せていた。その苛つきは今や嫉妬へと変貌しつつある。
魔王と勇者の恋愛物語、なんて巷の御嬢さんにもてはやされるお題であろうか。人外レベルの超美形と、片や美形とは言えない少女の身分差・種族差を超えた純愛ストーリー ―――――――――――― 一目見て惹かれあう男女。しかし勇者と魔王というお互いの宿命からは逃れられない…愛した相手が死ななければならないというのなら、せめて私に手をかけさせて……。勇者ver、魔王ver、同時発売中、とかね。勇者を密かに愛する騎士……とか作中に出てたら尚良し。
…………ああ、今この状況で血走った眼をした上司がいなければすぐにでも書店に並びたい。
ジェームズはつらつらと現実逃避をした。だって団長怖い。普段無表情な分、余計に怖い。
「うーむ、火精霊の炎でも焼ききれんとはのう」
「焼いちゃだめでしょう?!勇者様ごと丸焼きになりますから!」
クルトの言葉にジェームズは適切な言葉を返す。
彼は先ほどから黒ドームを召喚獣たちの手を借りてどうにかしようとしていたが、いつの間にか手段を選ばないようになっていた。火精霊は召喚獣のレベルですらない。
白に近い巫女服の正装を身に纏う彼は、小首をかしげた。……可愛いよ、可愛いんだけど、やっていることがえげつない。火精霊の火なんて、一秒の燃焼で町が一個滅びる火力ですよね。というか何故呼び出せたし。
こんなことを言ってはいけないのは判っているが、黒ドーム頑張ってくれ…。勇者様を守ってくれ。
「ならドラゴンブレスしてみようか?」
「ドラゴンブレスは猛毒成分が含まれているでしょうがーーーーー!
いくらあなたに効かなかろうが、ここには凡人もいることを忘れないでください!」
朗らかな王子の提案にジェームズは常識を持てと叫ぶ。
先ほどから王子の笑顔が甚だしい。悪巧みしてます、な悪役顔だ。ゆえにジェームズは彼を一番警戒していた。実は、王子は国において最重要危険人物のひとりであったのだ。ちなみにラキアスとクルトもそれに含まれている。危険人物故に、この三人は常に監視対象だ。ジェームズは今現在、実質一人でこの三人の監視役をしているのだ。ついでにツッコミ役も兼任している。
普段はお付の者たちでさりげなく監視も兼任しているというのに、只今の状況は如何に。特別手当を貰わなくてはやってられない。実に不憫だ。
そんな彼は、ふと先ほどの会話を思い出した。
(・・・・・・・・・・・・あれ、今ドラゴンブレスとか言った奴いたよね。
ドラゴンブレスって、人の口から吐けるものなの?)
ドラゴンブレス
種族名・ドラゴンの攻撃手段の一つ。そのドラゴンの族(日、水、土、風、光、闇など)に応じたブレス。(例・水龍→水属性のドラゴンブレス)。下位ドラゴンでも、そのブレスには猛毒が含まれている。
どう考えても人間の口から放出されるものではない。
「・・・・・・吐けるんですか?」
「なんかできちゃった」
(とても軽いノリですねありがとうございます、もう嫌だこの国の王族問題児ばっかり普通の王族に仕えたい。)
ジェームズは転職を考えた。
<選択を受諾>
「今何か聞こえた?」
王子の言葉に緊張が走る。
「この中で何かがあったのでしょう。勇者の身に何か・・・・・?」
クルトの言葉にラキアスは表情を失い、ふらりと黒ドームに近づく。
依然としてその形状を保っている保護壁に、彼がおもむろに触れようとしたとき……
―――――ぱき・・・ん
背後で転送魔法特有の術式が広げられた。
四人は緊張しつつも各々の武器を構えなおす。ラキアスはその場から離れ、持ち場に着く。
緊張で張りつめた中、中心にいる人物が声を発した。
「ここですか」
うっすらと輝く陣の内から、その光を反射する銀色の髪を持つ男が現れた。四人はまぶしさにうっすらと目を細める。
銀色の男は腰まで届く長い髪を下の方でくくっており、この世界ではついぞ見たことがない髪留めをしていた。更に驚くのは、その美貌であった。ラキアスに慣れていた彼ら三人であっても、系統の違う美形であるため、魔王の時と同様に目が逸らせない。
侵入者は4人の視線を浴びながらも気にせず、凍りつくような水面の色を有した瞳を室内に巡らす。
「エンジェ?」
「まさか!エンジェは紫色の眼のはず…」
「どちらにせよ、あの美貌は人間ではないだろう……」
「誰だ」
混乱に陥った三人は総スルーで、人間でありつつも人外レベルのご尊顔をお持ちなラキアスは侵入者に問いかける。
(敵ならば切り捨てるまで)
愛用の剣を握り直し、ラキアスは男と対峙する。
しかし侵入者は不可解なものを見るように視線を彼らに向けた。
「貴方たちこそ何者ですか?私は忙しいのですから、邪魔するのであれば去ってください。」
「目的は?」
「それを言う必要があると?
・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そこにいらしたのですね」
ラキアスの問いにも視線を合わせようともせずに、室内を見回していた男はふと黒ドームに目を留め、微笑んだ。
「いけない人だ。こんなにも私を振り回す」
くつくつと嗤う男に、ジェームズは
(やばい、勇者様逃げろ!)
本能からの警告だろうか。何故か勇者である彼女に警告を飛ばしたくなった。本当に何故だろう。
笑いを収めた男がドームに近づいたところで、ラキアスがそれを阻止しようとする。
「彼女の関係者か?」
「彼女?たかが人間があの方を『彼女』呼ばわりですか。」
嘲笑する男に、ラキアスはさらに表情をそぎ落とす。
「彼女の関係者かと聞いているんだ」
「ええ、勿論ですよ。あの方は私の大切なお方…………私はあの方のためならば、いかなることも致しましょう。
あの方の幸せこそ、私の喜び!」
侵入者は素敵な笑顔で宣言した。
(あっれー、どっかできいたセリフだなあ)
ジェームズは遠い目をする。ふふ、つい最近自分の上司から聞いたような気がする。デジャヴ率はんぱねぇ。
「そうか。だが、あの方を想う気持ちは負けん!」
「はっ、ぽっと出の青二才が私に敵うわけがないでしょう!」
わーお、低俗な争い。
もしかして魔王と勇者の恋物語じゃなくて、勇者と騎士と謎の男(勇者と知り合い)の三角関係だったのだろうか。それは意外性を求める巷の乙女に人気でしょうがね。
ジェームズは再び現実逃避をした。
「っと、こんなことをしている場合ではありませんね。」
侵入者の男は、ラキアスと睨みあっていた状況をあっさりと打消し、ドームへとまっすぐに歩いて行った。そして触れるが、やはりドームは沈黙したままだ。
「さっきからそれのせいで勇者様に会えない」
「勇者?……ああ、あの方ね」
侵入者は変な顔をした。しかし美形とは得である。そんな顔をしても美形には変わりない。・・・・・・・・・・・・あはは、ビケイハホロベ。
ぺしぺしとドームを叩く男につられ、ラキアスもドームに触れる。
―――――――――じょわああああああああああああ……!
ドームが溶解した。
「「「「……………………。」」」」
「兄上は溶解系?」
王子は真顔で呟いた。
ビケイハ~は、カワウソのセリフです☆
今回はどれだけ美形描写を使わないかに尽力しました。
あ、侵入者はもちろんスライムの彼です。
ナディ登場は美形描写を最初の方だけしましたが、それ以降は頑張って削りました←
個人的に若鷹が沢山活躍できてうれしいです。