第59話 セラピスト誕生
体育祭終了後のホームルームが終わり、タクシーを呼んで、一華とシンは乗り込む。
途中、シンだけが降りて、ドラッグストアで痛み止めと湿布薬を購入して帰る。
タクシーを降りて部屋まではお姫様抱っこできない。一華に肩を貸して上まで歩いていく。
玄関の鍵を開けて、一華が先に入ると、座って靴を脱いでいく。シンは靴を脱いだ一華を部屋までお姫様抱っこで抱え上げていく。
一華は着替えて、右足を庇い、ぴょんぴょんと跳ねるようにしてリビングまで来た。
「サンちゃーん、ただいまー。」
ケージのロックを解除して出入口を開放してあげる。
サンはケージの外に出て、伸びをした後、一華の所までやってきた。
「にゃにゃにゃーんにゃ……(一華、どうしたにゃー。いつも、帰ったら真っ先にリビングに来るにゃに。それに臭いし。)」
サンは一華の湿布薬の匂いに反応した。
「そうかー。心配させちゃったかぁ。ごめんねぇ。」
サンの背中を撫でながら謝る一華。
「体育祭で捻挫しちゃって、歩けないの。」
「にゃにゃ?……(にゃんでにゃ?)」
「人とぶつかった時、捻ったみたい。」
「にゃんにゃ?……(痛いにゃか?)」
「痛み止め飲んだけど、歩くと痛いね。」
「にゃにゃん?……(どこにゃ?)」
「ここ、右足首。」
一華はサンに見えるように右足首を見せながら触る。
サンは、一華が触っていた辺りを見つめて、ぷにぷにした柔らかい肉球を押し当てて、「にゃーん」と鳴いた。
「手当てしてくれるの?」
一華はただ、サンが手当てのふりをしたと思った。
すると、右足首の痛みが薄らいだ感じがした。
「えっ? サンちゃん何したの?」
「一華どうしたんだ?」
「サンちゃんが触った後、痛みが引いてきたんだけど。」
一華は立って、その場で足踏みをしてみる。
「痛くない。」
「はっ? どういうことだ? サンが治療したのか?」
「にゃにゃーんにゃ……(そうにゃん。手当てしてあげたんにゃ。)」
「サンちゃーん、すっごーい、治療の魔力が覚醒したの?」
「にゃにゃん……(セラピストの魔力が覚醒したにゃん。)」
サンは一華への深い愛情をきっかけにして、肉球セラピストの魔力を覚醒させることが出来た。
「サンちゃーん、ありがとう。だーいすき。」
感激した一華はサンをぎゅっと抱き締める。
「にゃんにゃ、にゃんにゃ……(よかったにゃん。俺も一華だーいすきにゃ。)」
サンも一華を抱きしめ返す。その微笑ましい光景を目の当たりにして、シンも加わりたいという想いが込み上げて来た。
「お、俺も」
シンも抱き締めたい衝動に駆られ、すんでのところで思いとどまったが、声だけは口にしてしまった。
一華とサンには冷めたような目で見られてしまい、気まずさから目を逸らすシン。
「うそうそ、今日はシンの大活躍で1年生が総合優勝したんだよ。サンちゃん、褒めてあげて。」
一華は笑いながらサンをシンに手渡す。
サンは「にゃーん……(えらいにゃー)」と鳴くと、抱き締めてあげた。
ぎゅっと抱き締められたシンは表情が安らぎ、サンを抱き返した。
シンは一華の捻挫が治ったことに安堵して、疑問を口にした。
「それにしても、危険回避するなら、時間停止の魔力を発動すれば助かったんじゃないか?」
「危ないって思ったけど、時間停止しなかったね。」と一華は思い返す。
「自分の危険には、時間停止の魔力は使えないのか?」
「誰かの危険回避の為の魔力ってことかなぁ?」
「通常、魔力とは自分を守るために使用するものだが、一華は誰かの為の魔力という事か。」
「共感の魔力といい、時間停止の魔力といい、遠聴といい、自分に使えないとは……。」
「にゃにゃーん……(俺が一華を助けてやるにゃ。)」
「どうやって」
「にゃんにゃにゃーん……(俺の魔力で一華を助けてやるにゃ。)」
「俺の任務を横取りか?」
「にゃにゃにゃーん……(シンは護衛だから一華を守るんにゃ。俺は一華を助けるんにゃー。)」
「あぁ、そういう事か。」
「じゃぁ、私がシンを助けてあげる、それと、私がサンちゃんを守ってあげる、でいいよね!」
「にゃーん……(それ、いいにゃ。)」
「今日も足直してもらったしねぇ。助けてね。サンちゃん。」
「にゃにゃ……(任せろにゃ。)」
「これで、サンちゃんのトイレ掃除も食事の用意もできるしね。」
一華は感謝を込めて、今日は念入りにトイレ掃除をして、離乳食のほかにおやつも奮発してあげた。
(一華に助けられること……とは?)




