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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第68話 生徒会引継式

12月に入り、放課後、生徒会の引継ぎ式が行われる。

一華、シン、浩輔、直哉、理那、真由の六人は生徒会室に向かった。


生徒会役員達は、役職ごとに数日前から引継式のための書類を準備していた。

文化祭の備品リストや予算決算書、年間行事の進行マニュアルなど、テーブルの上に積み上げられた膨大な資料を前に、シン以外は少し圧倒されている。

テーブルを挟んで、現生徒会役員と次期生徒会役員が向き合ったところで、生徒会長が進める。


「今から、新旧引継式を開始する。役職ごとに分かれて説明に入る。」


シンは手元の資料をパラパラと捲っただけで、全体の問題点を把握していた。


「会長、説明は最小限で大丈夫だ。手順の要点はこちらでまとめる。」


「副会長の浩輔と直哉は、各部活動への予算配分と折衝は君たちに任せる。今までのトラブル事例を頭に叩き込んでおけ。判断に迷ったら俺に回せ。」


「書記の理那と真由は、議事録のデジタル化を進める。テンプレートは俺が作るから、君たちは情報の整理に専念してくれ。無駄な入力作業は省く。」


「会計の一華は、数字の整合性だけ見てくれればいい。細かい計算は俺がチェックする。一華は使い過ぎている部活がないか直感で教えてくれればいい。」


(シン、魔力使ってないよね。あっという間にみんなの役割ごとに整理されていく……)


現生徒会の面々は、呆然と立ち尽くしていた。自分たちが引継ぎを受けた時は、時間がかかり数日間を要していたことを思い出していた。


「シン君、君、本当に1年生か? 事務処理能力……いや、人を動かす力がすごいな。」


現生徒会長の感嘆の声に、シンは表情一つ変えず、淡々と答える。


「……帰国するまで、(叔父上だが……)父から帝王学を教え込まれていた。……効率化は組織の基本だからな。」


「帝王学って……マジかよ!?」


浩輔は今迄聞いたことが無かった単語に憧れ驚く。

現生徒会長は今日の終わりを告げる。


「今日の引継ぎ式は終わりにする。今後は時々、顔を出してくれるだけでいい。帰りがダメならお昼休みでもいい。連絡するよ。」


「「「「「「失礼します。」」」」」」


六人は生徒会室を出て行く。


「お疲れ、今日はこれで解散だ。」


校門を出て、それぞれが帰路についた。


シンが早めに終わらせてくれたことで、浩輔は理那を、直哉は真由を早めに送り届けることができた。

直哉は早々に良いモデルを見つけたことに、真由は不安だった気持ちが軽くなることに、安堵しながら帰って行った。


今日は遅くなる予定で、サンちゃんのご飯も多めに準備してきていたが、まさかこんなに早く帰れることになるとは思っていなかった一華の足取りは軽い。


「シン、すごいね。パパから帝王学を教え込まれていたなんて。……本当に次期魔王候補なんだ。」


「あぁ、魔界の執務に比べたら、簡単だったな。」


「それより、どうして私が直感で数字を見てると思ったの?」


「ん?」


「理数系は得意だけど、ほとんどが直感とか閃きで答えが解るというか……、答えから逆に正しいかどうかを判断するというか、シンが前言ってた論理的思考とは違うんじゃないかと思うんだけど……。」


「直感と閃きは、過去の記憶データベースや経験値から脳が無意識に処理した結果であり、単なる『勘』や『思いつき』とは異なる、高い信頼性を持つ思考プロセスだ。一華の脳は意識下で、高速かつ正確に論理計算を行っているんだ。」


「そう言われると、脳の中ではものすごい事してるようだけど、全く処理している感覚が無いんだよねぇ。」


「情報処理スピードが速すぎて、一華が意識する前に処理が終わっていて答えが解る感じといえば分かるか? 理由が分からなくても『なんとなく違う』という違和感を感じる感覚を大事にするといい。」


「うん。『なんとなく違う』ならわかるかも。」


一華はシンの横顔を見つめながら、次期生徒会という新しい居場所に向けて楽しくなっていった。



◇◆◇



「サンちゃーん、ただいまー。」


一華の明るい声がリビングに響いた。予定よりも遥かに早い帰宅に、サンはしっぽを立てて喜んだ。


「にゃにゃーん……(一華、早いにゃー。)」


「もう少し遅い予定だったけど、シンがね、テキパキと進めてあっという間に終わったんだよ!」


一華は今日の生徒会引継式での出来事を自慢げにサンに話す。


「にゃにゃにゃーんにゃ……(シンは何したんだにゃー。)」


「一華、制服着替えてからだ!」


シンは制服を着替えてリビングの一華に声を掛ける。


「はぁーい」


一華はサンの問いに答えることなく、リビングを出て自室に向かった。

代わりにシンが答える。


「帝王学で引継ぎをしただけだ。」


「にゃーんにゃにゃ……(俺にも、帝王学教えてにゃ。)」


「サンには必要ないだろ。猫族のボスにでもなるのか?」


「にゃーんにゃにゃーん……(一華とシンとずーっと一緒にゃ。猫王ににゃるにゃ。)」


「えーっ! サンちゃん、猫王になるの!?」


着替えて、リビングに入ってきた一華。


「にゃーんにゃ……(だから俺にも帝王学教えてにゃ。)」


「魔王と猫王か。面白いが、お前の部下はいるのか?」


「にゃんにゃ……(いにゃいにゃ。)」


「なら、必要ないな。お前は俺たちのペットとして過ごせばいい。」


冷たくあしらうシンだったが、その口調にはどこか家族としての温かみが混じっている。


「サンちゃんが、シンを真似たいなんて、パパの真似をする子供みたいだね。」


一華はサンの健気で少し生意気な決意に微笑んだ。


「にゃんにゃにゃーにゃ……(魔界に帰ったら、猫族の部下つくるにゃ。)」


「あぁ、頑張るといい。」


シンはサンが猫王になると言い出すと思っていなかったが、ただの夢だろうと思っている。

シンと一華はキッチンに行き、夕食の準備に取り掛かった。


サンはいつも通りにリビングに取り残され、暇を持て余して、(猫王、猫王)と想像していた。

一華とシンの脳内に、直接「声」が響いてきた。


「***(サン、猫王になりたいか?)***」


「***(にゃにゃ? シンにゃか? 猫王になりたいにゃ!)***」


「***(サンちゃん!? テレパシーなの?)***」


一華は手を止め、驚きで目を見開いてシンの顔を見る。


「***(そうみたいだな!)***」


シンはニヤリと笑ってテレパシーで答える。


「***(テレパシーにゃ? テレパシーにゃ!)***」


サンはリビングを出てキッチンの方へ掛けて行き、シンと一華の足元にすり寄った。


「サン、テレパシーは俺たちだけに届くようコントロールしろ。」


「***(わかったにゃ!)***」


ついにサンの魔力が覚醒した。

夕食後、三人はリビングに集まり、夜が更けるまでサンのテレパシー訓練に没頭した。

一華から提案があった。


「***(三人だけの合言葉、いいの見つけた!)***」


「***(なんだ?)***」


「***(にゃんにゃ?)***」


「***(猫王)***」


「***(いいな!)***」


「***(でしょ!)***」


「***(サン、合言葉は「猫王」だ!)***」


「***(わかったにゃ。猫王にゃー!)***」


これで、サンが変身しても本人確認が出来るようになった。

後は、一華の浄化の魔力覚醒を待つのみとなった。

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