第77話 ウルフムーン(狼月)
今日は今年最初の満月の日だ。一華はスマホで今日の満月を検索した。
冬の寒さの中で遠吠えする狼に由来しているらしく、忍耐力や目標達成への願い事がいいらしい。
「ねぇ、シン、今日の満月の願い事なんだけどね……。」
「なんだ?」
「忍耐力や目標達成がいいんだって。」
「今日はシンもお願いしてみたらどう!?」
「何を願うんだ? いつもは一華が願うことを一緒に願っているが?」
「忍耐力と言うか……ノンアルコール〇ールを我慢すること。」
「……っ、そうだな。このままでは男子高校生とは程遠いな。」
「でしょ、今年は生徒会長の仕事もあるんだし、新入生の模範となるわけだから……。」
「わかった、ノンアルコール〇ールを出来る限り我慢することを願おう! ところで一華は何を願うんだ?」
「立て続けに浄化の魔力をお願いしてきたけど、今日の満月で目標達成されるかな?」
「そうだな。ぴったりだな。」
「それなら、今日も浄化の魔力をお願いしてみる。」
「それでだ。今から買い物行ってきていいか?」
「シンが一人で行くの?」
「あぁ。」
「何買いに行くの?」
「ノンアルコール〇ール。」
「我慢できるようお願いするはずじゃ?」
「出来る限り我慢するが、初詣の帰りに買ったのは飲んでしまったし、コンビニで買うより箱買いしに行きたい。」
「確かに、今度行こうと計画はしてたけど、シンだけで大丈夫?」
「ドラッグストアはわかるし、寒い中、わざわざ、一華を誘うわけにはいかない。他に何か欲しい物があるのか? アイスか?」
「アイスは年末に買ったのがあるし、私のノンアルコール飲料も残ってるから、今は特にないけど……。」
「なら、行ってくる。」
「うん、じゃぁ、サンちゃんとお留守番しているね。気を付けて!」
「あぁ。すぐ、戻るよ。」
シンは一華とサンを留守番にして、自分だけが出掛けて行った。
「サンちゃん、シン、大丈夫かな? 最近、魔界人ぽく無いんだけど。」
「にゃにゃんにゃー……(一華の護衛役が務まらにゃいにゃー。)」
「そんな事はないと思うけど……ノンアルコールと言っても、一応高校生を演じているんだから、飲まない方がいいと思うんだけど……。」
「にゃにゃにゃーん……(シンは魔界ではおとにゃにゃのか?)」
「わかんない。そう言えば聞いてないなぁ。何歳か聞いてない。大人だったら飲みたいよね。きっと。」
「サンちゃーん……。」
一華はサンの体を撫でながら、暖かいこたつのせいで睡魔に襲われていき、サンも一華の撫でる感触がなくなり、一緒に眠りに落ちて行った。
◇◆◇
出掛けて1時間もしないうちにシンは静かに帰ってきた。数日分のノンアルコール〇ールを箱から出して冷蔵庫に入れた。
リビングでは一華とサンが幸せそうに、こたつでお昼寝中だ。起こさないよう、シンもそっとこたつに滑り込んだ。こたつの暖かさがシンの冷えた体にしみる。体の芯から温まったシンを心地よい眠気が襲ってきた。シンも抗うことができず上下の瞼がくっ付いてしまった。
◇◆◇
三人静かに眠っている間に、太陽の位置がだいぶ下がってきていた。暖かかった日差しも少し冷えて来た。
一華は目を覚まし、起き上がると、シンが帰ってきていつの間にか、一緒に寝ていたようだ。
「シン、起きて、風邪ひくよ。」
一華は、シンの体を心配して声を掛けて起こす。
「ん? あぁ、寝てしまったのかー。」
「もう夕方だよ。だいぶ寝ちゃってた。」
「一華とサンが気持ちよさそうに昼寝してたから、起こさないようにしてたら、いつの間にか俺まで寝てしまってたよ。」
「こたつは人も猫も虜にする魔力でもあるのかな?」
一華はこたつの上のミカン1個をシンに手渡し、自分も食べる。
「私も虜にさせる魔力でもお願いしてみようかな。」
「っう、ゴホゴホっ……。」
ミカンを食べていたシンは、一華のお願いを聞いてむせてしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
一華はシンの背中をさする。
「な、何を言ってるんだ? 虜って、これ以上モテてどうするんだ、一華は?」
「えー? 私モテてないよ。モテてるのはシンだよ!」
「男子は女子ほど積極的に感情を出してきてないだけで、お前はモテてるぞ。」
「そーなのー? モテると言うか、もし虜にさせることができたら、敵も減るし動物とも仲良くなれるでしょ?」
「そういう意味ではそうだな。……だが、交際の誘いやプロポーズされたらどうするんだ!?」
「シンが全校生徒の前で、宣告したんだから大丈夫じゃない?」
「……。」
シンは自分が全校生徒の前で言い放った言葉を頭の中で反芻する。
(あれを聞いて、一華にちょっかいを出してくる生徒はいないだろう。)
だが、シンは虜にさせる魔力が起こす事案を想像することができない。大丈夫なのだろうか。
「一華はどっちをお願いするんだ?」
「浄化か虜にさせる魔力かって事?」
「あぁ」
「もしかしたら、浄化はただ、必要に駆られてないだけで覚醒しているのかもしれないし、虜にさせる魔力の方が、楽しそうじゃない? 猫だけじゃなく動物にも好かれるのは良いことだし。お喋りできるようになったら、きっと楽しいよ。うん、今日は虜にさせる魔力にする!」
シンは何故、虜にさせる魔力を覚醒するに至ったのか思い出していく。こたつからどうしてこうなるのかと一華の頭の中の回転が想定外過ぎて、頭を抱えてしまいたくなった。
(一華の頭は、誰にも説明できない論理的思考でもしているのか??? ……魔界人と人間とのハーフゆえか!?)
「と、とりあえず、夕食の準備でもするか?」
「そうだね、今日はすき焼きだよ!」
「わかった。」
一華とシンはキッチンに並んで立ち、白菜や豆腐、白滝などを切って準備していく。お肉は解凍しておいた。
一華はお肉を1枚抜き取り、サンちゃん用に茹でて冷ますと、小さく切り分けてお皿に盛る。
シンはすき焼き用鍋にお肉とすき焼き用のたれを入れてから、白菜や豆腐などを入れていく。
「サンちゃーん、今日はお肉だよー。ゆっくり噛んで食べてよ。」
「にゃにゃーんにゃ……(やったにゃー。うまいにゃ、うまいにゃ。)」
「一華、もうそろそろ、食べられるぞ。」
「うん、じゃぁ、これはい。」
一華はシンが買ってきたノンアルコール〇ールと、自分用のノンアルコール飲料を出してきた。
「は? いいのか? お風呂上がりの1本だけじゃ?」
「明日からね!」
「はい、かんぱーい!」
「かんぱーい」
一華もシンには甘い。
◇◆◇
シンは本日2本目のノンアルコール〇ールを飲んでいる。一華は、アイスを一人で食べている。半分こはできないが、一華はアイスを一口掬って、シンの口元まで持っていく。シンは出されたスプーンにのるアイスを食べる。
「うー、美味い。」
その後、ノンアルコール〇ールを一口飲む。
「アイスの後、苦いノンアルコール〇ール飲んで、美味しいの?」
「アイスの甘さの後に飲むと苦みが強調されて美味い!」
「もしかして、バニラアイスと〇ールって合うの?」
一華はお皿を持ってきて、バニラアイスを一口掬ってお皿の上に置く。シンが飲んでいるノンアルコール〇ールを少し垂らしてもらって食べた。
「クリームソーダみたい! 美味しい!」
シンもスプーンにのったバニラアイスに〇ールを掛けて食べてみた。アフォガート風デザートを試す。
「大人なデザートだな!」
「うん。いいのみっけ!」
一華はシンとアイスの半分こが出来ずにいたが、自分もビールを楽しめる〇ールアフォガートを発見できて嬉しかった。
シンは一華が〇ールアフォガートを喜んだことで、ノンアルコール〇ールを飲むことを受け入れてくれたと思うことにした。
そろそろ、遅い時間となり一華は満月パワーを注入することにした。
一華はブレスレットを外して、こたつの上に置く。「仁華に変身」と唱えて仁華に変身した一華に、シンは防寒のためボアチョッキを着せて準備が整った。
シンは窓を開け、凍てつく夜空に輝く満月を確認した。外に向けて強固な結界を張る。
「一華、いけるか?」
一華はシンの声でベランダに出る。凍てつく空気が刺さりそうだ。シンは一華の後ろに回り、受け止める準備をした。
一華は満月に向けてバンザイをしてウルフムーンの月光パワーをめいっぱい受け止めた。
仁華は心の中で強く唱える。
(ウルフムーン様、虜にさせる魔力を覚醒させてください。パワー注入をお願いします。)
(ウルフムーン様、ノンアルコール〇ールを我慢できる力をください。そして、一華に虜にさせる魔力を覚醒させてあげてください。)
次の瞬間、月光を浴びた仁華の全身を、凄まじい電流のような衝撃が襲った。意識が白く弾け飛ぶ。
シンは衝撃に耐えながら、すぐさま仁華を抱きかかえてリビングに運び入れた。
仁華をソファに横たえて、窓を閉めて結界を解除した。
シンは仁華を撫でながら声を掛ける。
「一華、大丈夫か!?」
サンもこたつから出てきて仁華に声を掛ける。
「にゃにゃーんにゃ……(一華、大丈夫にゃか?)」
意識を取り戻した仁華は、弱々しくも答える。
「にゃにゃ…… (大丈夫にゃ)」
「本当か? 何か変わったことは?」
「にゃにゃ~ん、にゃ……(今のところ、にゃいよ、ね?)」
シンはソファの仁華に「一華に戻るか?」声を掛け、ボアチョッキを脱がす。
「にゃ~ん……(一華に戻るにゃ)」
仁華は、閃光を放つことなく、静かに一華の姿に戻った。
「にゃにゃーん…… (よかったにゃ)」
「体はどうだ? 疲労感は?」
シンは一華にブレスレットを着けながら体調を確認する。
「今までと変わらない。衝撃を受けた影響が残ってるだけ。」
「このまま、寝るか?」
「うん」
「じゃぁ、部屋に戻ろう。少しでも長く寝る方がいい。」
「サン、おやすみ」「サンちゃん、おやすみ」
二人はサンに声を掛ける。シンはリビングの照明の電気を消して、一華に付き添ってリビングを出て行く。
二人は部屋の前で「「おやすみ」」と言って自室に戻って行った。




