魔王様はようやく勇者として出陣しました
今回は長いです。そして早めに投下できました。やっほーい!
途中で「みーつ・・・・・?!」となりそうです。
「あと少しで魔王城に到着だ。皆、油断は禁物だ。
気を引き締めて行こう!」
こんにちは。こちらでは灰色の雲が頭上を覆っています。
皆さま如何お過ごしでしょうか。このたび、勇者ポジションが付加された魔王です。
只今、同族狩りに駆り出されてます。
◇もはや誰が勇者だ◇
普通、仲間を鼓舞するのは勇者の役目かと存じ上げますが、このパーティーでは亀王子がその役目を担っているようです。私としてはリーダーシップをしたくないのでどうでもいいですが。
そして二度目の自己アピールですが、もふもふ分の足りない魔王です。決して『勇者』ではありません。ええ、RPG勇者ゲームで必ず主人公に苛っとしていた私が勇者なわけないじゃないですか。クールイケメンキャラにキャラ崩壊上等で『きゃあきゃあ』してましたが何か。熱血とか、うじうじしたのって嫌いなんですよね。ほら、主人公って一番心理描写されるじゃないですか。どうせなら無口キャラとか、そういったキャラの心理描写がいい。きっとうじうじしてないだろうし。…え、偏見?きっと『思い込み』ってやつですよ。その葛藤が魅力の一つと言われてしまえばそれまでなんだけど、好みって人によりけりだし、とか言い訳してみる。
とまあ、私が勇者ではないと 「勇者様、そろそろ作戦会議をしたいので」 …………違うんだよこれは…そう、あだ名なんだ。
「お主、そろそろ現実世界に帰ってこい」
バニー巫子がぱしーんと私の頭を叩く。その手にある扇はどっから出した。
「クルト、何で女装してるの?」
「今更だなおい!」
カワウソ・ジェームズが叫ぶ。いや、だってねぇ?扇はそういうものだとしておくにせよ、女装…否、巫女服ってどうなのよ。
真っ白でふわふわな毛皮を淡い水色のRPGゲームに出てくる巫女さんが着ているような絹で隠している。両袖にはぐるりと紐が通してあって、それぞれに銀色の鈴がついてる。動くたびに軽やかな音を立てるそれは、魔よけの役割も担っているとか。
なかなか鋭い爪のある指にはどうやってついているのかわからないけれども指輪がついており、さらに手首には繊細な模様が施されたバングルを嵌めている。巫子の衣装だけで豪華な屋敷が一軒買えるとか、この世界において彼が重要な役割についていることを知らしめるのに十分だった。宗教の権力凄い。
そんな宗教権力の強い神殿がどうして国王一家に跪いてはいるが服従していないかというと、彼らの崇める神が王族の守護神の子供だからだそうな。『え、それだけ?』と思わなくもないが、これがまた重要なことだと。
もしも神殿で崇めているのが王族の守護神だったら、神殿は王族に服従していると採れる。王族のために存在する宗教だと。つまり神殿の代表者は王族しかなれないことになってしまう。
この世界は私からしてファンタジーであるから、神殿に使えるものしか使えない能力がある。
じゃあその能力を王族が所持していなかったら?
となると、『神殿=神聖な力』の構造が崩れてしまう。
そもそも、神官になれるのは 特 別 な力が必要であり、それには身分も何も関係ない。この力は突発的なもので力を持った者の子が必ずしも力を得ることはなく、神殿内には親の身分が多種多様である。神殿内において親の身分など関係ないが、事実であるために皆淡々とそれを口にする。敬ってほしいわけではないが、聞かれたから只答えるような、そういった態度。
ただ『国民である』この条件を満たしていれば、力持つ者なら誰でも神官になれる。もちろん拒否も可能である。しかし力を持った彼らは希少であり、給与も普通に働くよりも多くの金を得られるとあり、基本的に歴史上の数人を除いて辞退する者はいないそうだ。
この世界は、宗教と王権の分離が基本的だ。宗教は政治に関われないのは周知の事実であり、それを破る者は死あるのみ。
この世界における宗教は民衆のよりどころであり、一種の医者的な役割である。神官の持っている特別な力とは『医学では治せない怪我や病』を直すための力であり、逆に『医学で治せる病気や病は、特別な力では癒せない』という。だから神官は誰も驕れない。驕ればその矛先は自分に帰ってくる。自分が怪我をしたとき、病を得たとき、誰も助けてくれないのだ。それは死ぬまで続くという。
その神殿の中でも狸の次に位の高いクルトは、出会った時からずっと女性ものの衣装を身に着けていた。色々なバリエーションがあるけれど、色とかは全部同じ。装飾品とかで印象を変えるとか本人は言っていた。
「この格好か?これは戒めだ。
私は二度と還俗しないという、な……」
シリアスやめて。これはギャグなのよ。小説タグにおける『過去に影』みたいな話とかやめて。それ確実にヒロインの相手役とか、恋愛陣の定義だから。それに女装が戒めなんて聞いたことがない。
(※この話に恋愛を求めてはいけません)
恋愛…ああ、そういえばクルトが前に若鷹に恋しても無意味とか言ってたよね。それってつまり、二重苦の恋に苦しんでるから……?!
「……クルト、私は応援する。
たとえ生涯独身を貫かなきゃならなくても、相手が同性でも、好きなものは好きなんだよね!」
「一遍お主の頭を覗かせてみてくれんか?……大丈夫。痛みは一瞬じゃから」
「さわやかに殺害予告出さないでください!」
真顔のクルトに愛らしいカワウソが叫ぶ。しかし兎はシカトし、私に声を荒げる。何故だ。
「そもそもな、相手が同性ってどういうことだ!」
「いや、だってクルト前に言っててじゃん」
「言うわけなかろう!」
「自分がいるから騎士団長に恋しても無駄だって。」
「どんな解釈したらその思考回路になるんだ?!」
「ねえ、それって前二人が逢引してた時のこと?」
亀が会話に加わる。
あのさ、私の野生の勘が貴方様に近寄るなと言ってるんだけど、どうして?いやね、ジェームズも『やばい、あれはやばい。喰われたくなかったら勇者様は二人きりにならないほうがいいです!』とか言ってたんだけどね。私はかわいい子の味方だから必要以上に近寄ってないけどさ…
「逢引って……それって知人のいないところでするもんでしょう。どう考えてもあそこはそんな場所じゃないですよね」
メイドさんとか、城で働いている人や貴族の方などが通る渡り廊下(1F)だった。
「だって、男と女が二人きりで熱く語らってるんだよ?これのどこが逢引じゃないっていうのさ」
「まず、私とクルトにそういった男女の関係を求めないでください」
兎と恋愛はごめんだ。観賞用としては好きだが、尻尾に蛇が生えているし、なにより種族を超えた愛っていうのは御免こうむる。もう贅沢は言わないから、地球人と結婚したい。「国際結婚?遠慮こうむる」とかもう言わないから、せめて地球人がいい。
そもそもさあ、クルトってかなりの美少年なんでしょ?なら相手はより取り見取りなわけだし、彼らからして『異世界人』という価値しかない私に恋愛感情を抱くのって、ありえないし損しかない。自分たちの常識を全く知らない女のどこに惚れる要素があるのか判らない。「初々しい」所、と言われたら、その世界の生娘はどうなるのさ、と思う。『姿かたちが珍しい』だったら、それは私を人間としてではなく『観賞用』としての価値しか見出してない、ってことだよね。
「男女関係を一つの形しか知らないのって、王子は悲しい人なんですね」
私の内心の変化に、王子は片眉を上げた。
でも、私は自分の考えを撤回しないし、したくない。二人で話したから恋人だ。ご飯を食べに二人で行ったから恋人だ。―――そういうのって、かなり失礼なことじゃないかな。
男女関係って、どうして恋愛としか結びつかないんだろう。上司と部下の関係とか、友人関係とかあるじゃないか。
「じゃあ、君が教えてくれるの?」
亀王子が私の眼を凝視して呟く。ちょっと近くありません?
「今の関係がそうじゃないですか。……勇者パーティーの仲間でしょう?
この旅が終わっても、この関係は変わりませんし」
「そう、だね……」
亀の声が小さくなった。
◇ちょっと離れたところでのカワウソと若鷹◇
「俺、アレ知ってます。フラグクラッシャーっていうんですよね」
「フラグ?」
「恋愛におけるきっかけみたいなやつです。今巷で人気の恋愛シュミレーションゲームにおける特殊用語です」
「何故それを知ってるんだ…?」
「俺の親友がそれを好きだからです。『三次元より二次元の嫁』とか言ってました」
「あの顔でか…人は見た目によらないな」
「俺からしたら残念な美形ですけどね。
…団長は勇者様とフラグたてに行かないんですか?」
「私の場合は恋愛感情じゃないからな、どっちかというと主従関係と言ったほうが正しい」
「残念な美形がここにも!
…ていうか団長、確か騎士団の就任式で『国のために戦う』とか言ってませんでしたっけ?!」
「大義名分て大事だよな。……本音の隠れ蓑として」
「国家に背くとか本気でやめてください!」
◇魔王様に戻ります◇
この勇者一行のおかしなところは、イベント総スルーで魔王城に向かっているところです。
王子に聞くと、『そんなことやってる暇あるわけないでしょ。迅速に根源を叩き潰さなきゃね。少数の人間と世界の人間、どっちをとるかなんて考えるまでもないよね。』
冷たい発言だなあと思っていたら、若鷹が詳しく説明してくれた。そういう村の願いって魔物討伐だから、一匹ずつ倒すよりも 頭を倒したほうが早いという。魔物は魔王の力の一部だから、魔王を倒せばいなくなるという。水道の水が流れていたら元栓を閉めましょう、という原理か。それにしても王子の言葉は酷い。
というわけで行路省略して現在魔王城です。クルトのテレポートでやってきました。王城からテレポートで行ける範囲まで、というようにした結果、魔王城の入り口付近に着地完了。結界が張ってあるらしく、最終決戦の場にどーん!と現れることはできないという。それはそうだよね。
てなわけで城の入り口から侵入開始で、只今中間地点位かな。後残すところ魔王のみ、という立場によっては「この賊め…!」と歯ぎしりしたくなるほどの快進撃っぷり。私は全く戦っておりませんが。
主に王族たちが戦っている。ジェームズは私と一緒に後方支援という名の見学者。
そうして魔王退治が、ハジマル。
本当は、こんなことしていいのか判らない。
周囲に嵌められたとはいえ、結局は自分の意志を持って『魔王』となった私が、このセカイの『魔 王』を倒していいのか。
だって、私に何の関係もないのだから。
私が得られたのは人間側からの情報で、魔王側の都合は一切ない。
私が存在を認められた世界での人間たちも、魔 族 側を自分たちの情報で決めつけて隙あらば滅ぼそうとする。
確かに、私たちの中には人間を主食にする者もいる。それは肉であれ血であれ精であれ、食べていることに変わりはないから、言い訳はしない。
でもね、少し考えてみてよ。
貴方たちだって私たちを食べるじゃない。
人魚は、不老不死の霊薬として
ドラゴンは、貴方たちの身勝手な薬の一部や家畜として
ダークエルフは、貴方たちの慰み者として
貴方たちに喰われているじゃない。
これのどこが私たちと違うというの?
人魚は人を惑わす?
貴方たちは知らないでしょう、彼女たちは海を慰めているのだと。
彼女たちの歌なくば、海は荒れ別の大陸へ渡ることさえ出来はしない。
陸の生き物を守っている彼女たちを、どうして食べることができるの?
ドラゴンは凶暴?
彼らは理知的で、自分達を辱める者にしか攻撃しない。
貴方たちは誇りある彼らから報いを受けているだけ。
仲間を家畜にされたドラゴンの怒りを受けるのは当然でしょう?
ダークエルフは悪?
彼らが何をしたというの?
ただ彼らはエルフたちとは異なる風貌と文化があるだけじゃない。
それなのにどうして貴方たちの 奴 隷 にされてしまうの?
それでも私は言わないのだ。
これは私が新たに存在を許された世界における事実。
この世界では、まったく異なるかもしれないから。
これ以上関わってはならないだろうから、もう帰りたい。
二度の記憶の欠落を、もうしたくないのだから。
だからもう、サヨナラしたいのだ。
この世界に私の居場所が作られる前に。
しりぎれとんぼ!
なんかですね、後半は魔王様の、「魔王」でいられる世界の迫害される存在の説明です。
立場によっては「正しい」ことが、逆の立場の人からすると「正しくない」ことになりますよね。
「正しくない」からといって、「間違っている」訳ではないこともありますが。
そんな矛盾…いや、迫害されてしまう側の実態を知っている魔王様が、「魔王」の世界でのことを思い出して語る……っていうのが今回です。
「言わない」のが、魔王様らしいんですよね。
彼女は『関わらない』ことを主軸に、「勇者」の世界で生きようとしています。
だから、「勇者」の世界では何も学ぼうとしないし、理解したくない。だって、理解してしまったら、ここに「存在する居場所」を求めてしまいたくなるから。
逆に、「魔王」の世界では学ぶし、理解しようとする。
もう「存在する居場所」が無くなり、「その世界しか受け入れてくれないから」
なんだか若干ねたばれっぽくなってしまいました……まあいっか。しかし初期の軽さが消え失せてしまったな…どんどん重たくなってくるw
…………本当は二人の会話で終わってたんですけど、なんだか物足りなくなってしまい。こんな長さに。
後悔はしていない!
長い方が好きな人への、感謝です。
短いのが好きな人はごめんなさい!