第60話 文化祭
1年A組の総合優勝で幕を閉じた体育祭も終わり、授業が再開されたが、次のメインイベントである文化祭の事が頭から離れず、勉強に身が入らない生徒達。
浩輔作成の概算費用の見積書も決裁がおりた。
文化祭に向けて本格的に検討するためホームルームの時間を延長する。
家庭用綿菓子製造機は3台注文した。輪投げとお菓子釣り用と魚釣りゲーム用の盥は学校にあったものを借りることが出来た。後は、綿菓子とゲーム参加料の金額設定と、材料調達部隊、お菓子・景品買い出し部隊、当日の店番のグループ決めだ。
まずは金額設定。
飴1個分 50円
輪投げ、お魚釣り、お菓子釣りともに1回100円
輪投げ、お魚釣りの景品設定も決めていった。
調達部隊は美術部員をメインに挙手で決まった。
買い出し部隊は概算費用を算出した浩輔をリーダーとして一華、シン、理那、直哉、真由の六人に決定した。
店番のグループは1時間おきに、3交代制とした。
1班:9-10時、12-13時、 2班:10-11時、13-14時、 3班:11-12時、14-15時
「***(一華、1班にするぞ。)***」
「***(シン、わかった。お客さん、少なそうだもんね。)***」
「では、グループ決めをします。希望する班の時に挙手してください。」
「1班希望の人」
一華とシンが挙手をする。浩輔、理那、直哉、真由も挙手した。
「他にいませんか?」の声と同時に、残りの女子全員が挙手した。それを見た残りの男子全員が挙手した。
「***(えぇー? どういうこと?)***」
「***(どうなってんだ?)***」
クラス委員が「全員1班希望なので、くじ引きで決めます。」
クラス委員がくじを用意する。
1から3までの数字が書かれたくじを男子から順番に引いていく。
シンが数字「1」が書かれたくじを引いた。浩輔、直哉のくじも「1」だった。
次は女子が順番に引いていく。
一華が「1」のくじを引いた。理那、真由のくじも「1」だった。
これで六人とも、同じ1班で行動を共にすることが出来る。
一華は安堵した。
「***(シン、魔力使ったよね!?)***」
「***(あぁ、一華と離れては護衛できないからな。)***」
「***(理那たちも?)***」
「***(あぁ、おまけだ!)***」
「***(おまけって、ひどいよ。友達だよ!)***」
「***(ははは、同じ班に六人集まると疑われかねないが、まぁ、くじ引きなら大丈夫だろ!)***」
「***(でも、なんで、女子生徒全員1班に手を挙げたんだろ? シン狙い?)***」
「***(まさかだろ。)***」
「***(でも、お客さん少ない時間帯だからって、丁度、お昼の時間とも重なってるよ。)***」
「***(……で、男子は女子について1班に挙手したのか!)***」
「***(もてるねぇ。)***」
「***(お前以外にもてても意味がない!)***」
シンのストレートな告白に、一華はホームルーム中にもかかわらず顔を真っ赤にして俯いてしまった。
偏らないように男女で均等にグループが決まった。
今日のホームルームでの議題は全て検討し終えて、なんとか終了となった。
◇◆◇
今日は文化祭当日。1年A組の出し物は「縁日」だ。
昨日から文化祭準備のため、みんなで飾りつけを行い、買い出し部隊がお菓子や景品を買い出ししてきた。接客役の1班が開始時刻までに最終確認を行っていく。
各ゲームの店員と客それぞれの立ち位置の確認と景品などのディスプレイなど。
飴玉メニュー表も大きく目立つ所に貼っていく。
1つのゲームに店員二人制で対応する。
目玉の飴玉綿菓子には、一華とシン、浩輔と理那、直哉と真由で3台を担当する。他のゲームは残りの生徒が担当することになった。
「なぁ、試しに自分たちで作ってみようぜ。」浩輔が提案してきた。
「やろう、やろう。」
確かに自分たちが上手に作れなければ、説明ができない。
果汁飴から好きな味を1個ずつ選ぶ。一華はピーチ味、理那はオレンジ味、真由はメロン味を持って来た。
(試食は彼女ということか?)
飴玉を入れて、スイッチオン。
薄っすら色の付いた綿あめが出てくる。割りばしでくるくると巻いていく。綺麗に巻くのはコツがいりそうだ。でも、飴玉1粒でも結構な大きさの綿菓子に仕上がった。
出来上がった綿菓子のクオリティに一喜一憂しながら、綿菓子を手でつまんで、それぞれの味を試食する。
「いろんな味は楽しめるけど、プロみたいに綺麗にふわふわにするの、難しいね。」
飴の味と一緒だが、お祭り屋台のものに比べるとやっぱり劣る。
「まぁ、手作り体験込みで許されるレベルだろう。」
綿菓子担当だけが楽しそうに試食していると、他の生徒達までが、自分も自分もと順番待ちしだした。
六人は隅に追いやられてしまった。綿菓子を手でつまんで口に入れながら一華は不安になった。
「こんなにいっぱいお客さんが来たらどうしよう。」
シンも一華の綿菓子を手でつまんで口に入れながら、同じく不安になり思案する。
「***(護衛できないな。俺の横で、笑顔で挨拶だけしていろ。)***」
一華はシンの顔を見上げてしまう。
「***(えーっ!? シンが接客するの?)***」
シンは一華を見下ろしながら、
「***(仕方ないだろ! 体育祭の時みたいに意地悪されかねないからな。子供は一華に任す。)***」
「***(わかった……、シンも一応笑顔で接客してよ!)***」
「***(っう、……努力する。)***」
「***(でも、もうすぐ開店の時間だけど、試食終わりそうにないね。)***」
シンは手をパンパンと叩いた。
「ほら、開店だ! 試食は終わり。持ち場に戻れ。」
同じ1班の生徒は自分の持ち場に戻った。
自由時間に入る男子生徒達は他の教室へ行こうとした時、女子生徒の中から「今から、お客ね。」とシンが接客するコーナーの前に順番待ちしたまま動こうとしない。
シンは仕方なく接客することにした。
「1人50円な。」
希望する飴玉を聞いて、50円玉を受け取ると一華に渡す。
シンが飴玉を綿菓子製造機に入れて、割りばしを手渡して巻いていってもらう。
開店時間になると他の生徒達や外部からのお客さんが入ってきだした。他の綿菓子コーナーにも並んだり、お菓子釣りや輪投げなど他のゲームなども接客中だ。
一通り、クラスメイトの接客をした後、一息つけるかと思っていた一華とシンだったが、順番待ちの行列に気付いた。
「***(何なんだ?)***」
「***(全員、女子生徒だよ!?)***」
「***(これが、ずっと続くのか!?)***」
「***(全員、シン目当てじゃない?)***」
「***(この時間は暇なはずと読んでいたのだが……。)***」
外部からのお客や男子生徒は特に、他のゲームに参加できていて問題など起きていない。
問題と言えば、シンの前に続く女子生徒の長い行列だ。シンが接客している綿菓子製造機は教室中央に位置している。
綿菓子製造後に、他のゲームに参加するには行列を横切らないといけない。迷惑だ。
端に位置する直哉と真由の接客が途切れたところでシンが声を掛けた。
「直哉、位置変わってくれないか?」
「あ? いいよ。」
承諾を得たと、シンと一華は、直哉、真由と交代した。
行列を作っていた女子生徒もそのまま、横移動してきて、シンと一華の前に再度行列を作った。
これで、多少の迷惑も限定的だろうと、接客を続けて行った。
行列はなかなか減らないが、もう交代の時間だ。
2班のクラスメイトが徐々に教室に戻ってきてくれた。
一華とシンも引継ぎをしていく。
2班と接客の交代が終わり、浩輔達と一緒に教室を出て行った。
行列を作っていた女子生徒たちは、別に綿菓子が目当てじゃないと言わんばかりに、シン達がいつ頃戻ってくるかを聞いて、いつのまにか行列は解消されていった。
「シン、大変だったな。」
「あぁ、しかし、綿菓子作ったら、大人しく出て行ったから助かったよ。」
「ところで、どこ行くの?」
「腹ごしらえはもう少し後にするとして……クレープとか食べに行かないか?」
「うん、行く行く。」
女子三人は大賛成だ。
男子三人を置いてさっさと行ってしまう。シン達三人は後ろを追いかけて行く。
浩輔がシンに「今日は、半分こ、するなよ。」と念を押す。
「は? あぁ、そうだな。わかったよ。」
「***(一華、今日は半分こなしだ!)***」
「***(えっ? あぁ、学校じゃしないよ! 恥ずかしいもん。)***」
シンは一華が学校では半分こをしないつもりだったことがわかり、なんとも残念だった。本当は一華に残念がってほしかったのだ。
クレープ模擬店の教室に行くと、シンほどではないが行列を作っている。
シンの姿を見た女子生徒からは黄色い悲鳴に近い歓声が出る。
生地は冷凍で缶詰フルーツや市販のホイップクリームやフルーツソースを注文通りに盛り付けて、くるくると生地を回して包装紙で巻いて完成だ。
一度に生徒数名で作っていて、すぐに自分達の番だ。
一華はチョコソースにミックスカラースプレーを散りばめてもらった。
本当は一華と別の味をシェアしたかったシンは、少し残念そうに一華と同じチョコソースのクレープを注文した。
みんなのクレープが出来上がると、早々に教室を後にする。
シンの姿が見えなくなる模擬店がいいと「お化け屋敷行こうぜ。」と浩輔が提案する。
一華はお化け屋敷で怖い思いをした遊園地の事を思い出した。
一華は「怖いからやだ……。」と断ろうとする。
浩輔が「プロじゃないから、かわいいもんだよ。逆に笑ってやりゃいいんだよ。」
「本当?」
理那と真由は特に怖がりもせず、一華を誘う。
「ほんとほんと。」
「うん……じゃぁ、行く。」
お化け屋敷の教室へ向かう。
お化け屋敷では浩輔と理那、直哉と真由が先に入って行った。
次は一華の番だ。深呼吸をして覚悟を決める。
「シン、行こう。」とシンを促す。
シンは一華の手を取り、結界を強化して入って行く。
暗幕などを使って教室内は暗くなっている。見えないだけで不安なのに、時々悲鳴が聞こえる。
(笑えるんじゃないの?)
シンは一華を守るように抱き寄せて歩いていく。魔力暴走の心配はなさそうだ。時々、魔力感知で確認する。
不意にお化けに扮した生徒たちが出てくる。
「一華、笑ってやれ。」
「「はははっ」」
顔は引きつりながらも声を出しながら進むと今度は、手だけが出ている所に来た。遊園地のお化け屋敷では接触行為は無かったが、生徒が考えることだ、ぎりぎり触れそうな所まで手を出している。
シンは一華を触られてはいかぬと、自分の体を盾にして一華を守りながら進んでいく。
所々で、悲鳴が出ると、シンに「笑ってやれ」と言われて「ははは」を繰り返しながら出口まで来た。
一華はシンに抱えられながら教室の外に出ていくと、「ふー」と息をつく。
シンが一華を抱えている姿を見た女子生徒からは悲鳴が漏れる。
「やっぱり、怖かった?」
理那たちから心配された。
「怖かったけど、笑うと少し薄れるね。」
でも、一華の表情は引きつっている。
「接触行為はダメだろ。」
シンは忠告したそうだったが、「次、行こうぜ」と浩輔と直哉に連れられて行った。
一華は争いになる前に連れ出してくれた浩輔と直哉に心の中で感謝した。
一華は理那と真由に両脇を支えられてついて行く。
次の店番まであまり時間がないし、お腹も空いた。焼きそばの模擬店を目指すことにした。
ここでも、半分こせず、店番の時間前に自分の教室に戻って行った。
教室に戻ると、お昼前のためか客数が減っていき、数人しかゲームをしていない。
一華とシンは輪投げのコーナーを担当する。浩輔と理那はお魚釣りゲームを、直哉と真由がお菓子釣りゲームを担当した。
接客と言っても、一通りの輪投げが終了するまで時間が必要なことも有り、ゆったりと接客することが出来た。
というのは最初だけで、時間が経つにつれて、女子生徒の数が増えて行った。
一華は客から遠い場所で待ち、シンが接客する。
一華が投げられた輪の数を回収しながら集計して、ディスプレイした景品の中から選んでもらうよう案内する。
景品の前には綿菓子担当者から移動して接客してくれるクラスメイトがいる。
一華から受け取った投げ輪を、次の生徒に参加料金と引き換えにシンが手渡す。
それが繰り返され、最後まで忙しく接客していった。
接客当番が終わった。
疲れた。ずっと立ちっ放しだ。ゆっくりしたい。
「疲れたー。」
「一華とシン君のところって、いつも女子生徒が行列になってるもんね。」
「もうねぇ……シン、姿を消そう。」
「体育館でお笑いライブやってるぞ。」
「あ、それいい。行こう。」
「でも、私たちに付き合わなくても……、行きたいところあるんじゃないの?」
一華は四人が他に行きたい模擬店に行けなくなるのを心配する。
「大丈夫。一華達と一緒にいる方が楽しい。」
理那と真由は、一華とも文化祭を楽しみたいし、彼氏である浩輔と直哉とも一緒にまわりたい。
一華達と一緒に居られることが一番なのだから本音だろう。
体育館に着くと後ろの方の椅子に座る。
六人は生徒のお笑いについつい笑ってしまい、疲れが飛んで行ってくれた。
お笑いライブも終わり、小腹が空いてきた。
パンフレットを見ながら、「チュロス食べたーい。」と叫ぶ。
「「私もー」」
チュロスとドリンクを買って、体育館に戻ってくることにした。
音楽部の演奏や演劇など、文化祭終了まで、ゆっくりと過ごすことが出来た。
「後夜祭って参加するのか?」
浩輔がシンに聞く。
「後夜祭って?」
「えっとー、ステージでバンドの演奏らしいよ。」
「一華はどうしたい?」
「どういうものかは見たいかな。」
「じゃぁ、少し見てから帰るか。」
「うん。」
教室に戻ると片づけが始まっていた。六人も片付けに参加する。
みんな急いで片づけていく。後夜祭に参加するためだ。
1年A組の片づけは簡単だ。お化け屋敷の教室では一苦労だろうなと労ってあげる。
お菓子や景品はかなりの量が残っている。残ったお菓子は片づけの最中に好きなものを取って自分たちで消費していった。
行列以外は特に大きな問題も起きず、達成感と終わった寂しさが入り混じるホームルーム終了後は、みんな後夜祭に向かう。
生徒によるバンドが主役だ。知っている顔もステージ上に見える。
体育祭や文化祭の準備で忙しかったと思うが、いつの間に練習していたのだろう。
プロには及ばないが、生徒たちは乗りに乗って楽しんでいる。
17時過ぎた。辺りが暗くなってきた。そろそろ日の入りの時刻が近い。
盛り上がりは最高潮に達していたが、シンが小声で声を掛ける。
「一華、そろそろ暗くなってきそうだ。帰るぞ。」
「うん。」
二人は早めに学校を後にすることにし、浩輔達に「もう帰るね。」と挨拶して帰っていった。
まだまだ、後夜祭は続くだろうが、月が出るまでには帰り着きたい。
一華とシンの初めての文化祭が終わった。




