第63話 サンの覚醒
一華とシンが学校から帰宅すると、散らかっている感じがすることに疑問を持った。
「ねぇ、シン、片づけて学校行ったよね。」
「あぁ、行ったな。」
「でも、なんか、散らかってない?」
「ティッシュの位置とか、なんか、マットの位置が少しズレてるな……。」
「おかしいな。」
「でしょ。」
泥棒が入ったにしては微かな乱れた跡。その些細な変化を見逃さない一華とシンは、真っ先にサンを疑う。
「サンちゃん、ケージ擦り抜けた?」
「にゃにゃーんにゃ……(この大きさでは、擦り抜けにゃいにゃ。」
「そうだよねぇ……。(なんでだろう???)」
「***(一華、サンの変身が覚醒したんじゃないか?)***」
「***(えっ? 私たちがいない間に他の動物に変身してるってこと?)***」
「***(それしか、考えられないだろ!?)***」
「***(でも、サンちゃん、擦り抜けてないって……。)***」
一華とシンはじーっとサンを見つめているが、サンは知らんぷりを決め込んでいる。
考えても分からないものは聞くしかない。
「サン、お前、変身の魔力が覚醒したか?」
「にゃんにゃ……(にゃんのことにゃ。)」
「別に隠す事じゃないでしょ。正直に言いなさい。」
パパとママが子供を叱るような厳しい表情をしているシンと一華。
サンは嘘はいけにゃいにゃと正直に白状することにした。
「にゃん……(覚醒したにゃ。)」
「何で、正直に話さない。」
「にゃんにゃにゃんにゃにゃん……(ごめんにゃ。嬉しすぎて、走り回って散らかしたところに二人が帰ってきたからにゃ、誤魔化したにゃ。)」
「もう、誤魔化しても、泥棒が入らない限り、犯人はサンちゃんしかいないでしょ。」
「にゃんにゃ……(そうにゃ。ごめんにゃ。)」
「で、何に変身したんだ?」
「にゃんにゃん……(今日は、ハムスターにゃ。)」
「なんで、ハムスターなんて……。」
「にゃにゃんにゃにゃん……(ハムスターににゃったら、ここから出れるにゃ。)」
「そっかー、ケージから出たかったのかー。」
「ハムスターになったなら、ケージの意味がないな。」
「後は、何に変身できるんだ?」
「にゃんにゃん……(グレートピレニーズにゃ。)」
「一華の希望通りだな。」
「サンちゃん、変身して。」
一華はケージを開けて、サンを外に出してあげた。
サンはちょこんと座ったまま唱える。
「にゃんにゃんにゃ……(グレートピレニーズに変身にゃ。)」
サンが鳴いた後、閃光が放たれることなく、そこには白くてふわふわの毛を纏ったグレートピレニーズの子犬がちょこんと座っていた。
「かわいいー。」
一華は子犬を抱き上げる。グレートピレニーズの子犬になったサンは、ちぎれるかと思うほどしっぽを振っている。
「もしかして、ホワイトタイガーや馬にも変身できるのか???」
「くぅーんくぅーん……(たぶん、変身できるわん。)」
シンは覚醒した魔力にびっくりしている。
まさか、母猫ミアから「猫以外の変身はできない」と聞いていたにもかかわらず、人間界の満月パワーが魔界の常識を塗り替えてしまい、他の魔力を覚醒させてしまうとは……。
「鳴き声も変身した動物に変わって、どうやってサンと判断するんだ?」
「この部屋の中だけなら、私たちでもわかるけど、離れた後はわからなくなるよね。」
「くぅーんくぅくぅ……(合言葉決めるわん。)」
「合言葉?」
「三人だけしか知らない言葉だぞ。」
「「うーん……」」
「でも、合言葉を第三者に覚えられたら、意味なさないよ。」
「テレパシーで合言葉を言うのはどうだ?」
「サンちゃんはテレパシーできるの?」
「くぅくぅくぅーん……(まだ覚醒してないわん。)」
「なら、次の満月にテレパシー覚醒のお願いだな。」
「それまでは、私たちの前だけで変身してね。」
「くぅくぅーん……(わかったわん。)」
サンのお願いは満月様に届いていた。しかも、どんな動物でも変身できるようになるとは想定外だ。
サンの良心を信用するしかない……状態だ。
シンは一華が無防備になる寝室の結界を更に強化する必要に迫られた。
できれば、一華が自分を守る魔力を覚醒させていて欲しいと聞いてみた。
「一華の魔力は覚醒してないな?」
「うん。あの時、何でもいいってお願いしたから。」
「中間テストも今まで通りと変わらずだよな。」
「そうだよ。頑張って解答欄は埋めたけど、天才の魔力は覚醒してないよ。」
一華は満月の夜から今までを思い返す。
「重い物は重いままだし、大きい物は嵩張るし、小さい物は大きくできないし……何も覚醒してなさそうだよね。」
「せっかく、衝撃を受けてまで満月パワーを注入したのにな!?」
「なぁ、今度は浄化の魔力を覚醒しろ。」
「浄化の魔力って?」
「相手がネガティブなエネルギーを発動していたら、自分を守るために取り除く魔力だ。」
「自然界の自浄作用や俺を待っていたら、間に合わない時があるだろう。一華自身が浄化する事が必要になってくるはずだ。具体的には、一華を傷つけようとしたり、襲おうと思っている人や動物に対して、心を清めて、悪の感情から解き放つんだ。」
「それを、私自身で行えと!?」
「そうだ。」
「まずは、サンから自分を守れ。」
「くぅくぅーん……(なんで、俺わん?)」
「サンが悪意の感情に襲われることがあれば、標的は一華だ。」
「くぅくぅーんくぅん……(俺は一華を襲わん!)」
「猫ぐらいなら、そこまで危惧しないが、何にでも変身することが出来る今では強力な武器だ。敵と見なす。」
「くぅーんくぅーん……(俺は敵じゃないわん。)」
「わかっている。今はな。だが、誰か悪意を持った魔界人に気付かれ利用されれば、サンの体や感情は乗っ取られる可能性がある。その為には先手を打っておく必要がある。」
「なるほど。サンちゃんを悪者にしないためにも、浄化が必要なのね。」
「くぅーんくぅん……(一華、俺を守ってわん。)」
一華はサンを落ち着かせようと背中を撫でてあげる。
「共感の魔力で浄化するのとは違うのね。」
「あぁ、共感の魔力で感知しているのは、悲しさや怖さと言う感情で、一華が助けてあげる側だ。悪や怒りと言う感情には浄化の魔力が必要だ。」
「今からお願いしても、遡って満月様に受け入れられることは無いよね。」
「無いだろう。次の満月まで待つ。」
「サンちゃん、私の浄化の魔力が覚醒するまで変身はしないって約束できる?」
「くぅーん……(するわん。)」
「くぅくぅーん……(黒猫に戻るわん。)」
サンが鳴いた後、閃光が放たれることなく、そこには黒猫サンがちょこんと座っていた。
「にゃん、にゃーん……(もう、変身しにゃいにゃー。)」
サンは無念だったが、せっかく覚醒した変身の魔力を封印することになった。
だが、敵と見なされては、即、魔界行きとなることは避けたい。受け入れざるを得なかった。
シンはサンを保護したことに少しばかり後悔していたが、パパとなった以上は守るべき家族という事も忘れないと心に決めた。




