第65話 スーパー・ビーバームーン
今年最大のスーパームーン、「スーパー・ビーバームーン」。地球に最接近し最も大きく見える満月だ。
サンの変身の魔力覚醒後、待ちに待っていた。
「今日のお願いは……サンちゃんは『テレパシー覚醒』で、……私は『浄化の魔力覚醒』だよね。」
「そうだな。何としてでも両方とも覚醒させる必要がある。」
「にゃんにゃんにゃ……(俺も待ってたにゃ。)」
「今日の満月は最大に見えるから、今まで以上のパワーで魔力が覚醒するのかなぁ?」
一華はスーパームーンをスマホで検索する。
「『スーパームーンの日は、大きく明るい月光で浄化と感謝、そして内省に適しており……』って、お願いする魔力にも合致してるね。」
「二人とも準備万端か?」
「うん。大丈夫。」
「にゃん……(俺も大丈夫にゃ。)」
「じゃぁ、出るぞ。」
一華はブレスレットを外してテーブルに置いた後、黒猫仁華に変身した。
シンはリビングの窓を開けてベランダに出た。日中よりも更に「ひんやり」と肌を刺す感じがする。スーパー・ビーバームーンを確認した後、結界を張る。
仁華とサンはベランダに出た。シンは衝撃に備えてすぐ後ろに移動した。
仁華とサンは空を見上げ、バンザイするように前足を月に向かって伸ばし、スーパー・ビーバームーンのパワーを思い切り受け止めた。
仁華は心の中で強く唱える。
(スーパー・ビーバームーン様。浄化の魔力を覚醒させてください。パワー注入をお願いします。)
サンも心の中で唱える。
(テレパシーの魔力を覚醒させてにゃー。)
シンは真剣に一華(仁華)とサンの覚醒を願う。
(一華(仁華)に浄化の魔力を、サンにテレパシーを覚醒させてください。)
次の瞬間、月光を浴びた仁華とサンの全身を、黄金の月光が、単なる光ではなく「凄まじいエネルギーの奔流」となって、容赦なく二人を貫いた。全身の毛が逆立ち、激しい痙攣が走るほどの衝撃に襲われる。意識が白く弾け飛び、シンにもたれかかった。
シンは衝撃に耐えながら、すぐさま仁華とサンを抱きかかえてリビングに運び入れた。
仁華とサンをソファに横たえて、窓を閉めて結界を解除した。
シンは仁華を撫でながら
「一華、一華! おい、一華、大丈夫か!?」
いつもなら弱々しくてもすぐに返事をする仁華だったが、今日は一向に反応がない。
しかし、魔力感知には異常は見られない。サンも魔力感知に異常は見られないが反応はない。
シンは「無反応」が気になり、どうしたものかと思案する。
(ベッドに運んだ方が良いのか……が、意識を取り戻していない状態で離れるのは心配だ……)
シンは時間が許すまで、仁華を腕に抱いて撫でることにした。その内、意識を取り戻すことを願って。
どれくらい、そのままでいただろうか。シンの左腕は仁華の頭を支え、右手は仁華の体を優しく撫でている。
ようやく、仁華の反応を感じた。夢でも見ている時のように体がピクピク動いた。
楽しい夢を見ているならと、無理に声もかけることなく、そっとしておくことにした。
このまま、朝までゆっくり寝させることにしたシンは、仁華を抱いたまま、一華のベッドまで仁華を運んでいく。
ブレスレットを机の上に置き、部屋から出ていく。
一度、リビングまで戻ってきたシンは、サンの様子を見て変化がないことを確認してゲージに運び入れた。リビングを離れ、自室のベッドに滑り込んだ。
(今までのスーパームーンとは桁違いのパワーなのか? 明日は起きてくるだろうか?)
シンはなかなか眠りにつけずにいた。
◇◆◇
翌朝、いつもの時間に鳴るアラームで、シンは目覚めた。少し、寝不足感はあるが、体を起こして部屋を出る。
一華の部屋の前まで行き、魔力感知で様子を見るが異常は感じられない。安心してそのままキッチンまで行き、朝食の準備を始める。
一華の部屋ではタイマーの時間通り、スマホからミュージックが流れ出した。
音楽で目が覚めた一華はいつのまにか、仁華から元の人間の姿に戻っていた。体を起こし、伸びをしてベッドを出る。机の上にあるブレスレットが目に入り、左手首に着けて、部屋を出ていく。
一華はキッチンにいるシンに声を掛ける。
「おはよう、シン」
シンは一華が起きてきたことに安堵する。
「一華、おはよう、体の調子はどうだ? 疲労感は残っているか?」
「うん、そのまま眠れたから大丈夫みたい。他には特に感じてない。」
一華はサンの朝食を準備して、サンを起こしに行く。
「サンちゃーん、おはよう、ご飯だよー。」
サンは一華の声を聞いて起きた。伸びをした後、ケージから出てくる。
「にゃにゃーん……(一華、おはよう。)」
一華はケージ内の自動給餌器のトレイを取り出して不在時の食事を用意する。
シンが二人分のお弁当と朝食をテーブルに並べた。二人は朝食を食べ始める。
「一華は、衝撃の後から、朝起きるまで、意識はあったのか?」
「うーん……どうだろう。夢を見たような感じはするけど、スマホの音楽が流れるまで一華に戻ったことも気が付かなかったし。」
「途中、夢を見ているかのように体がピクピク動いていたんだが。」
「そうなんだー。覚えてないんだよねー。」
「今回も、いつ覚醒するかは自覚がないんだよな。」
「うん、浄化する魔力とは限らないし。でも、覚醒はしておきたいけど、使うことが無い方が良いんだよね。」
「そうだな。使う時は一華に危険が及ぶ時だからな。」
「複雑だなー。後はサンちゃんだね。学校から帰ってきてから確認かな。」
強大な力を得ることへの期待と、それが必要とされる状況への危惧。
二人はその「複雑な想い」を抱えたまま、学校へ向かった。




