第61話 ハンターズムーン(狩猟月)
文化祭が終わった。急いで帰ってきた。
疲労感に包まれていて何もする気になれないが、サンちゃんのご飯の準備は一華の担当だ。
「サンちゃーん、ただいまー。今ご飯準備するね。」
「にゃにゃーんにゃ……(一華。お腹すいたにゃー。)」
「にゃにゃんにゃー……(もうそろそろ、腹持ちのいいご飯にしてにゃー。)」
「腹持ちのいいご飯って?」
「カリカリかな?」
「でも、まだ、ドライフードは早いみたいだよ。」
「回数増やすか!?」
「にゃにゃーん……(それでもいいにゃー。)」
「サンちゃんは、頭は6か月位かも知れないけど、体はまだ3か月頃でしょ。」
「サン、食っちゃ寝してると、子猫から子豚になるぞ。」
「にゃんにゃー……(にゃらにゃいにゃー。)」
「子豚のままなら、かわいいかも。」
「にゃんにゃーにゃにゃにゃ……(一華まで。俺は猫にゃ。豚にはにゃらにゃいにゃ。)」
「にゃにゃにゃにゃーーん……(いいこと思いついたにゃ。猫以外にも変身できるようお願いするにゃ。)」
「猫以外には変身しないんじゃ?」
「サンの母猫が言ってたな!」
「にゃーにゃにゃにゃんにゃ……(満月様にお願いして、覚醒させればいいにゃ。)」
「サンまでもが、満月で覚醒できるのか? 試しにお願いしてみるか?」
「一華はいいのか?」
「人以外で、危険じゃない動物なら……まぁ、いいかな。」
「にゃーにゃんにゃ……(中身が俺だから、危険てにゃいにゃ。むしろ、守れるにゃ。)」
「人間、魔界人以外で、変身したいものは何だ? 人間界で飼えるのは犬、豚、兎、フェレットぐらいだぞ。」
「犬なら、ふわふわのグレートピレニーズがいいな。」
「一華は犬が好きなのか?」
「私は飼うなら猫派だけど、グレートピレニーズとか、ゴールデンレトリバーは好き。あと、犬以外では、ホワイトタイガー。」
「ホワイトタイガー?」
「にゃーにゃにゃ……(いくらネコ科でも、危険にゃ。)」
「あれ? 中身はサンちゃんなんでしょ! 危険じゃないよね。」
「しかし、マンションで飼うことはできないぞ。」
「そうだよねぇ、じゃぁ、やっぱり、グレートピレニーズで。」
「にゃーんにゃんにゃ……(グレートピレニーズ限定にゃか?)」
「いろいろ変身されたら、サンちゃんて分からなくなるよ。」
「にゃんにゃんにゃー……(海だとイルカとか、どうにゃ?)」
「私、泳げないもん。だから海行かないし。」
「にゃにゃにゃー……(溺れたらイルカににゃって助けるにゃ!)」
「にゃにゃん……(あっ! 馬がいいにゃ!)」
「馬!? 午年だけに?」
「にゃにゃにゃんにゃん……(馬になったら一華を背に乗せて駆けるにゃ! ついでにシンも乗せてやるにゃ!)」
「魔界でならいいけど、人間界では変身したらダメだよ。」
「にゃんにゃ……(ダメにゃか…。)」
「いろいろ変身した方が、危険から守れる可能性はあがるけどな。」
「でも、人間界ではころころ変身しないという前提なら……。」
「そうだな。魔界に戻ってからだな。それまでは、変身してもグレートピレニーズだけな。」
「にゃんにゃー……(わかったにゃ。)」
「次の満月いつなんだ?」
「今日。」
「あ? 今日か? 今出ているのか?」
「そうみたい。」
「一華はどうするんだ?」
「天才の魔力も欲しいけど、重い物を軽く持ち上げたり、大きい物を小さくしたり、小さい物を大きくしたりする魔力が欲しい!」
「いっぱいあるな!」
「思うだけならいっぱいあるよ。」
「重さを変える魔力に、大きさを変える魔力か。」
「何に使うんだ?」
「スーパーの帰りにお米買うと重いけど軽くできればいいよね。あと、トイレットペーパーとか嵩張るものは小さくすれば持ち運びやすいし、使う時まで場所を取らずに済むし。私には今は関係ないけど車の駐車場問題も小さくすれば解決するよ。まぁ、これは私だけじゃ無理だけどね。」
「あと、ショートケーキを買ってきて、大きくすれば、お腹いっぱい食べられるよ。」
「ははは、それが本当の目的だな!?」
「ははは、本当の目的じゃないけど、災害時や異常気象、病害虫などの不作や人手不足で農業が衰退していく今後は、農作物が小さかったり、穫れる量が少なかったりしても、1つを大きくする魔力があれば、乗り越えられると思うんだよね。」
「それは、役に立つな!」
「でしょ。いいと思うんだよなぁ。」
「にゃにゃにゃーんにゃ……(一華、俺のご飯も大きくしてにゃ。)」
「まだ、言ってるー。子豚ちゃんになりたいの?」
「にゃにゃにゃんにゃ……(人間界での変身は諦めるにゃ。魔界に戻ってから馬になるにゃ。一華デートしようにゃ。)」
「時期魔王候補の婚約者をデートに誘うとは、いい度胸だなサン。」
「にゃにゃんにゃ……(にゃに言ってるにゃ。一華はママにゃ。ママを誘ってるだけにゃ。シンはパパだにゃ。)」
「そうだよねぇ。ママとデートしても何も問題ないよねぇ。」
「にゃにゃ……(そうにゃ。)」
「わっ、わるい、つっ、つい、……今日はどうするんだ? 満月パワー。」
シンは気まずくなり、話題を変えた。
「とりあえず、パワー注入するか?」
「全部お願いしてみようかな。」
「にゃにゃんにゃ……(俺もお願いするにゃ。)」
「一華は一つに絞った方が良い。」
「一つかぁ……じゃぁ、天才の魔力で。」
「本当にそれでいいのか?」
「うん。」
「天才の魔力って具体的に何だ?」
「勉強しなくても勉強が出来て、シンみたいに100点満点とれること?」
「それは天才の魔力ではない。だが、天才と〇〇は紙一重っていうだろ。見方によっては〇〇という事だが……いいのか?」
「それはやだー。」
頭を抱える一華。
「今回は何でもいいから、パワー注入だけしてもらうことにする。」
「なら、準備万端に整えてから、リビングに集合な。帰ってきて、何もしてないぞ、俺たち。」
そうだ、サンちゃんのご飯を準備したまま、おしゃべりしていただけで、随分と時間が経過していることを忘れていた。
◇◆◇
あとは寝るだけと準備万端整えて、一華とシン、サンはリビングに集合した。
一華はブレスレットを外してテーブルに置いた後、黒猫仁華に変身した。
シンはリビングの窓を開けてベランダに出た。日中の暖かさから一転して「ひんやり」と感じた。ハンターズムーンを確認した後、結界を張る。
仁華とサンはベランダに出た。シンは衝撃に備えてすぐ後ろに移動した。
仁華とサンは空を見上げ、バンザイするように前足を月に向かって伸ばし、ハンターズムーンのパワーを思い切り受け止めた。
仁華は心の中で強く唱える。
(ハンターズムーン様。何でもいいので魔力を覚醒させてください。パワー注入をお願いします。)
サンも心の中で唱える。
(猫以外の変身の魔力を覚醒させてにゃー。)
シンは真剣に一華(仁華)のパワー注入を願う。
(一華(仁華)にパワーをお願いします!)
次の瞬間、月光を浴びた仁華とサンの全身を、月光が奔流となって二人を貫き、凄まじい電流のような衝撃が襲った。意識が白く弾け飛び、全身の毛が逆立つほどの激しい痙攣に見舞われる。
シンは衝撃に耐えながら、すぐさま仁華とサンを抱きかかえてリビングに運び入れた。
仁華とサンをソファに横たえて、窓を閉めて結界を解除した。
シンは仁華を撫でながら
「一華、一華! おい、一華、大丈夫か!?」
弱々しく答える仁華。
「にゃにゃ…… (大丈夫にゃ)」
「本当か? 何か変わったことは?」
「にゃにゃ~ん、にゃ……(今のところ、目に見えては変わったところはにゃいよ、ね?)」
魔力感知にも異常は見られず、シンは安堵して、今度はサンを気遣う。
「サン、大丈夫か?」
「にゃにゃ…… (大丈夫にゃ)」
「変わったことは?」
「にゃんにゃ……(にゃいにゃ。)」
サンもいつも通りに見え、魔力感知にも異常は見られず安堵するシン。サンをケージの中に入れて、眠るように撫でてあげた後、ドアを閉めてロックを掛ける。
シンはソファの仁華に「一華に戻るか?」声を掛ける。
「にゃ~ん……(一華に戻るにゃ)」
仁華は、閃光を放つことなく、静かに一華の姿に戻った。
「体はどうだ? 疲労感は?」
シンは一華にブレスレットを着けながら体調を確認する。
「衝撃を受けた影響は残ってるかも。他には特に感じてない。」
「このまま、寝られるか?」
「うん」
「じゃぁ、部屋に戻ろう。少しでも長く寝る方がいい。」
サンはもう既に寝ている。
シンはリビングの照明の電気を消して、一華に付き添ってリビングを出て行く。
二人は部屋の前で「「おやすみ」」と言って自室に戻って行った。




