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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第81話 バレンタインデー

2月最大のイベント、もうすぐバレンタインデーがやって来る。一華としてはどうしても贈りたい。

何をどうやって贈るのか考え中だ。その後、予定されている学年末テストより頭を動かしている。


クリスマスプレゼントの時は、お互いが別行動が出来たが、今回は女子だけだ。理那と真由を誘って出掛けることも考えるが、その間、シンに内緒で別行動できるとは思えない。


ネット通販でも利用しようかとスマホを見つめている一華。ふと、目に留まる画像。自分でも作れそうなレシピだ。足りない器具は買うとして初めてのお菓子作りに挑戦することに決めた。



◇◆◇



今日はバレンタインデー当日だ。今年は学校は休みで助かった。

必要な器具と材料をスマホにメモして、シンと一緒にいつもの買い物のため、スーパーにやってきた一華。


「欲しいものあるから買ってくるね。」


一華はシンに断ってから別行動をとることにした。今まで別行動を取ることはほぼ無かったが、断言する一華にシンは信頼して別行動を許可する。


「ん? 一人で大丈夫か?」


「うん、大丈夫。適当に買い物してて貰える?」


「わかった。」


一華は製菓コーナーで必要な器具と製菓材料、そのまま食べても美味しいビターチョコ数枚をカゴに入れて一足先に会計を済ませた。

中身が見えないようマイバッグに入れて、シンと合流した。


「もう会計したのか?」


「うん。お年玉余ってたから。」


一華は、ちゃっかり玉子だけはいつも買う食材を使うつもりで購入してきていない。玉子の棚からシンのカゴに入れる。

一華とシンは買い物を済ませて帰宅した。


昼食後、片付けが終わると、いつもなら、こたつでまったりと過ごしている一華はシンにお願いした。


「今から、キッチン使うから終わるまで、何があっても入ってこないでね。」


「ん? それはいいが……、何があってもって、大丈夫か?」


「うん、大丈夫、ちょっと音がうるさいことも有るけど、先に謝っておくね。」


「わかった。何かあれば呼べよ。」


「うん。」


これでシンに気兼ねなく専念できる。


まずは、金属製のボールに美味しいビターチョコを割り入れ、バターも入れて湯煎しながら溶かしてゆく。

溶けると湯煎から外して生クリームを入れて混ぜる。


玉子は白身を切るようにかき混ぜておく。


玉子を濾しながらチョコと混ぜ合わせる。


ふるいにかけたココアパウダーを加えて混ぜ合わせる。


オーブンシートを底は少し大きめに、周囲は少し長めに長方形に切り抜き、型に敷いておく。


オーブンを180℃に予熱する。その間に、オーブンシートを敷いた型にチョコを流し入れる。


「ピー、ピー、ピー、ピー」


予熱が終わった。オーブンに型を入れて20分のタイマーをセットする。


焼きあがる前にボウルなどを洗って片づけていく。


ここまでは順調だ。レシピ通り手順を踏んだだけだ。




「ピー、ピー、ピー、ピー」


焼き上がりの音が鳴った。オーブンから濃厚で少しほろ苦い香りが漂う。

一華は型を出す。中央が凹んでいるが、表面は乾いているようだ。焼きあがった。

粗熱を取るため、ケーキクーラーに乗せる。


一華はシンのコーヒーと、自分の紅茶を用意してこたつに運ぶ。


本来なら冷やし固めるが、焼き立ても楽しみたい。粉糖はかけずに、大皿にホールのまま載せたガトーショコラを持っていく。


「一華、これを作っていたのか?」


シンは急に出て来た黒いホールケーキにびっくりしている。


「うん、今日はね、バレンタインデーなんだよ。」


「バレンタインデー?」


「うん、女子が男子にチョコレートをあげる日なの。」


「で、作ってみた。テリーヌ風ガトーショコラ。」


一華は一人分の大きさに切りだしていき、小皿に出してシンの前に差し出した。


「ちょっと熱いかもだけど、食べてみて。」


シンはスプーンで掬って、フーフーと息を吹きかけた後、口に入れる。


「中はとろーりして濃厚だな。美味い。」


「良かったー。ブラックなビターチョコ使ったから。」


「その後のコーヒーはどう?」


「甘さが控えめで、コーヒーの苦味と完璧に合う。ベストマッチだ。」


その言葉にホッと胸を撫で下ろす一華。


「初めて作ったけど、良かった。失敗したらどうしようかと思ったよー。他に用意してなかったから。」


「そう言えば、バレンタインデーに女子が男子にチョコをあげるのはどうしてだ?」


「女子から告白できる日だからかな。」


「告白?」


「うん、好きな人に想いを告げるの、チョコレートを渡して。」


「好きな人……、想い……。」


一華がシンに好きだという想いを告白しているんだと思っている。


「ただ、義理チョコだったり、最近は友チョコとかって言って、友人や女子同士であげたり、それに今は男子からもあげるらしいけどね。」


(えっ? これはどっちなんだ? 義理チョコなのか? はたまた友チョコというものなのか?)


シンはコーヒーの苦みが少し増したような不安に襲われる。


「今年は土曜日だったから、私は当日作って渡せたけど、高校の女子生徒とかは残念がっているんだろうね。」


「俺は他からはいらないぞ。」


「でも、女の子としては受け取ってほしいんだよね。でも、3月14日のホワイトデーにお返しすることになるから、貰っても嬉しくないか。」


「一華にお返しするのか?」


「そうだよ。本命は3倍返し、義理や友チョコの場合は多くても1.5倍返しかな!?」


「3倍返し……。」


「告白されて答える日がホワイトデーで、本命には特別なものをお返しして、そこからカップル成立かな。」


「既にカップルの場合はどうするんだ?」


「告白が無いだけで、チョコとお返しはするの。」


「相手が義理チョコの場合、貰った側が本命だった場合はどうなるんだ?」


「貰う時、義理か本命かはわかるんじゃ???」


「わからないな?」


「ん? これ?」


一華は自分で作ったガトーショコラを指さす。


「そうだ。どっちだ?」


一華はシンに問われて、顔を赤らめながら、シンの顔を見つめる。


(どっちだと言われて、なんて言えばいいの??? 義理じゃないけど……、本命って言うのも恥ずかしいよ。)


「わからない?」


「わからない。」


一華は自分の口から直接言うのが恥ずかしく、「お菓子の隠された意味」を説明することにした。


「お菓子にも意味があって、マカロン、マフィン、カップケーキは『あなたは特別な人』、キャンディは『あなたが好き』、ドーナツは『あなたが大好き』、マロングラッセは『永遠の愛を誓う』、バウムクーヘンは『幸せが続きますように』、クッキーは『友達でいよう』、マシュマロ、グミは『嫌い、お断り』、キャラメルは『安心する存在』、チョコは『あなたと同じ気持ち』、ホワイトチョコは『気持ちを受け取れない』だったと思う。」


「わかった。」


シンの顔がふわりと和らいだ。『あなたと同じ気持ち』を一華から受け取ったことで、ホワイトデーのお返しを決めた。


残ったガトーショコラは1人分ずつ切り分けた後、ラップをして冷蔵庫で冷やし固めておいた。



シンは、その日のお風呂上りに、ガトーショコラ片手にノンアルコール〇ールを飲んでいる。


「これも美味いな。」


一華はガトーショコラにバニラアイスを載せて、一緒に食べてみる。


「これも美味しいよ。」


シンにも一口スプーンで掬って、口元に差し出す。


シンはスプーンにかぶりつき、ノンアルコール〇ールを一口飲む。


「チョコとアイスとノンアルコール〇ール……最高の三重奏だ!」


初めて迎えるバレンタインデーが休みの日で良かったと思えた一華だった。


学年末テストに向けて、シンによる地獄の家庭教師が始まることは明日になって後悔することになる。

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