第58話 体育祭【後編】
「13時より、午後の部が始まります。テントまでお戻りください。」
体育祭、午後の部開始のアナウンスが流れた。みんなが休憩を終えて、元のテントまで戻っていく。
午後、最初の競技は100m走の決勝だ。
1年代表のシンと直哉がスタートラインに立ち並ぶ。
シンの姿を目にした女子生徒が歓声を上げ、2年、3年関係なく応援しだした。
直哉はともかく、2年、3年の代表者にとっては(俺たちの応援をしろよ)と嫉妬して面白くない。
「位置について」「よーい」「バン」ピストル音が鳴った。みんながスタートダッシュする。走る。走る。誰かがぶっちぎりで前に出る。やっぱりシンだ。陸上のエースもシンの背中を追いかけている。
一華としては魔力を使っていないか不安になる。
しかし、シンは平然とした走りで1人ゴールを目指している。
ゴールした途端、女子生徒の歓声があがる。
シンは1位の旗を掲げる浩輔の所まで走っていく。
「やっぱ、シンだったな。」
2位、3位……9人全員がゴールした。
残念ながら直哉は4位だった。頑張った方だ。
判定が終わって一華の所まで戻ってきたシンにテレパシーで確認する。
「***(今回も、自力?)***」
「***(あぁ、魔力は使ってないぞ。)***」
「***(それなのに、疲れてないよね。)***」
「***(あぁ、軽い助走のようなものだ。)***」
一華はもう言う事が思いつかない。
(本気になった魔界人の体力とはどんなものなんだろう?)
次は女子の100m走決勝だ。決勝の判定役は、一華だ。
ゴール近くに移動して1位の旗を持って待つ。
「位置について」「よーい」「バン」ピストル音が鳴った。みんながスタートダッシュする。走る。走る。ぶっちぎる生徒はいない。お団子状態で誰が1位になるか、決勝でもゴールぎりぎりまで分からないデッドヒート?だ。
一華は不安だった。ちゃんと1位を判定できるのか・・・。
1位らしき上級生が、全速力で旗を持っている一華目掛けて走ってきた。勢いがありすぎて、止まれず一華に突っ込んできた。
一華は避けようとしたが、体がぶつかってしまい転倒してしまった。
「一華」
シンが叫んで掛けてくる。
「大丈夫か?」
体を支えて、立たせようとした。
「いたっ」
一華は顔を歪ませて声をあげる。足をかばっている。避けようとしたため、足を捻ったようだ。
シンは一華の状態を確認したら、すぐさまお姫様抱っこで抱え上げた。
女子生徒からは黄色い悲鳴が聞こえ、一華に鋭い視線が突き刺さる。
一華は恥ずかしさと、視線と悲鳴が怖くて、顔をあげられない。
シンは「浩輔、理那、後は任せた。」と言い放ち、一華をそのまま、保健室まで運んで行った。
保健室の先生が一華の足を確認していく。担任の先生も駆けつけて来た。
「捻挫だと思うけど、痛みが強くなったり、腫れたりするようなら、病院で診察受けた方がいいわね。骨折の可能性も排除できないし……。」
湿布薬を貼って様子を見ることにした。
「記録係なら続けられるから戻りたいんだけど……」
「本当に大丈夫なのか? 痛いんだろ?」
「先生、痛み止めって貰えますか?」
先生は消炎鎮痛剤と水を入れたコップを持ってきてくれた。
「はい。消炎鎮痛剤だから、痛みも少し治まると思うけど。」
一華は先生に「ありがとうございます。」と言って、体育祭に戻ろうと立ち上がる。まだ、歩くには難しいようだ。
シンがお姫様抱っこをして、記録係のテントまで戻って行く。
「また、お姫様抱っこで戻るの、恥ずかしいよ。」
「歩けないんだから、仕方ないだろ。帰りどうするかだな。」
「家に痛み止めと湿布ってあったかな?」
「帰りにドラッグストア寄るか。」
「だね。タクシーで寄ってもらおうよ。病院は大丈夫でしょ。」
「そうするか。」
理那はシンにお姫様抱っこされて戻ってきた一華に心配して声を掛けて来た。
「大丈夫なの?」
「うん。たぶん捻挫だろうって。痛み止め飲んだし湿布も貼って貰ったから。」
「そうなの?」
「さっきのって、わざとじゃないのか?」
浩輔は事故ではなく、故意によるものと疑っている。
「どうして、そう思う。」
「借りもの競争で『好きなもの』の時、悲鳴があがっただろ。ぶつかった上級生もすぐに止まってたし、その後の顔が気に入らない。シンを狙って嫉妬したとか。」
「妹とは知らない生徒が、嫉妬したのか?」
「あぁ。いつも、二人一緒にいるから上級生が声を掛ける隙は無いし、二人が離れた時で故意に傷つけられるのって、さっきだけじゃないか?」
「だとしたら、犯罪じゃないのよ。」
「でも、わざとって確証ないし。」
シンは一華に判定役を任せたことに責任を感じていた。自分が一華と一緒ならと条件をつけたからだ。
シンの顔がみるみる怒りに染まっていく。
それを見ていた一華が魔力暴走をしかねない状態と見て宥める。
「シン、大丈夫だよ。シンのせいじゃないし、事故だったんだよ。だから、怒りを鎮めて。お願い。」
一華にお願いされると断れないシン。少しずつ、怒りを鎮めるよう精神を集中させていった。
その間に、他の競技が進んでいき、あとは学年対抗400mリレーを残すところとなった。
「最後の競技、学年対抗400mリレーの選手は集合してください。」
「一華は、ここから動くなよ。」
「うん。」
残していく一華を心配しつつ、シンは集合場所に歩いていく。
1人400mを各クラス代表が走るリレー競技だ。その1年のアンカーをシンが務める。
「位置について」「よーい」「バン」ピストル音が鳴った。みんながスタートダッシュする。走る。走る。トラックを1周して次にバトンを渡す。テントから応援の声が沸き上がる。2人目、3人目、4人目とバトンが渡り、アンカーのシンがスタート位置に立った。今の時点で1年はビリだ。
4人目からバトンを受け取ったシンは、平然とした感じで前の生徒を追いかける。1人抜き、1番前を走っている陸上部のエースの背中を捉えた。みるみる追いつき、ゴール直前で追い抜いた。ゴールのテープを切ったのはシンだ。
さっきの怒りがリレーで爆発した。多少は魔力が出たのかもしれない。
1年生全員から歓声が沸きあがる。
「***(ちょっと、魔力使った?)***」
「***(ちょっと、出たな! スッキリした!)***」
「***(やっぱりー! でもスッキリしたなら許す!)***」
一華はシンの怒りが治まっていることに安堵し、シンは一華の反応に安堵した。二人は見つめて笑い合った。
シンはこれでようやく、怒りが静まったのかもしれないが、この後、陸上部の顧問と部長から熱烈な勧誘を断ることに苦労することは今はまだ知らない。
最後の競技を採点して全競技の点数を集計していく。
「競技が全て終わりましたので、閉会式を行います。生徒の皆さんはグラウンドに整列してください。」
記録係を残して、他の生徒は整列する。
「得点発表です。」の合図で記録係が学年ごとに点数を発表していく。
「1年、〇〇〇点、2年、×××点」
ここまでで、1年が勝っている。
「3年、△△△点。1年の優勝です。」
1年から歓声があがる。
シンの活躍によって総合優勝を勝ち取った。
閉会式後、役割分担して椅子や備品などみんなで片づけていく。
一華は手元のものを片づけることにした。シンは一華の傍から離れることができない。さっきの女子生徒が故意にしたのなら、また何をしでかすかわからない。
「一華、ここは危ないから、先に教室まで連れていく。」
シンは一華をお姫様抱っこして教室まで連れていく。
それを見た女子生徒は、いまだに悲鳴を上げるものもいるが、諦めたのかスルーする生徒もいた。
「ここで待っていてくれ。」
シンは教室で片づけが終わるまで待つよう伝えて、片づけに戻って行った。
少しでも早く帰りたいために、シンは超速で片づけをしていった。
嫌々する生徒がいても、黙々と隣で片づけていく。そういうシンを見て、嫌々片づけていた生徒も手を早めていき、片付けは思いのほか、早く終わった。
終わった生徒から教室に帰ってきた。理那の後、真由も帰ってきた。
「一華、大丈夫? 何があったの?」
真由は一部始終見ていなかったので、何故、一華がお姫様抱っこされていくのかわからなかった。
理那が1位の上級生が故意にぶつかったかもしれないことを説明した。
「えぇー? 犯罪じゃない!?」
「うん、でも、故意かどうかわからないし。」
「そうなの? 証明できないの?」
「うん、だから、これで終わり。私の反射神経が良ければ避けきれたのよ。」
一華は自分の反射神経が悪かったんだと上級生を責めることをしなかった。
「うん、わかった。帰りどうするの?」
「タクシーで帰る。」
シンも浩輔も、直哉も片付けが終わって教室に戻ってきた。
担任も教室に入ってきて終わりのホームルームが始まった。明日は通常通りの授業があるので、しっかり休息すようにとの伝達で終了した。




