魔王様、勇者になる?
今回もあまり間隔を開けずに出せてよかったです。
「勇者様、どうか我らの世界をお救いください……!!!」
いや私、魔王ですから。
初っ端からツッコミ満載ですみません。
ジョブチェンジしそうになってる魔王です。
『何が起きた』
この一言に尽きます。
事態は数刻前に遡ります。
◇こんにちは異世界。……異世界?◇
会議中に足元から魔方陣が現れて気づいたらこの場所に居ました、以上。
説明になってない?
大丈夫。私も説明ができるほど状況確認ができてない!
だって考えても見てくれ。
『会議中』だよ。
何者も邪魔できぬように厳戒態勢を―――つまり私とか国の重要人物に対する警護をしていたにも関わらず異世界召喚とは、これ如何。
しかも魔王召喚とかなんだ。おい、どこのサバトだ。
召喚特有の視界妨害で視界が真っ白に染まり、晴れた。
ぐるりと見渡すと―――――ヲイヲイこいつぁまたどっかの魔界かこん畜生。
やっぱり人間はいませんでした☆
うん、わかってた。でもね、期待してもいいだろう?
そして……
「勇者様………術式は成功したぞーー!」
……勇者?
状況確認のために相手の話を口を挟まず聞いてみると、
この国は今、世界規模の脅威が襲ってるらしい。
それを回避するために勇者―――つまり私を呼んだという。
これはあれか。
私は異世界召喚の『魔王』と『勇者』ルートをコンプしたことになるのか。もしかして異世界召喚のすべてのルートをコンプする運命にあるのか?マジでかふざけんな。
で、脅威は何かというと…………闇を好み、他の種族を厭う存在だそうです。
「凡庸な娘、貴様はとにかく我らに力をかせ」
兎な巫女姫が一段高い椅子の上から頬づえをついて頼み込む。
……兎って、もっとこう―――癒し系じゃなかったっけ?
どうしてかな、殴りたくなるんだけど
その姿に冷や汗を流しているのは、多分神官長だと思わせる狸。
(マジ誰かこの女どうにかして!人にものを頼むって姿勢を誰か教えてやって!)
こんな心の叫びが聞こえてきそうだ。
この手のたぬきって、もっとこう―――狡猾なんじゃないか。
利権にむさぼるっていうかさ。
あの兎、こっちが断るなんて思っていないみたいだ。
まあ、断られたら脅せば済むと思ってるんだろうなあ…つかこの剣先を四方八方から向けられた状況で断る奴なんて普通はいない、ね。
あいわかった。
「遠慮します」
あえて断ろう!
「衛兵、斬れ「斬って良いの?」…なに?」
兵士の動きが止まる。
兎は私の言葉にかかった。
「貴方たちは、私がここに誘拐されてきたのを『成功した』と言った。
それはつまりこの誘拐が成功する見込みが薄いこと。その成功例をみすみす殺してもいいのか聞いているのだけど」
狸が兵士たちに目をやり、刃物を私から遠ざける。
狸は曲がりなりにもかなり位の高い者のようだ。兎とどっちが高位なのかわからない。私の疑問を知らず、兎は続ける。
「―――――面白いことを言うが、それなら貴様を斬った後また召喚すればいいだけだ」
「じゃあ何故そこの者が兵士を下がらせた。
つまり、私の言ってることが正しいのだろう?」
狸は数度口を開閉させる。それは金魚の呼吸によく似ていた。
きっと、「しまった」とでも思っているのだろう。
しかし兎は口角を上げ、続ける。
「ならば、成功するまで続ければよいだろう?」
くすり、くすり。
尻尾が蛇の兎は嗤う。
お前は逃げられないのだよ、と。
尾の蛇も、どこか嘲笑っているかのようにうねうねと蠢く。
良い性格してるじゃない。
流石、支配者として君臨しているとそこらの奴とは違うね。
でも、
「それをする時間と労力はあるの?」
これくらい気づいてるんだよ。
異世界召喚なんて不確かなものに頼るってことは、それほど状況が切迫してるってこと。
新たに誘拐する暇はないだろうし、時間があるのであれば限界までそれに力を入れるのであれば国の防衛に力を割くのが当たり前だ。
地盤(国防)が悪ければ勝てる戦も勝てない。
――――――――というのが、私の考え。
残念だったね。相手が私でなければ、ほとんどの者が従ってたんじゃないかな?
まあ、カマをかけてみたけど乗り切れてよかった。
そうして、
「――――――我ら人が、魔王なぞに勝てるはずがないだろう!」
「は?人?」
「何を言うておる。人に敵対するものを纏める異形の者は『魔王』と呼ばれるにきまっておろう」
「魔王?え、ここってどこよ。何族がいるのよ。」
なんだか、誤解があるようだ。
彼らに話を詳しく聞いてみると、ここは人間の国だった。
じゃあなぜ私の眼には人間に見えないかというと、憶測だがこの『眼』のせいだろう。
ここでも私の美形ウォッチングの野望は潰えるのか………!!
これは一応、続きます。
個人的に魔王が勇者の役目を果たしたら面白いなと思いまして。
ちなみに狸ですが、そのうち番外編でこいつを主人公にして書こうかなぁとか思ってみたり。