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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第73話 クリスマス・イブ

今日は終業式だ。2学期の総決算。シンの成績は見るまでもなく1学期と同じだ。


成績表を受け取った一華は、祈るような気持ちで恐る恐る開いて見る。理数系は結果に満足したが、文系と言われる教科の成績は満足という程度ではないが、まぁまぁという感じだった。

一華は成績に安堵してクリスマス・イブの今日は、成績の事は忘れて楽しもうと思っている。


クラスメイト達と「またね!」と挨拶をして学校を後にした。


一華とシンは、帰りにペットショップで予約しておいたサンのクリスマスケーキを受け取り、スーパーで自分たちのケーキとフライドチキン、シャン〇リーにビーフシチューの食材を買って帰った。



◇◆◇



帰宅後、昼食を済ませた一華とシンは、サンのために早めの「クリスマスプレゼント」を組み立て始めた。


「一華、どこに設置するんだ?」


「ケージの隣の窓際がいいんじゃない。」


窓際にキャットタワーをシンが魔力を使って組み立てていく。


「にゃにゃーんにゃ……(にゃにしてるにゃ?)」


「出来てからのお楽しみだよー。ちょっと待ってね!」


だんだんと組みあがっていく。子猫にとっては結構な高さだ。転倒防止ベルトもしっかりと留めておく。


「できたぞ。」


「サンちゃーん、出来たって。どうぞ。」


一華はケージの扉を開けてサンを外に出してあげる。


「にゃにゃ……(にゃんにゃ? )」


「二人からのクリスマスプレゼントだよ!」


「にゃにゃん……(クリスマスプレゼントにゃ?)」


「サンちゃん、のぼれるかなー?」


初めてみるキャットタワーに、サンはジャンプするが上がれず、ぶら下がった状態になったりしている。階段を見つけるとたどたどしくゆっくりと上がっていく。もう少し大きくならないと上の方まで行くのは難しそうだがいい運動にはなりそうだ。


「これで子豚ちゃんは回避だね。」


「にゃにゃーん……(子豚に変身にゃ)」


サンはいたずら心のあまり、ミニブタよりも更に小さい子豚に変身した。


「やーん、かわいいー。」


子豚になったサンを見て、一華は声をあげる。


「サン、何で変身したんだ?」


「ブヒブヒ、ブヒブヒブヒ……(一華が子豚にって言ったからブヒ。変身してみたブヒ。)」


「サンちゃん。言ったからって変身しなくていいんだよ。」


「ブヒブヒブヒ……(わかったブヒ。猫に戻るブヒ。)」


サンは元の姿に戻った。


「子豚ちゃんにならないように運動してねって言ったんだよ!」


「にゃにゃ……(わかったにゃ。)」


一華は自分の事は棚に上げて、サンには運動を強要する。シンは一華も運動した方が良いのだがと思うが、あえて口にはしない。


一華は自室からもう一つのクリスマスプレゼントを持って来た。

日差しがあたる窓辺に、ふわふわのベッドを置く。


「サンちゃん、これは私からのクリスマスプレゼントだよ! ふわふわだよ!」


サンはキャットタワーを下りて、ふわふわのベッドに入った。


「にゃーん……(あったかいにゃー!)」


サンはベッドの中で思いっきり体をこすりつけてゴロゴロしている。


「でしょ。」


「にゃーんにゃにゃ……(仁華ににゃって一緒にねにゃいかー!?)」


「ダメだ! 仁華は一緒に寝ない。」


一華の代わりにシンが断る。サンはシンを揶揄っているとしか思えない。


「サンちゃん、シンを揶揄うのはやめてね!」


一華はサンに釘を刺す。


「俺はサンに揶揄われているのか?」


「だと思うけど……反応はいつも同じだし。」


「サン、今度パパを揶揄ったら、魔界へ送るぞ。覚悟しておけ。」


「にゃーんにゃ……(ごめんにゃー、もうしないにゃー。)」


(パパって……子供を叱っているみたい。)


シンは真剣にサンに忠告しているつもりが、一華はすっかりパパの顔をしているシンを笑顔で見つめている。

ふと、シンは自分たちのことを思った。


「一華、俺たちのプレゼント交換はいつするんだ?」


「夜? ケーキ食べる時に交換しようよ。」


「承知した。」


「先にビーフシチュー作ろうよ。」


一華は本格的なビーフシチューに挑戦してみたかったが、高校生では赤ワインが買えず断念した。市販のルーを利用することにしたが、できるだけ本格的なものに近づけたい。

夕食の準備を始めるには早い時間だが、一華とシンはキッチンに向かった。


「シン、玉ねぎのくし切りお願い。」


一華はシンにくし切りにするよう玉ねぎを手渡し、自分は人参とじゃがいもの皮を皮むき器で剥いていく。

シンは案の定、涙目になりながら玉ねぎをくし切りにしている。


「シン、泣いてるの?」


「……玉ねぎのせいだ。いつまでも慣れない。魔界の植物より手強い。」


一華は笑いながら、ティッシュでシンの涙を拭いてあげる。


シンが塊肉を切り、一華が塩コショウを振った後、小麦粉を薄くまぶしていく。

鍋で肉の表面に焦げ目がつくまで焼いていくのはシンの担当だ。焦げ目がついたところで肉を取り出し、バターを入れ玉ねぎを飴色になるまで炒めていく。


玉ねぎが飴色になったところに、一華が、人参、マッシュルームを加えていく。

焦げ目がついた肉を鍋と分量の水を入れて煮込む。煮立ったらアクを取って、蓋をして肉が柔らかくなるまで弱火で2時間弱ほどじっくりと煮込む。


吹きこぼれないことを確認した二人は、タイマーをセットして、少し遅いティータイムにすることにした。

シンはコーヒー、一華は紅茶を入れた。


「初めて作るけど、ビーフシチュー美味しくなるかなぁ。」


「本格的なビーフシチューに赤ワインが必要とは、俺たち高校生には買えないからな。」


「シンが大人になれば、買えたけどね。」


「さすがに、制服で大人になるのは無理があるな!」


「変な目で見られるかも。」


サンは一人でいることに寂しくなり、一華とシンの間にちょこんと座った。


「にゃにゃーん……(俺も入れてにゃ。)」


「サンちゃん、寂しくなったの?」


一華はサンの背中を撫でながら聞く。


「にゃーん……(寂しいにゃ。)」


「キャットタワーはもういいのか?」


「にゃーんにゃにゃ……(二人が居る時はいいにゃ。)」


「そうか。」


シンはおもちゃの方が良かったのかと思ったが、一華が欲しいと言ったのだ。後で、登る訓練をさせようと決意した。


タイマーの音が鳴った。二人はキッチンに向かう。肉が柔らかくなったようだ。火を止めて、ルーを入れて溶かす。弱火にしてとろみがつくまで10分程度煮込んでいく。


ジャガイモは別の鍋に入れて茹で、ブロッコリーは電子レンジで過熱しておく。


「隠し味って必要かな?」


「カレーの時みたいにか?」


「うん」


「まずは、味を確かめてからでいいんじゃないか?」


「そうだね。確かめてからにしよ。」


ルーも溶け、いい感じでとろみもついている。これで、火を止めて味をなじませていく。



◇◆◇



「そろそろ最後の仕上げにするか。」


シンの言葉で最後の仕上げに取り掛かる。

ビーフシチューを弱火でゆっくりとかき混ぜながら温めていく。その間にフライドチキンも温める。


ビーフシチュー全体がフツフツとしている。温まったようだ。

茹でていたじゃがいもを加えて混ぜたあと、お皿に盛り付ける。ブロッコリーを彩りよくのせていく。


テーブルにフライドチキン、ビーフシチュー、ご飯を並べていく。

サンには一足早く、猫用クリスマスケーキを出してあげる。


「サンちゃーん、ご飯だよー。今日はクリスマスケーキだからね。ゆっくり食べてね。」


「にゃにゃーん……(美味そうだにゃ。)」


「「いただきまーす!」」


一華とシンも食べ始める。


ビーフシチューを一口食べる。


「うん、美味いな。肉も口の中でホロホロとほぐれて、とろけていくな。」


「ほんと、とろけるー。煮込む時間かけただけあるね。」


一華はご飯をスプーンで掬い、シチューソースと一緒に食べる。


「うーん、やっぱり、シチューにはご飯だよねー。」


一華は『シチューはオン・ザ・ライス派』だ。


「シチューもカレーのように食べるのか?」


「美味しいよ。シンも食べてみて。」


シンも一華を真似てシチューソースと一緒に食べる。


「あぁ、美味いな。ハッシュドビーフのようだ。」


「でしょ。」


「でも、なんで、シチューとご飯を別々に出すんだ?」


「シチューって、ご飯派とパン派があって、更にご飯と一緒に食べる派と別々に食べる派があるの。」


「食べる人で、それぞれ違うのか。」


「うん、フライドチキンも温かいうちに食べよ。」


二人はフライドチキンに手を伸ばし、一口かぶりついた。


「これもスパイシーで美味いな。」


「フライドチキンって家で作るのって難しいんだよ。買うに限る。」


「人間界では、クリスマス・イブには、チキンを食べるのが決まりなのか?」


「決まりじゃないけど、本当は七面鳥なんだけど、この国では七面鳥なんか食べないから、代わりに鶏肉で作ったんじゃないかな。それからフライドチキンだけじゃなく、ローストチキンや照り焼きチキンもあるよ。」


「フライドチキンはいつでも食べられるんだけど、クリスマスだけは予約してでも買って食べるんだよ。」


「この国では、クリスマスならチキンにクリスマスケーキ、バレンタインにはチョコという感じで、飲食店やお菓子会社が始めたことに国民が踊らされているの。それに踊らされていても楽しいと思える時が一番楽しいかな。」


「俯瞰してみたら冷めるのか?」


「たぶんね。だから楽しめる時には、思いっきり楽しむ方がいいと思う。」


「一華は楽しいのか?」


「楽しいよ。シンが居てくれるから楽しい。一人だったら、たぶん楽しくない。無理やり、誰かと一緒に居ることも虚しくなると思う。」


「にゃにゃん……(俺もいるにゃ。)」


いつの間にか、サンが一華の話を聞いていた。


「うん、サンちゃんも居てくれるから楽しいよ。」


シンは深く頷き、初めてのクリスマスが心の底から温まる日になったと感じた。



◇◆◇



夕食後のデザートタイム。クリスマスケーキの出番だ。


一番小さいホールケーキを買ってきた。それでも、二人で食べるには多い。一人分ずつ切ってお皿に分けてテーブルに並べた後、一華とシンは自室からクリスマスプレゼントを持ってきた。

一華はシャンパングラスやワイングラスなどは買ってきていないことに残念だったが、普通のグラスを用意する。シンはシャン〇リーを冷蔵庫から取り出し、栓を開ける。


「ポン」という音がして栓がどこかへ飛んで行った。


「にゃっ……(にゃんだ?)」


「サンちゃん、びっくりしたよね。大丈夫だよ。」


シャン〇リーをトクトクとグラスに注ぐとシュワーッと泡立った。キラキラと光ってシャンパンのようだ。が、アルコールはほぼ入っていない。お子様用のシャンパンだ。見ただけで気分が高揚する。


「グラスを合わせる時、『メリークリスマス』って言うの。」


一華はシンに掛け言葉を教える。

グラスを掲げてシンと一華は「チン」と合わせる。


「「メリークリスマス!」」


クリスマスケーキを一口食べる。生クリームの上にイチゴが載っているが、一華は最初にイチゴは食べない。


「うーん、美味しい!」


「甘いな。」


「苦手?」


「大丈夫だ。食べられる。一華は夕食も食べて、ケーキも食べられるのか?」


「大丈夫、甘いものは別腹って言うんだよ。」


「別腹?」


「ご飯を食べた後でも、スイーツを見ると胃に隙間ができるんだよ。だから食べられる。」


「都合がいいお腹だな!」


「だから、太るんだよ!」


「食べたら鍛錬すればいい。」


「運動はヤダ!」


「太るのと鍛錬とどっちが良いんだ?」


「どっちも嫌だけど、今は食べるだけ!」


「ははは、太った時に考えればいい。」


「そうすることにする。ね、プレゼント交換しようよ。」


「あぁ、俺からはこれだ。」


「私からはこれ。」


二人はプレゼントを交換して封を開ける。


開封して目にしたシン。そこには一華が選んだふわふわした女子好みの黒猫のキーホルダーがある。

シンの顔はみるみる綻んでいく。


「これは黒猫。仁華か? サンか?」


「どっちに受け取ってもいいよ。私もお揃いにしたの。」


一華はお揃いの黒猫のキーホルダーを見せる。


「かわいいでしょ。」


「あぁ、かわいい。仁華だな!」


「付けてくれる?」


「あぁ、早速つけよう。」


シンはマンションの鍵を持ってきてキーホルダーにつけた。

一華はシンから受け取った袋からプレゼントを取り出し開封した。そこにはハートの形をしたピンクのヘアブラシが収まっていた。


「あっ、これ、欲しいと思ってたんだ。なんで、わかったのー!?」


「……。」


「もしかして、思考を読んだ?」


一華の驚きに、シンは少しバツが悪そうに白状する。


「よ、読んではいない。……ただ、この前、別行動した時に心配だったから、魔力感知で追っていた時……、一華の声が響いたんだ……『艶々になるヘアブラシが欲しい』って。」


「確かに、言った。」


「で、近くのショップを探して、三人で買いに行った。」


「もしかして、三人とも同じなの?」


「あぁ」


「ははは……もう……もしかしてキーホルダーも知ってた?」


「すまない。聞こえた……。」


「えーっ、サプライズだったのにー?」


「でも、黒猫のキーホルダーってのは聞こえたが、こんなに可愛い物とは思ってなかったから、嬉しい!」


「本当に嬉しい?」


「あぁ、本当に嬉しい。しかも二人だけのお揃いだ!」


「うん、じゃぁ、許す。これからはサプライズできないね。」


「一華は気が抜けていただろ。俺が隣にいないから、思考を読まれるとは思っていなかったはずだ。」


「うん」


「もっと鍛錬して、思考は内に向けるようにしなければ、俺以外にも全ての思考を読み取られるぞ。」


「せっかくのイブなのに、結局、鍛錬になるの?」


「ははは、そうだな。」


せっかく楽しいクリスマス・イブが、鍛錬を強化する切っ掛けを作ってしまい、自分の首を絞めている一華だった。

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