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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第76話 初詣

昨夜と言うか、今日というべきか、ベッドに入った時間は日付が変わってからだ。シンはいつもよりは遅いがサンのご飯を準備するため起きてきた。一華はまだ、爆睡中のようだ。


朝食はどうしようか悩む。昨日買ってきたおせちがあるが、先に食べるわけにはいかない。いつもと同じものを用意すべきか・・・。仕方なく、一華の部屋をノックした。


「一華、起きてるか?」


「ん? シン、ごめん起きる。」


一華は昨夜の夜更かしがたたり、目を覚ました時には太陽は昇り顔を出して明るく新年を照らしていた。今日は遅くまでゆっくりと寝ていられない。一華は急いで着替えてきて、キッチンにいるシンに謝った。


「シン、ごめん、寝坊した。」


「大丈夫だ。俺もさっき起きたところだ。サンのご飯はもうあげた。」


サンは朝ご飯を食べ終えて、既にこたつの中に潜り込んでいる。


「ありがとう。じゃぁ、おせち出して、年明けうどんとお雑煮用意するね。」


お湯を沸かして、冷凍うどんは電子レンジで解凍する。うどんスープの素をお湯で溶いて年明けうどんを用意する。その上にエビの天ぷらをのせて完成だ。インスタントお雑煮も作った。

お屠蘇代わりのノンアルコール飲料を出そうと冷蔵庫をのぞく一華。


「ねぇ、シン、お屠蘇代わりに何飲む?」


「一華の好きなのでいいぞ。俺のはもう無いから。」


「えっ? もう無いの?」


「昨日飲んだからな。」


一華はワイン系のノンアルコール飲料を1缶出して、グラスを2個テーブルに並べて注いだ。


「「いただきます!」」


お湯の量だけ間違わなければ味はお墨付きだ。

年明けうどんが美味しい。起き抜けの体に出汁が染み渡る。


「おせちには、黒豆はまめに働ける、数の子は子孫繁栄、田作りは五穀豊穣、伊達巻は学問や知識の向上、栗金団は金運アップ、海老は長寿、紅白蒲鉾はなんだっけ?、とまぁ、意味が込められているの。」


一華は指で刺しながら一つ一つ説明していった。


「他には鶏肉だと立ってるからいいとか、牛肉や豚肉は四つ足だからダメとかもあって、でも今は気にしてないけどね。」


おせちは一口ずつ手を付けただけで、お腹がいっぱいになった。


「ふーっ、食べた食べた。」


一華は一通りのことが済んで満足だったが、最後のひとつを実行することにした。


「シン、この前買った服に着替えて、出掛けるよ。」


「今日も出掛けるのか?」


と、その前にもうひとつ大事なイベントがある。


「出掛ける前に、シン、昨日下ろした1万円札2枚出して。」


「ん? あぁ」


シンは一華の前に2万円を差し出した。一華はポチ袋にそれぞれ1万円札を1枚ずつ入れる。


「本当はパパからなんだけど、代わりに私から、シン、お年玉。はい。」


「お年玉?」


「お正月恒例、子供にとっては一大イベントでお正月最大の楽しみだよ。いつもママがくれてたんだけど、今年はいないから、シンがママの代わりに頂戴。」


「ん、わかった。一華、アズサ様からだ、お年玉。」


「ありがとう。」


「じゃぁ、最後の仕上げに初詣行こう!」


「初詣?」


「お正月にね、神社に行ってお参りするのを初詣っていうんだよ。」


「神社? お参り?」


「神社は神様が祀られている所で、お願いをしに行くの。」


「お参りする時はお賽銭を入れてから、鈴を鳴らし、二回、深いお辞儀をして、二回、手を叩いて、手を合わせたままお願いを心で述べた後、一回、深いお辞儀をして終わり。」


シンは立って真面目に、一華の言った通りにやって見せた。


「そうそう。お賽銭は語呂合わせで『始終ご縁』の45円がいいとかあるけど、穴あき硬貨の50円も見通しが良くなるからいいんだって。」


「あと、お願いの前に、住所と名前を言って感謝を伝えてからお願いするんだよ。そうしないと神様は誰のお願いかわからないから。お願いは自分のことよりも誰かのことを願う方が叶いやすいの。」


「いろいろ作法があるんだな。」


「うん。おおきな神社だと、もっと厳しく決められている所とかあるけど、大体一緒。」


「お参りする前に、もう一つ。神社の入り口近くに手水舎があって、右手で柄杓を持ち、水を掬ったら、左手に水をかけて洗い、左手に持ち替えて右手を洗って、最後に左手に水を受けて口を漱いで、再度、左手を洗った後、柄杓を立てて柄を洗って終わり。」


「お参りが終わったら、お守りを買ったり、おみくじ引いたりするの。」


「おみくじ?」


「まぁ、一種の占いかな。」


「着替えて行こう。ハンカチも忘れずに。」


一華とシンは新調した服に着替えて、リビングのドアを閉めて玄関を出て行った。



◇◆◇



一華とシンは近くの神社に向けて歩いていく。途中、着物を来た女性や破魔矢を持っている家族連れにも出会う。だんだんと人の往来が多くなっていく。神社の近くまで来ると、屋台が並んでいる。夏祭りを思い出した一華は、帰りに寄ることにした。


神社の境内に入って行くと、手水舎に行き、シンと二人で、教えた順番どおりに手を清めていった。

次はお参りだが、もう既に長蛇の列が出来ていた。一番後ろに並んでゆっくりとついて行く。


「ねぇ、そう言えば、シンの分のノンアルコール飲料が無いってどうして?」


「昨日、夕食時とお風呂出た後とそばの時と、今朝飲んだ。」


「今日、もう飲んでたの?」


「昨日から飲み過ぎじゃない?」


「……我慢できなかった。」


「今まで、飲めなかったから反動で飲んだの?」


「……たぶん、あっちでは飲んでたが、こっちでは飲めないからな。〇ーラも美味いが、やっぱり違う。」


「じゃぁ、我慢はしなくていいから、せめて、本数減らさない? 1日1本だけにするとか。ノンアルコールって言っても、量が多くなれば『ノンアルコール』とは言えないよ。」


「わかった。お風呂の後1本だけにする。」


(そっちかーい。アイスの半分こは???)


一華は突っ込みたかったが、条件を提示した。


「ノンアルコール〇ール1本とアイス1個はお小遣いから除外ね。」


「っう、わかった。」


そうこう話しているうちに、拝殿の前まで来ていた。自分たちの番だ。

お賽銭を入れた後、ガラガラと鈴を二人で揺らし、二礼ニ拍手した後お願いをする。


(住所は****、名前は一華です。昨年はありがとうございました。シンが体を壊さず健康でいられますように。そして、私とシン、それにサンちゃんと三人がいつまでも一緒にいられますように。よろしくお願いします。)


(住所は****、名前はシンです。昨年はありがとうございました。一華が健康で勉学に励めますように。そして、俺と一華、それについでにサンの三人がいつまでも一緒にいられますように。よろしくお願いします。)


二人は一礼してなおった。二人は清々しい顔で仲良く階段を下りておみくじを引きに行く。

一華とシンは社務所に置かれたお賽銭箱におみくじ代として納めた後、木箱に入ったおみくじを一つずつ引いた。

一華は真剣な顔で静かにおみくじを広げて内容を確認する。


「……大吉。……願い事が叶いやすく物事が順調に進む。有頂天にならず、現状維持の努力を続けると良い。」


シンも続けて一華と同じように真剣な顔でおみくじを広げて内容を確認する。


「……吉。……安定した良い運気。努力次第でさらに良くなる。現状維持を心がけ、焦らずに行動すると良い。」


一華の大吉の後に、吉が出たことでシンの顔は沈んでいく。


「吉は大吉の次にいいんだよ。今よりも良くなるから、大吉よりも一層よくなるって事だから悪いわけじゃないからね。逆に、大吉は現状維持を続ける努力をしないと、運気が落ちていく可能性がある…。」


一華は沈んだシンを慰めるように説明する。


「そうなのか? 今が良いと思うならそれ以上に良くなるということか!?」


シンの表情が明るくなった。


「そういう事だね。おみくじは『神様との縁を結ぶ』という意味から指定場所に結んで帰るの。」


一華は結び所に行き、おみくじを結ぶ。シンも一華を真似て、おみくじを結んで帰ることにした。

参拝を終えた一華とシンは神社を出て、屋台を見て回ることにした。


「シン、甘酒飲みたい。あれあれ。」


一華は甘酒の屋台を指さす。シンは二つ甘酒を購入して、一つを一華に手渡す。


「んー、美味しい、染みるー。」


「甘いな。」


シンは昨夜からのノンアルコール〇ールの苦みが気に入っていることも有って、甘すぎる味が好みではなかった。


「うん。甘酒っていうぐらいだからね。酒粕から作るものと、米麹から作るノンアルコールのものの二種類あってね、飲む点滴って言われるほど栄養価が高いの。夏とかは冷やし甘酒とかで熱中症対策したりするの。」


「でも、カロリー高いから飲み過ぎ厳禁!」


シンはなんとか甘酒を飲み干した。甘酒で体を温めた後、口直しが欲しいのだろうと思い、一華は好きそうなものをあげていく。


「シン、イカ焼きとか、串焼き、焼き鳥、なんか食べる? 天津甘栗は買って帰るけど。」


「串焼き食べたい、焼き鳥は買って帰る。」


「じゃぁ、串焼き食べよう! 私タレにする。シンは?」


「俺は塩コショウにするか。」


「タレ1本、塩コショウ1本ください。」


それぞれ串焼きを受け取った一華とシンは、人通りから逸れたところに移動して、串焼きを頬張る。


「ぅん、ぅん、硬いかと思ったけど肉汁が溢れて美味しいー。」


「ん、美味いな。シンプルに肉食ってる感じだな。スパイスがきいてて美味い。」


「こっちも食べて。」


一華は自分の串焼きをシンに差し出した。シンは一華の差し出した串焼きを頬張る。


「おぅ、これも美味いな! タレが濃厚で肉汁が口の中に溢れる。一華もどうだ?」


シンは一華に自分の串焼きを差し出した。一華もシンの串焼きを頬張った。


「わっ、お肉だね! 炭火とスパイスがガツンと来て、これもまた美味しい。」


二人は、それぞれの味を楽しんだ後、天津甘栗と焼き鳥を買って帰ろうとした時、一華の目に飛び込んできた屋台の前にシンを誘う。


「シン、早く早く、これこれ、広島のお好み焼き、これ買う。」


「一華はお好み焼き好きなのか?」


「うん、特に広島のお好み焼き好きー。シンも買う?」


「俺の分も買ってくれ。」


「じゃ、2枚ね。2枚ください。」


一華は広島のお好み焼きが食べられることに、さっそく大吉の効果を実感していた。


「冷凍食品でも美味しいんだけど、最近スーパーから消えちゃってて買えなかったんだ。」


「お正月早々、好きなもの食べられるんだ。一華は最高の運気だ!」


一華とシンは2枚分のお好み焼きが入った袋を受け取り帰ることにした。途中にあるコンビニの前に差し掛かった時。


「一華、ちょっと買いたいものがあるから寄っていいか?」


「あ、うん。」


シンは店内に入るとまっすぐ、お酒コーナーに向かった。

いかにもノンアルコール〇ールを選んでいる。一華はすかさず、シンにアドバイスする。


「アルコールゼロ、カロリーゼロ、糖質ゼロを選んで。」


シンは本格的なノンアルコール〇ールをカゴいっぱいに入れそうな勢いだ。一華は今度は注意した。


「今日は、とりあえず飲みたい分だけにしておいて。……今度、箱買いに行こう。」


「わかった。今日は2本だけにしておく。」


真剣にノンアルコール〇ールを選ぶシンの姿は、もはや魔界人ではなく、「風呂上がりの一本を楽しみにする人間界の青年」そのものだった。


(3学期が始まるまでに男子高校生に戻ることができるのだろうか???)


一華は早々に一番安いショップを探して買いに行くことを計画することになった。

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