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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第75話 大晦日

今日は大晦日。一華とシンの今年最後の忙しない日が始まった。

二人はお正月用の生鮮食品を買いにスーパーに出掛けて行く。既に、帰省している人達がいるせいか、車の通りは少ないようだったが、スーパーの駐車場は空きがないぐらい、ほぼ満車状態だ。

きっと店内は人で溢れかえっているのだろう。


「シン、きっと人いっぱいだよ。覚悟してね。」


一華はシンに大晦日のスーパーの人混み状態を覚悟させたうえで店内に入って行った。


「うわぁ、これは一体どういう事態だ? どこからこんなに人が湧いてくるんだ!?」


「ふふ、すごいでしょ。大晦日はいつものセールとは混雑状態が違うよね。」


一華とシンは、人混みの間を縫うように移動して、豪華な刺身盛り合わせ、サビ抜きの寿司、おせちをカゴに入れていく。すき焼き用お肉とローストビーフも入れた。オードブルも追加した。すき焼き用食材も忘れるところだった。


「これも必須だった。」


一華はインスタントのお雑煮を2個カゴに入れる。


「おぞうに?」


「そう、お正月の定番。本当はママが作ってくれるお雑煮食べたいけど、これにする。食べたという気持ちだけだから。」


「もう、これで終わりか!?」


「食後のデザート……欲しくない?」


「アイスとかか?」


「ちょっと、高めのパウンドケーキとか?」


「アイスは保存できるから、全部買おう。」


お土産用のお菓子などが一角を占めている個所がある。一華は、その中から、いつもは買わないような高級なパウンドケーキやアイスをカゴに入れて、会計をすることにした。


会計の列に並んだ一華とシンだったが、かなりの家族連れが山盛にしたカゴと一緒に順番待ちしている。一華はその間に、忘れ物がないかを頭の中に浮かべていた。ふと、レジ横にある棚に目が行き、歩いていく。


シンは一華の行動に頭の中は「???」である。


一華はポチ袋を持って列に戻ってカゴに入れる。


「何を入れたんだ?」


「ポチ袋。支払い終わったら、1万円札2枚おろして。」


「ん? 承知した。」


支払いが済んだシンは、ATMコーナーで一華に言われたとおりにおろした。



◇◆◇



人混みは疲れる。店内の音楽もあってテンション高くショッピングできるが、いつも以上に混雑している店内を歩き回って、いつもと違うものを買うことは脳が疲れる。


大量の買い物袋を抱えて帰ってきた二人。冷蔵庫に片づけると、疲れが一気に体を襲ってくる。疲れすぎてお昼は簡単に済ませた。


「ふーっ、疲れたねぇ。」


「あぁ、こんなに人がいるとは、人間界はすごいな。今まで見たことないぞ。」


「いつもは時間や日をずらして来ているんだろうけど、大晦日はみんな一緒に迎えるから、オードブルやお寿司に刺身がお目当てだとすると、タイミング同じなんだろうね。」


「ちょっと、ゆっくりするか。」


「うん。夕食までゆっくりする。」


「にゃにゃーんにゃん……(俺も一緒にゆっくりするにゃ。)」


「サンちゃんはいつもゆっくりしてるのに。まだゆっくりするの? たまにはキャットタワーで遊んだら?」


「にゃーにゃんにゃん……(一華達が居にゃい所で登ってるにゃ!)」


「本当か?」


「にゃんにゃん……(本当にゃ!)」


(シン、怖いパパにゃー。)


「試しに、どこまで登れるんだ?」


「私も見たい。サンちゃん、登ってみて。」


「にゃにゃんにゃーん……(今からかにゃ? よいしょっと。)」


サンはこたつで伸びていた体を起こして、キャットタワーの下までノロノロと足取りは重く歩いていく。

嫌々なのが良くわかる。


シンは魔界の猫なら、もうピョンピョンと軽やかに登っていけるだろうと思っていたが、サンは、一段上がるのもゆっくりだ。上までは登らず下のほうで寛いでいる。


「全然上がっていけないじゃないか!?」


「にゃにゃん……(高いところ怖いにゃ!)」


サンは開き直る始末だ。


「子猫なんだからこんなもんじゃないの?」


「こんなもんなのか? 猫王には程遠いな。」


「にゃーにゃん……(もうちょっと大きくにゃったら登れるにゃ!)」


サンは登れないことを月齢のせいにしている。


「あぁ、楽しみにしておくぞ。」


シンはニヤリと笑う。


「にゃーにゃーん……(任せちょけにゃー!)」


「あーぁ、サンちゃん言いきっちゃったね。実行してよ。」


サンは心の中で(パパ、厳しすぎるにゃ……)と呟きながら、急いで再びこたつに逃げ込んでいった。

逃げ足は速い。

サンは後悔した。もう少し、無理っぽい理由を言っておくべきだったと。



◇◆◇



夕食時までゆっくりした一華とシン……とサン。

刺身からタイやマグロを数枚抜いて、サン用に茹でて冷ましておく。

刺身、お寿司、オードブルなど買ってきたものをテーブルに並べていく。

冷蔵庫からノンアルコール飲料も出してきた。


「サンちゃーん、ご飯だよー。今日はごちそうだよ。」


サンは呼ばれると、一華の傍まで跳ねてきた。


「にゃんにゃーん……(ごちそうにゃー!)」


「急いで食べると喉詰まらせるよ。シン、私たちも食べよう。」


「ん? 年越しそばはいつ食べるんだ?」


「夜遅く、除夜の鐘を聞きながら。」


「除夜の鐘?」


「うん、11時45分からお寺で鐘をついて鳴らしていくの。夕食は、蕎麦以外を食べるの。」


(お寺に除夜の鐘をつきに行くのか???)


「お正月用じゃないのか?」


「食べられないことも無いけど、お寿司や刺身は生ものだからね。余っても大丈夫だよ。加熱して味付けすれば明日でも食べられるし、サンちゃん用に茹でてもいいし。」


「そうか。じゃ、遠慮なく今日いただくとするか!」


「「いただきます!」」


「刺身とお寿司にワサビ必要なら、自分用に付けながら食べてね。」


「どうやってつけるんだ?」


「お皿に少し出して、刺身やお寿司のネタの上に、箸で載せていくの。で食べるの。」


シンはお皿にワサビを出して、少し箸で取り、刺身に載せて醤油をつけて食べた後、ノンアルコール〇ールを飲む。


「ぷはーっ。」


「〇ールもどき美味しい?」


「美味いな。〇ーラと違って、この苦味とこの喉ごし、キレがあって大人の味というところか!」


「でも、ノンアルコール〇ールといっても高校生が〇ールもどき飲んでるのって変な感じ。」


「一華には、まだ早いな。」


「どういうこと?」


「苦いし、ワサビを好きになってからだな。」


「そんなもんなの?」


「あぁ」


オードブルと刺身は残ったが、お寿司はなんだかんだでワサビの刺激を楽しむシンと二人で食べ尽くしてしまった。


「にゃにゃーんにゃ……(ごちそうまにゃー。おにゃかいっぱいにゃー。)」


サンは食べ終えると再びこたつに潜ってしまった。これでは、本当に子豚になるかもしれない。

一華はオードブルと刺身は冷蔵庫へ入れ片付けていく。



◇◆◇



夕食を終えてお風呂にも入った。この前買った新調した下着を身につけて、年始を迎える準備は整った。

あとは除夜の鐘を聞きながら年越しそばを食べるだけだ。


シンはお風呂を出て、またノンアルコール〇ールを飲んでいる。


「シン、もしかしてノンアルコール〇ール、気に入った?」


「あぁ、風呂出て飲むと最高だ!」


「アイスよりも?」


「アイスも美味いが、ノンアルコール〇ールはもっと美味い!」


(あ~ぁ、シンが至福のひと時を覚えてしまった……。すっかりおじさんみたいなこと言ってる……。)


一華は二人でお風呂を出て食べるアイスが半分こ出来なくなるのが少し寂しかった。

仕方ない、おじさんぽいけど常備品にしてあげようと思う一華だった。


夜が更け、いつもなら、もう寝る時間だが、今日だけは夜更かし上等だ。

もうそろそろ、テレビ特番も終わりが近づいて、除夜の鐘が聞こえてくる時間だ。

一華は鴨南蛮そばを二つの鍋にそれぞれ入れて温める。つゆを入れて出来上がると丼に盛り付けた。


「シン、できたよ。」


一華は年越しそばをこたつまで持ってきて、シンの前に置く。


「これが年越しそばか!?」


「美味そうだな。」


一華がこたつに並んで座ると、テレビから重厚な「ゴーン」という除夜の鐘が流れて来た。


「これこれ、これが除夜の鐘だよ。全部で108回つくの。みんなで順番に鐘をつくことも出来るんだよ。」


「108回?」


「煩悩の数なんだって。」


「煩悩?」


「人間には欲望や執着、悩みなどの煩悩が108個あって、それを除夜の鐘で一つずつ払い清めていくの。清らかな心で新年を迎えるんだって。」


「清められた心で蕎麦のように長く生きるということか。悪くないな!」


「そうだね。」


一華とシンは除夜の鐘の音を聞きながら、年越しそばを食べている。テレビではカウントダウンが始まっていた。


「…5、4、3、2、1、0、ハッピーニューイヤー!」


人間界では新しい年を迎えた。


「シン、あけましておめでとう。」


「??? あけましておめでとう?」


「うん、新年を迎えた時の挨拶だよ。」


「一華、あけましておめでとう。」


「うん、今年もよろしくね。」


「あぁ、こちらこそ今年もよろしく。」


「にゃんにゃーにゃ……(俺もよろしくにゃ。)」


サンはぐっすりと寝ていたはずだが、こたつから出てきて自分もと挨拶してきた。


「はいはい、サンちゃんもよろしくね。」


「サン、よろしくな。」


新年の挨拶を済ました二人と一匹はようやく、寝ることにしてベッドに滑り込んだ。

二人と一匹の家族に新しい一年が始まった。

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