第83話 最終面談
学年末テストも終わり、もうすぐ2学年の進路希望の最終確認のため、三者面談が予定されている。
一華はこたつに座り、お風呂上がりのノンアルコール〇ールを飲むシンに胸の内の不安をこぼした。
「ねぇ、シン、2年生になっても同じクラスになれるんだよね!?」
「二人とも理系コース選択だが、クラスはいくつあるんだ?」
「どうだろ、今の2、3年生は、A組は医学部、薬学部とかの難関大の理系、B組はその他の理系、C~E組は文系らしいから、同じだと思うけど……。」
「だったら、二人ともB組だろ?」
「シンはA組とかにならないよね?」
「大学受験はしないと言っているんだ。大丈夫だろ。」
「でも、A組が少なくて、B組が多かったら、成績がいいシンをA組に振り分けられたら???」
シンはノンアルコール〇ールを飲む手を止めて、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「その時は、また魔力を使って名簿を書き換えるさ。安心しろ。」
「ほんと? 絶対だよ!」
一華はシンとクラスが離れることが考えられない。
「あぁ、護衛できなくなるからな。」
その言葉に安堵した一華は、当たり前のような返答に胸が高鳴った。
◇◆◇
学年末テストの採点も終わり、後は終業式を待つだけの期間に最後の三者面談が行われた。
2学年の文理コース選択の最終確認だ。
放課後の教室、一華とシン、二人一緒に並んで座り三者面談を受ける。
「……今回もご両親は、来られなかったのね。」
「はい。今回も仕事の都合で帰国できませんでした。」
「そうですか。まぁ、1年間見て来たから、大丈夫よ。」
先生は前回の三者面談の記録と希望調査票を見ながら話しだした。
「二人とも、理系コース選択ね。変更はありますか?」
「「ありません。」」
「わかりました。変更なしと。」
シンは一華が危惧していたクラス分けについて聞いてみた。
「先生、二人とも同じ理系コースを選択していますが、クラスが離れることはありますか?」
「そうね。ほとんどの生徒が進学先を見据えて希望を提出しているので、同じ学部希望だと一緒のクラスになるけど、あなた達は進学しないのよね……。」
「俺たち二人はこの国では進学しませんが、最終的には理学部を目指して勉強を続けるつもりです。」
(えっ? 理学部? 初耳なんだけど……???)
シンが勝手に進学先を言ったことに驚き、隣に座るシンを見つめる一華。
「そうなの。同じクラスがいいわけね。」
シンは驚く一華を横目に平然とした顔で話を進める。
「はい。同じ学部を目指すなら、同じクラスで勉強をした方が効率的ですので。クラスを離すのは非効率ですよね?」
シンは同じクラスになるよう一押しした。
「わかりました。二人とも意思は固いわけね。理学部進学するにあたって成績は問題ないから、希望は伝えておきますが、クラス分けは他の先生の意見もあるから確定は出来ないわよ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
シンはここでは引き下がっておき、魔力で同じクラスにすることを目論んでいた。
「他に何か聞きたいことある?」
「いえ、ありません。」
「一華さんはある?」
「いいえ、ありません。」
「じゃぁ、今日は、これで終わりよ。」
「「失礼します。」」
一華とシンは教室を出て行った。シンがクラス分けのことを聞いてくれたお陰で帰る足取りが軽くなったが、一華は校門を出たところで我慢できず、シンの袖を引いた。
「シン、理学部ってどういうこと???」
「先生も言ってただろ、同じ学部だと同じクラスになると。」
「うん、でも、理学部って……。そんなの決めてないよ!」
「他に目標はあるのか?」
「特にないけど……理学部って何勉強するの?」
「自然科学の基礎原理を追求する。天気を制すためには必要だろ。」
「そうか、そう言う事か……。」
「ただ、理論中心だから、無謀な一華には意味がないかもしれないが……。」
シンは一華を揶揄う。
「ふふ、理論無視して暴走しちゃうから?」
「あぁ、理論を理解したうえで、無謀なら、まぁ、大丈夫だろ。」
「そっかー、理学部かー。なんか目標が出来て嬉しい!」
「そんなもんか?」
「うん、だって、前言ったけど、適当に大学行って適当に結婚するかもって言ったことあるでしょ。」
「あぁ、覚醒していなかったらの話だな。」
「大学は無くなったとしても、勉強する目的が出来た。適当じゃなくなったんだよ。」
かつて自分が描いていた空っぽな未来が、シンの言葉で「意味のある時間」に塗り替えられていく。そのことが、一華にはたまらなく嬉しく感じられ、帰る足取りが一層軽くなる。
「大学の事は3年になって考えればいい。」
「えっ? 大学って魔界にもあるの?」
「人間界のような大学は無い。」
「卒業後は行くんだよね。魔界へ。」
「その予定だな。」
「だったら、大学を考えることは必要ないよね……。」
「天気を制すために大学での勉強が必要なら、叔父上にお願いすればいい。」
「……。」
「高校の授業だけで済むなら、帰ればいいだけだ。」
「もし、大学受験することにしたら、シンも付き合ってくれる?」
「どうだろうな。叔父上次第だろ。」
一華はシンの顔を見つめて立ち止まった。
一華の胸に、説明のつかない感情が込み上げ、気づけば一粒の涙が頬を伝っていた。
「……一華?」
その時、さっきまで晴れていた空から、ぽつぽつと大粒の雨が降り出した。
「一華、走るぞ。」
シンは迷わず一華の手を取り、マンションまで駆け出した。力強く引かれる手の熱さと、冷たい雨。マンションに辿り着く頃には、雨は嘘のように止み、夕日が雲の間から顔を出していた。
雨が止むと一華の昂っていた気持ちは収まっていた。
「通り雨かな?」
「……通り雨か。一華、3年になるまで先のことは考えすぎるな。今は、目の前のことを一つずつこなせばいい。一華が受験したいと言っても叔父上が認めてくれるか、わからないからな。」
「……うん。わかった。」
一華は通り雨が涙を隠してくれたことに感謝した。




