第78話 動物園
お正月を迎えると何もする気になれない。暖かいこたつを出て、凍てつく外に出る気にはなれない。これではいかんとシンが外出しようと一華を誘ってきた。
「一華、毎日毎日、こたつでのんびりしていては体がなまる。鍛錬とは言わないが、どこかへ外出しないか?」
「えーっ? 寒いよー。」
「もうすぐ学校も始まる。制服着られなくなるぞ。」
一華は恐ろしいことを言われて、思わずお腹に手をやって、シンの顔を見つめる。
「うーっ、わかった。出掛けるけど、運動は嫌だよ。」
「散歩だけでも運動にはなる。動物園にでも出かけよう。」
「えっ? 動物園はリスクがあるから避けるはずじゃ???」
「今まではそうだったが、この前、満月へお願いした『動物までも虜にさせる魔力』を実感してみないか?」
「そうだね。サンちゃんは今までと変わってないし。動物の反応も確認したいしね、わかった。出掛けよう。」
「寒いから防寒対策はしっかりしろよ。風邪を引かないように着込め。」
「着込めって……。」
一華は着込めと言われて、服だけでなく、耳まで隠れるニット帽と、暖かい厚手のマフラー、手袋と着込んでリビングに入ってきた。
シンも着込んでいるが、一華を見て微笑む。
「一華、もこもこの雪だるまだな。」
「えへへ、スノーマンコーデしてみた。」
「スノーマンコーデか、かわいいな。防寒対策はばっちりだな。出掛けよう。」
「うん、サンちゃん、お留守番よろしくね。」
サンはこたつから少し顔を出して「にゃん……(わかったにゃ。)」と一言鳴くと、またこたつに潜っていく。
「サン、お前もたまにはこたつから出て運動でもしてろよ。」
サンはシンの言う事には一切答えず、こたつからも出ることは無かった。
一華とシンは動物園目指して冬の街へと出掛けて行った。
駅までは歩いて行き、電車に揺られて1時間ぐらいの道のりだ。大人のお正月休みは終わっていて、電車の中は座れる程度に空いていた。
電車の中は暑いぐらいだったが、外の動物園は寒い。寒さに強い動物達は外でも活発に動いている所が見られるはずだ。
「まずは、何見たい?」
「レッサーパンダ」
一華とシンはレッサーパンダの獣舎までやってきた。
当のレッサーパンダは雪の上でゴロゴロ大はしゃぎしてる。
「かわいいー。」
「かわいいな。」
「私、パンダならレッサーパンダが断然好き。かわいい顔してるよね。おまけにしっぽふさふさだし。」
「愛らしい顔しているな。」
「お腹の毛が真っ黒なのはイメージと違うけどね。」
「一華は何か感じるか?」
「ん? 特に何も、感じ取れない。」
「そうか。まだなのか?」
「かもね。普通に楽しめるから大丈夫だけど。」
「次行くか?」
「うん、あっ、ペンギン!」
ペンギンの散歩が始まっていた。整列して歩いてくる。ヨチヨチと歩く姿がかわいい。自分もヨチヨチと着いて行きたくなる可愛さだ。
「何か感じるか?」
「何も、感じない……。」
「じゃ、次行くか。」
隣はカピバラだ。みんなでお風呂に入って蕩けている。
「カピバラだってー。お風呂入ってるよ。」
「気持ちよそうだな。」
「でも、外でお風呂入ったら出られなくならないのかな?」
「な、出た時が一番寒いぞ。」
「そうだよね。」
「何か感じるか?」
「特に何にも感じない。」
「そうか、次行くか。」
次は猿山だ。
「うわぁ、サル団子になってるよ。」
「中央にいる猿が一番暖かいだろうな。」
「そうだよね。端っこ寒いよね。あっち見て、抱き合ってるよ。かわいい。」
「何か感じるか?」
「特に何にも感じない。」
「そうか、次行くか。」
「ホワイトタイガー見たい。」
「好きだったな。」
「うん、……と、ちょっと先だね。行こう。」
ホワイトタイガーの獣舎まで来ると、ホワイトタイガーが日向ぼっこしていた。
「やっぱ、かわいい。」
「普通のトラとどこが違うんだ?」
「どこが?と言われても、よくわかんない。ぱっと見、おっきな猫ちゃんに思えてくるんだよね。」
「おっきな猫……中身がサンなら怖くはないが、絶対抱きつくなよ。」
「サンちゃんに、もふもふなホワイトタイガーになって貰ってからにするよ。」
「それもやめてくれ。」
「……。」
「赤ちゃんもかわいいんだよ。手足がおっきいの。」
「確かに将来有望な体つきだな。」
「どんな見方してるのよ。」
「何か感じるか?」
「感じないね。」
「***(一華は問いかけてるのか?)***」
「***(話しかける必要性を感じてないからしてない。)***」
「***(そうか。わざわざ、話しかける必要はないだろう。切っ掛けを与えてもいけない!)***」
「***(うん)***」
「ちょっと、遅くなったけど休憩しようよ。」
「あぁ、お昼にしよう!」
カフェの店内に入った一華とシンは、食券を買って窓際の席に着いた。
番号を呼ばれてカウンターに取りに行く。
一華はかめさんカレー、シンは炭火焼鳥丼を受け取った。
「カメさんが泳いでるみたい。」
「食べにくくないか?」
「??? もしかしてこういう事?」
一華はカメの足の方からスプーンで掬っていく。
「そう言う事だ。かわいそうじゃないのか?」
「もう、そんなこと言ったら食べられないよー。」
「わるい。」
「シンって、そういうとこ優しいよね。心はピュアで乙女?」
「お前、男の俺に乙女って……。」
目を見開き驚くシン。
「今は男も女も、区別しないんだよ。」
「だからと言って、乙女とは……。もっと別の言い方ないのか?」
「オトメン(乙男)?」
「オトメン? どういう意味だ?」
「乙女チックな趣味(裁縫、料理、可愛いもの好き)を持ちつつ、男らしさも兼ね備えた男の人のこと。」
「可愛い物は好きだが……オトメンか……。」
「言葉にすれば、余計、シンにピッタリじゃない?」
「……。」
「他の人にはバレてないから、きっと大丈夫だよ。高校ではいつものかっこいいシンのままだよ。」
「二人だけの秘密だぞ。」
「うん。サンちゃんにも秘密?」
「あぁ、サンにも秘密だ。」
二人だけの秘密ができたことに一華は一層連帯感が生まれ、特別な存在という意識が高まったことでドキドキしていた。
「サンちゃんにはお土産買って帰ろうね。」
「あぁ。」
二人は休憩を終えて、お土産を買いに売店へ向かった。
「かわいいー。」
一華は動物のぬいぐるみを見てテンション爆上がりだ。
「私も欲しいー。」
「何を買うんだ?」
「サンちゃんにはいつも一緒に居れる方がいいよね。……レッサーパンダとか良くない? 乗れそうな大きさだし。」
「一番大きなこれだな。ん? 抱き心地いいな!?」
「ほんと? どれどれ。」
一華はシンが上の棚から下ろしたレッサーパンダのぬいぐるみをとって、思いっきりギュッとしてみた。
「ほんと、ギュッとするのにちょうどいい大きさだね。」
「一華はどれが欲しいんだ?」
「これもいいけど、私はねぇ、このピンクのペンギンさん!」
「これか!」
「うん、かわいいでしょ。」
一華はレッサーパンダのぬいぐるみをシンに戻して、大きなピンク色のペンギンを抱き上げた。
「でも、ブルーのもかわいいよ。シンはブルーにしたら?」
「俺も買うのか?」
「だって、お揃いだし。可愛いでしょ。」
「可愛いが……俺も部屋に飾るのか?」
「嫌?」
「嫌とかじゃないが……どうせなら二人お揃いで置いてあげた方が寂しくないだろ。」
シンは自分の部屋にペンギンのぬいぐるみを置くことを避けるため、お揃いで二つを並べて置くことを提案する。
「じゃぁ、私の部屋に二人置く。」
一華は大きなペンギンのぬいぐるみをお揃いで両手に持って離さない。
「ミニタオルもあるぞ!?」
「シンはそれにする?」
「俺がこんなタオルを学校に持って行ったら、何言われるか…。」
「別にかわいいし、いいじゃない。その時は私の趣味って言ってね。」
「これも買うのか?」
「レッサーパンダとカワウソ買おうよ。」
シンはレッサーパンダとカワウソのミニタオルを手にした。
「もういいな。会計するぞ。」
「うん。」
一華のぬいぐるみはお年玉で買わせても良さそうだが、シンはいつも通り、打ち出の小槌で支払いを済ませた。
太陽が傾いてきたため、一華とシンは大きなぬいぐるみを3個持ったまま、動物園を後にした。今日の目的である魔力の覚醒を確認したかったが、特に変化は感じられなかった。
「どうしても仲良くなりたい!」と強く願わない限り、覚醒しないのかは、満月様だけが知っている。
その夜から、一華のベッドにはピンクとブルーのペンギンが揃って並び、一華の睡眠を見守ることになった。




