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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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82/82

第82話 ワームムーン(芋虫月)

バレンタインデーが過ぎるとシンによる地獄の家庭教師が開始され、学年末テストをなんとかやり遂げた。

その後は生徒会引継ぎを兼ねた卒業式準備などがあり、怒涛の2週間と言ったところか。ようやく3月の満月を迎える。

一華は夕食中に思い出したかのように口にする。


「何をお願いしようかなぁ。」


「何がだ?」


シンは箸を止めて、脈絡もなく口にした一華に問いかける。


「満月様へのお願い事!」


「あぁ、今日か。」


「うん」


「何がいいと思う? ワームムーンと呼ばれてて、芋虫が蝶に変わるように、生まれ変わりや成長への願いが叶いやすいんだって。」


「生まれ変わり……(今度は何に変身するんだ?)。」


「やっぱり、覚醒していない魔力からお願いするほうがいいのかなぁ。重い物を軽くして、大きい物を小さく、小さい物を大きくする魔力は欲しい。それと……」


「他にあったか?」


「台風の時言っていた天気を制する魔力とまでは言わないけど、ダムとか田んぼや畑などの上限定でいいので、雨を降らす魔力が欲しいかな。」


「雨を降らす魔力か……。一華には直接、関係ない魔力だな。」


「うん、私の為と言うか、誰かを助けているようで結果、自分に返ってくる魔力だね。」


「自分に返ってくる???」


「そう。田んぼや畑は、適度に雨が降らないと、農家さんが困るし、農家さんが困るという事は自分たちが買うお米や野菜の流通量が少なくなって高くなる。ダムの上だと、自分たちが使う水道に直結してるわけだから水位が低下したら節水しないといけなくなるし、また農家さんが困ることになるし。」


「台風や集中豪雨や豪雪などをなんとかするのは自分には無理だけど、少しだけでも雨を降らすことが出来れば、次の雨までに繋げることはできると思うんだよなぁ。」


「共鳴や共感の魔力でさえ、一華の為じゃなく、誰かの為の魔力だから、意味合いは似たようなものか。」


「うん、雨を降らすのは自分にも返ってくるから、こっちの方が私の為とも言えるよ。」


「そうだが、……雨が降るメカニズムはわかっているか?」


「えっとー、確か、太陽に温められた海上や地上の水分が蒸発して水蒸気となって上空へ昇っていって雲になる。それで、雲の中の水蒸気が成長して大きくなると重くなるから、雨となって地上に落下してくる。」


「そうだな。通常は低気圧が発生して雨雲が発達したり、寒気と暖気がぶつかる前線などで雨となるメカニズムを一華の魔力が作り出すという事だ。並大抵ではいかない。」


「メカニズム通りに雨を降らすことは難しい……じゃぁ、メカニズムは無視して、仁華に変身するように、雨を降らしたり晴れにしたりする魔力を覚醒してもらう。」


ふっきれたような一華。


「やっぱ、天気を制したい。」


「メカニズムを無視か……、まぁ、黒猫に変身すること自体、メカニズムは無視しているからな。」


「天気の魔力は、願ってもいいよね。後から、困ることは出てこないよね。」


シンは「うーん」と思案しだす。


「魔力使用中、誰にも見つかることがなければ、特に困ることはないが、……見つかってしまうと利用されてしまうな。」


「その場に行かなくても、唱えるだけで指定場所に雨を降らすことができればいいんだよね???」


「そうだな。テレビのニュースで見たところとか、日中に気になったところに夜降らすとか、とにかく、雨と一華を一緒にしないことだ。」


「ねぇ、かなり高度な魔力って事になるのかな?」


「そういうことになる。」


「じゃぁ、シンと私の二人でだと出来る?」


シンは目を見開き一華を見つめた後、思案する。


「うーん、確かに、二人合わせれば強大な魔力となり得るが、魔力を使った痕跡を残さず、雨を降らすには……。既に上空にある雲を集めてきて成長させれば、雨となるか……。」


「海上や地上から水蒸気を上空へ昇らせることはしないの?」


「海上や地上から水蒸気を上空へ昇らせるということは、台風を作りかねない。」


「確かに、それは困る。」


「上空の雲を利用するぐらいじゃないと魔力の痕跡は消せないだろう。」


「雨を降らすときは、上空の雲を利用できるようコントロールすることもできる魔力にする。」


「コントロールすることも出来る魔力って……、台風とかも制したいのか???」


「やっぱり制したい。」


「無くすことは無理でも、弱めたり、雨や雪の量も分散させたりしたい。」


「かなり強大な魔力が必要となる。」


「二人でも更に?」


「以前、台風の翌日に魔力でテレポートさせる話は覚えているか?」


「うん、シン一人では無理って。」


「あぁ、そうだ。霧散させても引き寄せられるだろうとも。」


「言ってた。魔界人が制御料を巻き上げるって。」


「封印するとも言ったな。」


「うん、言った。」


「封印するんじゃなかったのか?」


シンに詰められ、バツが悪くなった一華だったが……。笑いをこぼした後、言い放った。


「……もう、封印解除だぁー!」


「封印解除だぁーって……。」


シンから笑みがこぼれる。


「魔界人が制御料を巻き上げるなら、代わりに私が天気を制することができれば制御料は巻き上げない。私がやれるなら私がする。」


一華の言葉にシンの表情が真剣になる。


「対価を求めないという事か?」


「うん、結果、自分に返ってくることだから……。」


シンは冷徹で、現実的な見方をした。


「一華の体力を消耗させてまで、ボランティアでするのか? それはやめた方が良い。ボランティアと言えば聞こえはいいが、一華の優しさに付け込んでいるだけだ。やって当たり前と思われ、都合が悪くなれば勝手にやったと言われるだけだ。」


「やりがい搾取、時間搾取、責任の押し付け、善意の搾取だ。」


「仕事とするなら、目標達成のために計画を立て、人数を確保し、対価に見合ったことをする。」


「仕事にするの?」


「仕事にしなければいけないという事だ。自分の庭の畑に雨を降らすだけなら、一華が自由に降らせばいい。だが、いくら自分に返ってくることだからと言って、他人のために力を使う事は避けなければ搾取されるだけだ。」


「一華は人間、魔界人どちらの立場で考えているんだ? 結局、人間が魔界人の魔力を利用しているだけじゃないのか?」


シンに詰め寄られた一華は、一瞬たじろぎ、今までのことを思い出している。


「そうだ……そうだった。自分で魔力を利用しようとしているんだ……。自分だったら利用したことにならないと思ってた。」


「仮に一華に天気を制する魔力が覚醒したとしたら、台風や集中豪雨が来れば何とかしたくなるんだろうな。」


「見て見ぬ振りは出来ないよ。」


「それでも、天気を制する魔力の覚醒を願うのか?」


「……お願いする。力はコントロールできるようにもお願いする。」


その真っ直ぐな、少し向こう見ずな正義感に、シンは呆れながらも、一華を支える覚悟を決めた。


「わかった。一華は無謀だったな。」


「ふふ、そうそう、無謀な一華ちゃんです。」


「片づけよう。」


一華とシンは、夕食を食べ終わっても、話続けていた。



◇◆◇



夕食後の片付けも終わり、お風呂も入って、一華とシンはリビングに集合した。


「一華、準備はいいか?」


「うん」


一華はブレスレットを外し、こたつの上に置いた。「仁華に変身」と唱えて仁華に変身した。シンは防寒のため、仁華にボアチョッキを着させた後、ベランダに出ると、外気は日中の春の訪れとは一転し空気が冷たい。もうすぐ終わるであろう皆既月食の影響で、ほんのり赤い月光「ブラッドムーン」になったワームムーンを確認すると、外に向けて強固な結界を張った。


「一華、いいぞ。」


一華はシンの声でベランダに出る。放射冷却で冷え込んだ空気で鼻が冷たい。シンは一華の後ろに回り、受け止める準備をした。

一華は満月に向けてバンザイをしてワームムーンの月光パワーをめいっぱい受け止めた。

仁華は心の中で強く唱える。


(ワームムーン様、天気を制し、それをコントロールする魔力を覚醒させてください。)


シンも一華(仁華)の魔力のコントロールをお願いする。


(ワームムーン様、一華に魔力をコントロールする力を宿してください。)


次の瞬間、月光が仁華の全身を貫いた瞬間、これまでのどの満月よりも凄まじい「衝撃」が仁華を襲った。天候という広大なエネルギーを扱うための「パス」が、仁華の神経系に無理やり書き込まれていくような感覚とでも言うのか。意識が白く爆ぜ、仁華の体はシンの腕の中へと崩れ落ちた。


シンは衝撃に耐えながら、すぐさま仁華を抱きかかえてリビングに運び入れ、ソファに横たえると、窓を閉めて結界を解除した。


シンは仁華を撫でながら声を掛ける。


「一華、大丈夫か!?」


サンもこたつから這いだして、仁華に鼻先を寄せて声を掛ける。


「にゃにゃーんにゃ……(一華、お疲れにゃ?)」


意識を取り戻した仁華は、弱々しくも答える。


「にゃにゃ…… (大丈夫にゃ)」


「本当か? 何か変わったことは?」


「にゃにゃ~ん、にゃ……(今のところ、にゃいよ、ね?)」


シンはソファの仁華に「一華に戻るか?」声を掛け、ボアチョッキを脱がす。


「にゃ~ん……(一華に戻るにゃ)」


仁華は、閃光を放つことなく、静かに一華の姿に戻った。


「にゃにゃーん…… (よかったにゃ)」


「体はどうだ? 疲労感は?」


シンは一華にブレスレットを着けながら体調を確認する。


「今までと変わらないような……。」


「そうか。このまま、寝るか?」


「うん」


「じゃぁ、部屋に戻ろう。」


「サン、おやすみ」「サンちゃん、おやすみ」


二人はサンに声を掛ける。シンはリビングの照明の電気を消して、一華に付き添ってリビングを出て行く。

二人は部屋の前で「「おやすみ」」と言って自室に戻って行った。

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