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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第66話 冬支度

11月に入り、寒くなってきた。一華は我慢できなくなり、冬の定番、こたつを出すことにした。


「シン、今から、こたつを出すから手伝って。」


「こたつ?」


「うん。冬の必需品。」


「クローゼットの上の棚にあるから、手伝って。」


一華はシンと一緒に自室のクローゼットを開けて、上の棚を指さす。


「この袋、取って。」


「よし、これだな。」


シンは大きな収納袋の取っ手を手に取り下ろした。リビングまで持っていく。

リビングのテーブルを退けて、ソファとテレビの間に敷布団を敷く。ヒーター付きテーブルを元に戻して、掛布団を掛けて天板を上に置いた。


テーブル内に収納していた電源ケーブルを差して、コンセントに接続する。

ヒーターが暖かくなり温風が噴き出すことでこたつ内全体が暖かくなった。


「これがこたつだよ。」


「シンも入ってみて。暖かいよ。」


「サンちゃんも入っていいよ。」


シンも掛布団をあげて足を中に入れる。シンの表情が変わった。


「暖かいな。」


暖かさで綻んだ。


「にゃにゃん……(暖かいにゃー。)」


サンは中に入って暖かさに溶けて伸びてしまった。


「でしょ。エアコンだけだと、上のほうだけが暖かくなって、足元が寒いんだよね。」


「これ、いいな。」


「魔界には無いよね。」


「無いな。」


「どうやって温めるの?」


「人間界で言うエアコンだな。フローリングや畳と言う床が無いからな。こたつは無いが、暖炉や薪ストーブはある。」


「そうなんだ。靴履いた生活なんだ。」


「靴を脱ぐ生活もいいもんだな。リラックスする。」


「うん、帰って来たーって思うでしょ。」


一華とシンはこたつの中でまったりと話しているが、冬支度はまだ済んでいない。


「まだ、冬支度は終わってないからね。シンの毛布と温かいシーツ買いに行こうよ。」


「今からか?」


「今からでも、お昼食べてからでもいいけど……。」


「もうすぐ昼だから、早めに食べてから行くか。」


「そうしよ。」



◇◆◇



昼食後、一華とシンは大型スーパーの2階寝具売り場に足を運ぶことにした。

サンはぐっすり眠っていたので、起こさないよう、こたつの電気だけを消して、そのままにして出て来た。



「シーツはボックスシーツがいいよね。洗い替え用と2枚ね。何色にする?」


「ネイビーだな。」


「2枚とも?」


「あぁ」


「布団はこれで、掛布団カバーは毛布にもなるタイプにする?」


「1枚で済むなら、これがいいな。」


「毛布はいらない?」


「寒ければ、また買いにくればいい。今日はこれだけでいい。」


「次はパジャマね。」


一華はもこもこのホームウェアを選んでいる。


「中までもこもこと、肌触りのいいやつ、どれにする?」


「このもこもこ、いいんじゃないか? サイズは……あるな。これにする。」


「じゃぁ、これと、私は着る毛布のピンク買う。」


「シンは着る毛布いらない?」


「パジャマが暖かそうだが?」


「そう? あった方が暖かいと思うけど、寒かったら、また買いにこよう。」


「今日はこれだけでいいかな……。」


一華はちゃっかり、自分のものまでカートの中に入れた。

支払いはいつもの打ち出の小槌でシンが済ませる。


さすがに嵩張る布団があり、全てをシンが持つことは難しい。パジャマや軽い物は一華が持って帰る。

帰り着くと、サンが起きていて怒っている。


「にゃにゃんにゃーん……(一華、勝手にいにゃくにゃるにゃー。)


一華の顔を見ると、足元にすり寄り、寂しさを思いっきりぶつけて来た。


「ごめんごめん、サンちゃん、気持ちよさそうに寝てたから、起こすの可哀想と思って……。」


「にゃんにゃ……(そうにゃか。)」


「でも、出掛ける時寝てたら起こさないで行くよ。」


「にゃん……(わかったにゃ。)」


「サン、誰もいなくなって寂しかったのか。」


「にゃん……(そうにゃ。)」


「悪かったな。」


シンはサンの頭を撫でながら謝った。優しいパパの顔だ。


「シン、全部今、新しいのに替えよう。」


一華とシンは開封して、シンのベッドの寝具を一新した。


「今晩からは暖かいよ。」


「あぁ、ありがとう。」


シンは一華が自分のことを気遣ってくれることに心がほんわかと温かくなる。一華としてはシンの寝具のついでもこもこの着る毛布を買うことが目的だったが、シンが喜んでくれたことで下心を無かったことにした。



◇◆◇



お風呂から出たシンは、新しいパジャマに袖を通した。


「肌触りも良くて、暖かいな。」


「でしょ。こたつに入ると冬支度完了だね。後は……」


「まだあるのか?」


「アイスをこたつに入って食べるんだよ。」


「冬にアイス? 冬に、あえて冷たいものを……? 矛盾していないか?」


「うん、こたつに入って食べるからこそアイスが美味しいんだよ。あーっ、帰りに買って来ればよかったー。失敗したー。」


一華は残念だとこたつの天板に突っ伏した。

シンはそんなに残念がるような事なのかと思うが、一華がとても残念がるところを見ると、一度は経験してみたくなった。


「今から買いに行くか?」


「ダメだよ、せっかくお風呂入って暖かくなったんだから、外にでたら体が冷えちゃうよ。今日は諦めよう。いつでも、食べられるんだし。風邪ひいたら元も子もない。」


一華はシンが風邪をひかないよう、何としても外出を止めようと必死だった。


「わかった、一華が諦めるなら俺も諦めよう。」


「ところで、こんなに大きなこたつなのに、端っこに寄せられてるのは誰のせいかな?」


一華はこたつ布団をめくって中を見ると、サンの目だけがキラッと光っている。


「サンちゃん、こたつの中が暖かいのはわかるけど、少し端っこに寄ってくれないと蹴られちゃうよ!? ……それに、入り浸ると熱中症になっちゃうよ。」


「出てきて、お水飲んで。」


「にゃにゃーん……(お水飲むと、お腹冷たいにゃ。)」


「冷たいから飲まないのか?」


「人間と同じだね。寒くなるとお水は冷たいもんね。」


一華はキッチンに行って、お湯を沸かし始める。

沸かしたお湯にお水を加えて適温にして持って来た。


「サンちゃん、温めたから飲んで。」


「にゃん……(わかったにゃ。)」


サンは食器のところまで鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。ちょっと舐めてみた。温かいとわかれば、ちょっと脱水気味だったのか、ものすごい勢いで飲みだした。


「やっぱり飲みたかったんじゃない。ちゃんと言ってくれないとわかんないよ。」


「にゃにゃーんにゃ……(わかったにゃ。今度からちゃんと言うにゃ!)」


「不在時は温かい水は用意しておけないから、我慢してでも飲んでもらわないとダメなんだけど……。」


一華はスマホで「不在時、猫に温かい水飲ませる」で検索してみる。

検索結果をシンに見せた。


「ペット用ヒーター付き水飲み器っていうのがあるんだって。それと、湯たんぽとか保温性の高い容器にするとか。」


「すぐ出来るなら湯たんぽか。」


「ペットボトルにお湯入れてタオルで包んで容器の横とかに置いておくとか? 明日、ペットショップにでも行ってみる?」


「そうだな。毎日、ペットボトル湯たんぽ用意するのも大変だしな。熱傷する恐れもある。」


「ついでに、コンビニ寄って、アイス買ってこようね。」


「わかった。」



◇◆◇



翌日、ペットショップで加熱機能付き温水ボウルと、コンビニでアイスを買ってきた。

これでサンのお水問題は解決だ。


お風呂から出て来たシンは、こたつで湯冷めしないよう暖かくしている。

一華は冷蔵庫からカップ入りアイス2個を持ってきてシンに1個渡した。

シンは冬にアイスを食べることに疑問を持ったまま、一口アイスを頬張った。


「おぉっ、ポカポカの体に、ひんやり冷たいアイスが染み渡るなー。一層旨く感じる。」


「でしょ。『こたつでアイス』は格別でしょ!」


「あぁ。これは冬の楽しみが増えたな。」


「にゃにゃーんにゃ……(俺もアイス食べたいにゃ!)」


サンはこたつから顔だけを出して一華に向けて鳴いた。


「サンちゃんはお水も飲めないのに、冷たいアイスはお腹壊すからダメだよ。」


「にゃにゃんにゃ……(一華がちゃんと言えって言ったにゃー。)」


「それとこれは違うんだよ。」


サンは不貞腐れて、こたつの中に引っ込んでしまった。

一華とシンは、カップアイスを半分食べたところで交換した。こたつに並んでする半分こは二人の距離を一層縮めていった。

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