第70話 サンの外出
サンとの約束を果たすため、今日は三人で外出だ。
12月の昼間は太陽が出ていても、猫の体には空気が冷たいはずだ。
「サン、本当に外出するのか? 外は寒いぞ。」
「にゃにゃーんにゃ……(行きたいにゃ。)」
「サンちゃん、ペット同伴OKのお店で着ぐるみ買いに行かない? そしたら暖かくなるよ。」
「にゃにゃーんにゃにゃ……(着ぐるみってにゃんにゃ?)」
一華は「こんなんだよー。」とスマホをサンに見せる。
「かわいいでしょ!」
「にゃにゃんにゃ……(かわいいにゃか?)」
「だって、外寒いでしょ。こんなポンチョ型もあるよ!」
「かわいいな。仁華にもいいな。仁華用も買いに行こう。」
かわいい服が好きなシンは乗り気だ。
「にゃにゃんにゃー……(俺は、服はいらないにゃ!)」
「いらないの?」
「かわいいのにな!?」
「どうする? どこ行くの?」
「にゃんにゃ……(公園にゃ。)」
「保護したところ?」
「昼間だと、浩輔に会いそうだよな。」
「サンの事、知ってるけど、仁華のために新しい公園に行きたいよね。」
「そうだな。新しい公園を探索だ。サン、別のところ行くぞ。」
「にゃんにゃにゃ……(仕方にゃいにゃ。)」
「高校とは逆の方がいいよね。ここら辺にあるよ。」
サンには仁華用のリードを装着して、シンのパーカーの中に抱え込んだ。
一華はおやつを用意してバッグに入れる。
二人は暖かい格好をして玄関を出て新しい公園へ向かった。
目的の公園に行くには、繁華街を抜ける方が近道だ。休日の繁華街は、軽快な音楽があちこちから流れている。
「一華、この音楽、あちこちから聞こえるが……?」
「もうすぐ、クリスマスだからね!」
「クリスマス?」
「にゃにゃんにゃ……(クリスマスってにゃんにゃ?)」
「12月25日、イエス・キリストの誕生を祝うキリスト教のお祝いなんだけど、24日のクリスマス・イブの方がメインかな。」
「クリスマス・イブ?」
「その夜はサンタクロースがやって来て、眠っている間に子供たちにプレゼントを置いてくの。というサンタクロースってのは、親が代わりにやってるんだけどね。」
「サンタクロース?」
「クリスマスケーキやチキンを食べたり、プレゼントを交換しあったり、クリスマスパーティをしたりして、今年最大のメインイベントかな。」
「クリスマスケーキにプレゼント?」
「でね、恋人たちはその日は二人っきりで過ごすんだよー。」
「なんか、ものすごい情報量だが……。」
「じゃぁ、経験してみよ! 24日に、クリスマスケーキとチキンを食べて、サンタクロースはいないから、プレゼント交換しよ!」
「あぁ。」
「にゃにゃーんにゃ……(プレゼント、俺も欲しいにゃ。)」
「帰りに、クリスマスツリー買って帰ろうよ!」
「クリスマスツリー?」
「ほら、あちこちのお店の出入口に飾られている木のオブジェ。」
「大きいな。」
シンはキラキラと輝くクリスマスツリーの大きさに戸惑う。
「リビングにも飾られるくらいの大きさもあるし、組立式だから大丈夫だよ。」
クリスマスソングを聞き、あちこちのクリスマスツリーを見ながら、繁華街を抜けて行ったところにある公園に到着した。
冬の公園は寒いからか、遊んでいる子供たちはバラバラいる程度だ。空いているベンチに座るが、サンは寒いからかシンのパーカーから出ようとしない。
「サンちゃん、寒いんでしょ。」
「にゃにゃ……(顔が寒いにゃ。)」」
「やっぱり、服買った方が良かったんじゃないのか?」
「にゃんにゃ……(服はいらにゃいにゃ。)」」
「頑固だねぇ、かわいいのに。」
ふと、サンの耳がぴくっと動く。耳が向いた方へ顔を向けると、そこには猫が1匹、こちらの様子を伺っていた。
飼い猫とは思えない顔つきだ。外で生きていく厳しさが顔に出ている。この公園はこの野良猫の縄張りなのか。
「シン、野良猫がこっち見てるよ。」
「ここのボス猫かな?」
「サンちゃん、狙われてるの?」
「よそ者のサンを追い出す気か?」
「***(一華、野良猫に話しかけられるか?)***」
「***(やってみる。)***」
一華は深呼吸し心を研ぎ澄ました。
((猫ちゃん、聞こえる? ちょっと散歩に来ただけだよ。猫ちゃんの縄張りを奪いに来たわけじゃないよ。))
野良のボス猫は、こちらをずーっと見つめていたが、『にゃん……(わかったにゃ)』と一声鳴いた後、再び歩き出し通り過ぎて行った。
「***(私が言った事、わかったって!)***」
「***(猫の言葉はわかったのか!?)***」
「***(わかったにゃって言ったにゃ)***」
「***(サンちゃんもわかったの? 私、猫ちゃんの言葉わかるみたい!)***」
「***(以前、水族館でカメにも通じただろ! これで、本当に種族を超えたな!)***」
「***(すっごーい! 浄化っていうことじゃないと思うけど、猫ちゃんとも話し合えるよー。)***」
一華は満面の笑みで喜んでいる。
しかし、シンは散歩コースの公園としては却下する。
「サン、縄張りがあるからここはダメだな。」
「にゃにゃん……(今日は帰るにゃ。)」
「もう帰ろう。クリスマスツリー買って帰ろう。」
「サンは、店内に入れるのか?」
「あー、どうだろう? ホームセンターとかペットOKじゃない?」
一華は近くのペット同伴可のホームセンターをスマホで検索する。
「あったよ。ここ。ペットカートに乗せれるよ。」
「近いな。ここ行くぞ。」
二人と一匹は公園を出て、繁華街の近くにあるホームセンターに向かった。
◇◆◇
ホームセンター店内に入ると軽快な音楽、クリスマスソングが流れている。クリスマス一色の装飾がされた店内は一華の気分を一層高揚してくれる。
一華とシンは、サンをペットカートに乗せて売り場を探し歩く。
まずは、クリスマスツリーだ。小ぢんまりとしたかわいいクリスマスツリーがいっぱいある。
「これ、かわいい!」
一華は乾電池式の卓上クリスマスツリーを指さした。
「これぐらいなら置き場所に困らないな。」
「ね! これに決まりね!」
サンプルと同じツリーの箱をカートの下に乗せる。
次に向かったのはペットグッズコーナーだ。仁華用のポンチョを探す。
「ポンチョはないけど、ボアチョッキだって! これがいい!」
「あったかそうだな。サンも色違いで買うか!?」
「買おう買おう。サンちゃんが嫌なら仁華でも着れるし。」
「にゃにゃんにゃ……(仁華とお揃いなら着るにゃ!)
「ふふっ、何色がいい? ピンクは仁華用だから……青に黄色」
「にゃにゃにゃ……(男だから青がいいにゃ!)
「わかった。青ね。」
一華は自分用にピンクと、サン用に青のボアチョッキをカートに入れた。
「ねぇ、もうそろそろドライフード試してみる?」
「そうだな。子猫用……と。試しに小袋だな。手頃な奴でいいか。」
「そうだね。いろいろ試してもいいし。」
サン用のドライフードをカートに入れ会計へ足を向けた時、このままでは荷物が持てないことに気付いたシン。
一華としては、自分で持つつもりでいたが・・・。
「一華、サンを抱いていては荷物が持てない。キャリーバッグも買うぞ。」
「ん? あぁ、そうだね。動物病院にも行かないといけない必要だよね。」
「にゃにゃーんにゃ……(何しにいくにゃ。)」
「***(去勢手術……)***」
一華は申し訳ないようにテレパシーで呟いた。
「にゃーん……(そうにゃ……。)」
サンはしゅんとなる。
「これなんかどうだ!? サンは外の様子も見れるぞ。」
「私でも背負えそうだし、これいいね。これにしよう!」
今度こそ、会計へとカートを進めて打ち出の小槌で支払いを済ませた。
早速、キャリーバッグにサンを入れて、シンは背負う。両手に全ての荷物を持って帰路につく。
サンは今迄シンと密着していたため、暖かかったが、キャリーバッグの中は寒い。
「にゃにゃーんにゃにゃ……(シン、寒くなったにゃ、何とかしてにゃ~。)」
「さっき買った、ボアチョッキ着る?」
「にゃにゃーんにゃ……(一華とお揃いじゃにゃいけど仕方にゃいにゃ~。)」
一華はサンをキャリーバッグから出してボアチョッキを着せてバッグに戻してあげた。
「あったかい?」
「にゃにゃーん……(あったかいにゃ~。)」
「でしょー。買ってよかったね。」
二人と一匹の外出の形ができた。
「これで、カフェとかにもサンちゃんと一緒に行けるね。」
「たまには、そういう外出もいいな。」
「サンちゃん、いっつもお留守番だからね。寂しいよね。」
「にゃんにゃーん……(俺も一緒にゃ~。)」
「うん、行こ行こ。」
◇◆◇
一華とシンは帰り着き、サンをキャリーバッグから出して、ボアチョッキを脱がそうとするが、逃げてしまい捕まえられない。気に入ったのか、部屋の中は暖かいにもかかわらずそのまま着続けるサン。
シンはクリスマスツリーをリビングの隅に飾った。ツリーが点灯すると雰囲気はぐっとクリスマス気分になった。




