第67話 新生徒会長
お昼休み、昼食を食べ終わり、ゆったりとした時間が流れている時。
「シン君は、いるかー!?」
誰かが屈託のない声で、1年A組の出入り口で叫んだ。
「ん?」
シンは声の方へ顔を向ける。一華達だけでなく、他の生徒もみんな声の方に顔を向けていた。
「俺ですか?」
シンは警戒を強化して、声の主に問いかける。
「おー、いたいた。」
声の主はズカズカと教室の中に入り、シンの前までやってきた。
「単刀直入に言う。次期生徒会長に立候補してくれ!」
「はっ?」
シンを訪ねて来た生徒は、2年生の現生徒会長だ。
生徒会長自ら、シンを口説きに来たわけだ。
「俺は、立候補するつもりはないが!?」
「わかっている。だから、こうして口説きに来た。何もしなければ、君は立候補しないだろうから。」
「俺の優先事項は一華を守るだけだ。生徒会に興味はない。」
シンは上級生にも変わらない口調で言い切る。
「それだよ。一貫して優先事項を貫いている、それに周りに流されないし、球技大会や体育祭でも君を中心に生徒が集まる。カリスマ性があるんだよ。他に適任者がいるか?」
生徒会長は、周囲に流されず、常に一華を守るという強い意志を貫くシンに、リーダーとしての「本質」を見抜いていた。
「2年生の中にはいるんじゃないのか?」
「まぁ、務まる生徒はいるだろうが、2年は3年に上がれば受験に全振りする。実際、生徒会長は現1年が務めることになる。それに君ほどのカリスマ性を持った生徒はいないだろ。考えてくれ。」
現生徒会長は教室を出て行った。
一連のやりとりを見ていた生徒達からは「立候補したら」「立候補してくれ」「賛成だ」などの声が上がる。
「生徒会長、立候補するの?」
一華から不安な声で聞かれる。
「生徒会長になれば、一華の護衛ができない。立候補はしない。」
「でも、シンが生徒会長になって、役員に一華を選出すれば護衛できるんじゃないか!?」
浩輔は生徒会規約を見ながら提案する。
朝のホームルームで担任から生徒会長選出について後ろの黒板に貼り紙が出されていた。
うちの高校の生徒会は結構自由だ。生徒会長が生徒会執行役員の任命権を有する。
生徒会長が任命しない場合に選挙で選出することも出来るとある。
「ほら、生徒会長になれば、脇を固められるって事だ。」
一華とシンにとっては、生徒会なんて関係ないと特に気にするでもなく授業を受けていた。もちろん、立候補することは考えていない。ただただ、一華を護衛し、高校生活を楽しく過ごすことだけが優先事項だ。
「生徒会に入れば、帰りが遅くなる。」
「俺たちも手伝ってやるよ。一人じゃ遅くなるが、シンが業務を振り分ければ早く終わる。トップに立つのは自ら動くことも有るだろうが、上手に人を使うことが出来る人間だけだ。」
お昼休みの時間が終わり、午後の授業が始まった。
一華は、シンの生徒会長立候補のことが気になり、授業に身が入っていなかった。
「***(一華、授業に集中しろ。)***」
「***(生徒会長、立候補するの?)***」
「***(……その件は、帰ってからにするぞ。)***」
「***(わかった……。)***」
「***(今は授業に集中だ。)***」
◇◆◇
一華とシンは帰宅して、サンを抱きながら今日の事を話していた。
「ねぇ、シン、どうするの?」
「立候補の件か?」
「うん」
「立候補すると帰りが遅くなることがあるだろう。サンの留守番も長くなる。」
「にゃにゃーんにゃ……(俺、寂しいにゃ。)」
「毎日じゃないと思うけど……。」
「引き受ける以上は、自分達だけが先に帰って、後を任すわけにはいかないよなぁ……どうしたものか。」
浩輔が提案した「生徒会長の権限で役員を任命し、一華を隣に置く」という案が、シンの心を動かしていた。
「引き受けるんだ……。」
「ん!? 引き受けると決めたわけではないが???」
「でも、『引き受ける以上は』って言ったよ。」
「言ったな。が、引き受けた後の事を考えていただけだ。」
「そうなの? 引き受けないの?」
一華とシンの話し合いは堂々巡りとなって答えが出そうにない。
引き受ける気が無いのなら、いつも通り、冷徹に言い放てばいいだけだ。なのに、シンにはそのつもりが無いのか?
「ねぇ、引き受けたら?」
「いいのか? 帰り遅くなるぞ。」
(やっぱり、引き受けたいんだ。)
「私も一緒に居れるんでしょ。それに浩輔達も手伝ってくれるらしいし。……サンちゃんには寂しい思いさせるけど、猫はお留守番が出来るらしいよ。来年になれば修学旅行で何日間もお留守番することになるんだから、今のうちに慣れさせておくことも大事だし。」
「にゃにゃーんにゃにゃ……(にゃん日間も留守番するにゃか?)」
「そうだよ、修学旅行の4日間くらいかな、一人でお留守番だよ。」
「しゅっ修学旅行って、外泊するのか?」
シンは初めて聞く単語の意味に驚く。
「うん。男女にわかれて旅館やホテルに泊まりながら、いろんな場所を巡るのが修学旅行なんだよ。」
「護衛できないではないか!」
「夜は別室になるから、自衛することになるね。だからね、慣れさせるためには、いい機会なんじゃない?」
「サンの事はいい機会として慣れさせていけばいいが……一華は自衛が必須だ。大丈夫か?」
「ブレスレットもあるし、通学は変わらず一緒なんでしょ。」
「あぁ、通学時は必ず一緒だ。だが、校舎内では難しくなることが考えられる。」
「校舎内は理那や真由もいるし、自衛もする。」
「わかった。引き受けるか。」
「うん、2年生になっても六人で楽しもうよ。」
「ふふっ、目的は六人で集まれる場所か!」
「それもある。クラスは別になるけど、生徒会室に行けば会えるでしょ。」
「一華は何の役員になるつもりだ?」
「副会長は、浩輔君と直哉君でしょ。書記と会計があるよね。会計がいいかな。書記は理那と真由にお願いする。」
「あぁ、そんなところだな。」
「じゃぁ、決まりだね。」
生徒会長が任命できる役員を一華が決めていく。立候補を決断させたのも一華による遠回しな誘導だった。これも、次期魔王候補(婚約者)兼護衛とプリンセスという本来の姿が関係しているのか。
生徒会長に立候補することは決まった。役員もあとは、許可をもらうだけだ。だが、話の中で出て来た「修学旅行」という未知の言葉だ。初めての外泊にどう対処すればいいのか、生徒会より難題をどうシンは乗り切ろうかと、そればかりが頭を巡っていた。
◇◆◇
翌日のお昼休み。いつもの六人がお弁当を広げた。
「生徒会長、立候補引き受ける。」
「おー、賛成だ。」
「そこでだ、副会長に、浩輔と直哉、書記に理那と真由、会計は一華で臨む。」
「えーっ私も?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど、書記と言っても生徒会役員、私にできるかな?」
真由は生徒会役員になることを不安視している。
「別に、一人で遂行させるわけじゃない。生徒会上のただの肩書だ。みんなで生徒会を執行する。不安視することはない。」
「そうだ、俺たちがいる。」
直哉も真由を励ます。
「うん。」
「今日、立候補届出してくるから、よろしくな。」
「「「「「ラジャー」」」」」
◇◆◇
放課後、生徒会室に寄った一華とシン。シンは生徒会長に立候補届を提出した。
「シン君、待ってたよ。選挙運動期間は来週〇~〇日、投開票は翌々週の〇日、任期は4月1日~翌年3月末日だ。詳しくはこの冊子を見ておいてくれ。」
シンは冊子を受け取って生徒会室を出ていく。生徒会長から出た言葉の意味が分からない。
(選挙運動とは何だ? 投開票とは?)
「一華、選挙運動って何だ?」
「立候補者が有権者に対して、公約や抱負を伝えて、共感してもらって支持者を集める活動で、1票を投じてもらうの。」
「投開票は、有権者の生徒が一人ひとり支持する生徒会長の名前を用紙に書くのが投票で、開票は投票した数を集計していくことだよ。」
一華は冊子を見ながら
「全校生徒の前で演説会があるらしいよ。」
「何を演説するんだ?」
「生徒会長になってやりたいこととか?」
「立候補してくれって言われたから立候補しただけで、やりたいことってないぞ。」
「そうだよねぇ。」
シンはこの高校で何かをしたいわけではないし、より良い高校生活を送りたいわけでもない。
「特に何も言うことが無ければ、落選するのか?」
「どうだろうね。生徒会選挙と言うよりかは人気投票になりそうだけど……。」
「人気投票……か。」
「女子生徒はほぼ、シンに投票するのでは? 生徒会長になれば、教室から出て何かをすることが多くなるだろうから。」
「……取りやめるか。」
シンは与えられた業務を遂行するだけと思っていたが、人気投票と聞いて急に熱が冷めて来た。
「もう、立候補したんだから諦めなよ。」
「……。」
「明日でも、みんなに考えてもらおうよ。推薦者の応援演説もあるんだし。」
「推薦者って、現生徒会長だぞ。」
「浩輔も手伝うって言ったんだからお願いしたら?」
「責任取らせよう。」
◇◆◇
一華とシンはお昼休みに、演説会でスピーチ内容について浩輔達に助言を求めた。
「それがさぁ、生徒会長自らシンを口説きに来たことが全校生徒に広がっていて、他に立候補者いないらしいぜ。」
浩輔がまた、どこからか仕入れてきていた。
「ということは、無投票当選ってこと?」
「そうなるだろうな。」
「俺だって、シンが相手じゃなければ立候補してたけど、ヘタは打ちたくないからな。」
「演説も無くなるの?」
「立候補や応援の演説はないだろうが……代わりに当選の挨拶ぐらいはあるんじゃないのか?」
「まぁ、一安心ってとこかな!?」
「そうだな。」
「そういえば、今日までじゃないのか!? 立候補の受付って。」
「帰りには判明してるな。」
「帰りに生徒会室に寄っていくか。」
◇◆◇
生徒会室に赴いたシンと一華。
「シン君、おめでとう。君の無投票当選が決まったよ。」
「そうですか。」
生徒会長の思惑通りだろう。浩輔から聞いていた通りだ。シンは表情を変えずに答える。
「これからは、どうなるんですか?」
「まずは、生徒会長以外の役員任命だ。その後に全校生徒の前で執行役員全員が挨拶をする。」
「副会長2名、書記2名、会計1名は選出が終わっています。」
「仕事が早いな。」
「全校生徒への挨拶は立会演説会の日を充てるよ。」
「自らが立候補したわけではない俺は、何を言えばいいんですか?」
「自己紹介と、そうだなー。何でもいいよ。好きなこと言っていい。」
「12月以降は執行役員の業務引継ぎを行っていく。卒業式は手伝ってもらう。現生徒会の任期は3月末までだが、俺たちが関わるイベントはそこで終わりだ。あとは、入学式に向けて助言するのみだ。」
「わかりました。」
「じゃ、全校生徒への挨拶よろしく。」
「「失礼します。」」
シンと一華は生徒会室を出る。そこには、浩輔、理那、直哉、真由が待っていた。
廊下を歩きながら、言われた内容を告げる。
「全校生徒への挨拶は立会演説会の日だってよ。執行役員全員が挨拶だ。」
「えーっ、私たちも?」
「あぁ、自己紹介と、後は何でも好きなこと言っていいってさ。」
「ふーん」
「シンは何言うんだ?」
「今は特にないな。」
「それから、12月以降は全員が業務引継ぎを行っていく。卒業式も手伝うことになる。」
「急に忙しくなるな。」
「あぁ、大丈夫か!?」
「いい経験になるよ。六人居れば何とかなるだろ。」
「じゃぁな。」「またね。」
と校門を出て、それぞれ家路につく。
◇◆◇
全校集会。立会演説会を予定していた日だ。
体育館に集合し、全校生徒に向けて新生徒会執行役員の挨拶が行われる。
現生徒会長と一緒に、シン、浩輔、直哉、理那、真由、一華の順でステージ上に上がる。
シンとしてはできれば一華には隣にいて欲しかったが、役職や挨拶順からどうしても隣にすることはできなかった。
現生徒会長が司会を務める。
「生徒諸君、おはよう。ただいまより、新生徒会執行部役員を紹介する。まずは、無投票当選を果たした新生徒会長のシン君からだ。」
シンが中央のマイクの前に立ち、全校生徒の全体を見回す。歓声が沸き起こる。
「おはようございます。次期生徒会長に就任することになりました……シンです。」
上級生や教師を前にして、いかにも生徒会長らしい態度で自己紹介を行うシンだったが……深呼吸した後、いつもの冷徹な表情になり重く低い声で言葉を続ける。
「……と、俺は生徒会長を務めることは本意ではない。優先事項はここにいる一華を守ることであり、卒業後に両親の元に連れ帰ることが俺の任務だ。……だが、現生徒会長に口説かれここにいる。生徒会長職を引き受けた以上は職務を全うするつもりだ……が、一華が傷つくようなことがあったなら、即座にここを辞めて親元まで連れ帰る。全うできるかどうかは君たちの気持ち次第だ。ということで1年間よろしく。」
シンは頭を下げた後、後ろに下がった。
一瞬の静寂。誰もが耳を疑うような衝撃的な発言。生徒・先生は驚き、衝撃のあまり声にならない。生徒会長が「好きに言っていいよ。」とは言ったが、就任の挨拶としてはどうかと思う。
が、1年A組の辺りから拍手がパラパラと聞こえたかと思うと、体育館は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
圧倒的な「個」の力と正直さが、かえって生徒たちの心を掴んでいた。
なかには「私も守って」や「やめないで」など、叫んでいる女子生徒や「かっけぇ」という男子生徒までいる。
一華はシンの言葉に顔を真っ赤にして両手で覆い隠している。
「***(就任の挨拶でなんてこと言ってんのよ。)***」
「***(ここで、宣告しておく方が後々いいだろ。)***」
「***(この後、私なんて挨拶すればいいのよー。)***」
「***(……悪い……。)***」
現生徒会長が拍手と歓声を鎮めて、副会長の浩輔と直哉、書記の理那と真由を紹介し、挨拶をしていった。
「最後に新生徒会会計係の一華君だ。」
赤らめていた顔は少し治まっていたが、緊張した面持ちで、一華は中央のマイクの前に立つ。
「おはようございます。次期生徒会長より任命を受け、会計を務めさせていただくことになりました一華です。至らない点も多いと思いますが、責任をもって会計係を務めたいと思います。卒業までこの高校にいたいので、よろしくお願いします。」
一華は丁寧に無難な挨拶をする事が出来たことでホッとして後ろに下がって行った。
拍手が沸き起こったことに支持を受けたと感じることができ、更に安堵した。
現生徒会長は締めの挨拶をする。
「これで、新生徒会執行役員の紹介を終わる。今一度、盛大な拍手を!」
拍手と歓声、アイドル応援並みのシン君コールが沸き起こった。
シンとしては(何なんだ??? 俺に何を求めてるんだ?)意味不明だった。
「全校集会は終了だ。教室に戻るように!」
全校生徒が教室に戻って行く。シン達六人もステージを下りて教室に戻って行った。
「***(一華、兄妹設定伝えるの忘れた……)***」
「***(私も忘れてた……)***」
上級生たちに対して、兄妹設定を伝えておくことが吉と出るか凶と出るかはわからないが、一華への不要な嫉妬は防げたであろうことは二人の共通の想いだった。




