第51話 ボーリング
夏休みもいよいよ終盤。遊びに行きたいが、連日の猛暑に外出を躊躇していた一華とシン。
浩輔からグループメッセージが来た。
「午後から、ボーリング行かないか? 六人で」
今回はグループメッセージだ。二人は顔を見合わせる。
遊びに行きたいとは思っていたが……トリプルデートの誘いだ。
「トリプルデートの誘いだね。」
「あぁ、兄妹デートだ。」
「行く?」
「一華は行けるか?」
「シンは行く? ボーリングってわかる? もちろん、魔力使えないよ。」
「ボーリングは知らないけど、一華が行きたいなら行くぞ。」
「夏休み最後の外出かもしれないから行きたい。」
「なら、二人で行くと返信するぞ。」
「うん」
サンはケージに入れて、脱出防止のロックをした。
シンがサンに言い聞かせる。
「俺たちが帰ってくるまで大人しくしてろよ!」
完全に捕虜でも相手にしているような言い方だ。
(ふふっ、子猫の形をした大人の男ではないのに……。)
「にゃん……(わかったよ。)」
一華達は昼食を食べ終え、着替えて来た。
一華は「行ってくるからねぇ。大人しくしててね。」とサンの頭を撫でながら言い聞かせて、二人は出かけて行った。
駅前に着くと、既に浩輔、理那、直哉、真由の四人が待っていた。
一華とシンは待ち合わせ時間には遅れていない。むしろ、早いくらいだ。
「お待たせ。」
(四人は何時から待ち合わせしていたんだ?)
「全員集合したな。じゃ、シュッパーツ!」
浩輔はいつも元気だ。浩輔と理那を先頭に直哉と真由、そして一華とシンが続く。
「***(浩輔君たちって、何時から待ってたのかなぁ?)***」
「***(だよなぁ……熱中症になるぞ!)***」
「***(現地集合にすれば良かったのにね。)***」
「***(約束だからって……今の時期、外で待ち合わせはきついだろうに。)***」
「***(……)***」
冷房の効いたボーリング場は、夏休みを楽しむ人々で溢れ返っていた。
「予約済みだからな。」
浩輔は既に予約済みだった。
(できる男だ。理那も鼻高々だな。)
靴を借りて、履き替える。次はボールを選ぶが、シンに付いて指の入れ方を説明して、一緒に選んであげる。
予約したレーンにボールを置いてから、飲み物を買ってくる。
「チーム戦でやるぞ。どっちが先でもチームで戦略を考える。」
「「「「「ラジャー」」」」」
「まずはじゃんけんな。最初はグー、じゃんけんぽい。」
男子三人でじゃんけんの結果、浩輔・理那、直哉・真由、シン・一華の順番だ。
「***(これで、投げ方が習得できるね。)***」
「***(あぁ。)***」
「***(もしかして、わざと負けた?)***」
「***(バラすなよ。)***」
「***(わかってるよ。でも、投げる時は魔力使わないでよ。下手でもいいからね。)***」
「***(わかった。)***」
浩輔・理那チームの第1投は理那だ。ボールを構えて投げる…ガターだ。がっくりと肩が下がる。
続いて、浩輔が投げた。……10ピン倒した。ストライクではなく、スペアだ。浩輔は「よし」とガッツポーズ、理那は「やったー」と大喜びし浩輔をハイタッチで迎える。
みんなをボーリングに誘うだけあって、上手だ。
次は直哉・真由チームの第1投は真由だ。ボールを構えて投げる…左端に流れるも、かろうじて2ピン倒れた。
続いて、直哉が投げる。……まっすぐ進んでいく。残り8ピン倒れる。スペアだ。直哉も浩輔に続く。真由もハイタッチで直哉も迎える。
最後はシン・一華チームだ。第1投は一華だ。ボールを構えて投げる…ガターだ。がっくりと肩が下がる。
続いて、シンが投げる。……投球フォームは見よう見真似でも完璧に見える。ボールはと言うと……まっすぐ力強く進んでいるように見える。先頭のピンに当たった後、他のピンも次々と倒れて行った。……スペアだ。
一華は「やったー」と大喜びしてシンをハイタッチで迎える。
「***(初めてなのに、すっごーい。鍛錬してるからなの?)***」
「***(感覚は掴んだ。もう任せろ!)***」
「***(えーっ、私次第ってこと?)***」
一華とシンは声を出さず会話をしている。傍目から見ると、見つめあってるだけだ。
「お前たち、何、アイコンタクトしてんだよ。」と浩輔が揶揄う。
「べ、別にアイコンタクトなんかしてねぇよ。」シンは反論するが、浩輔たちは「はいはい」とゲームを続けだした。
3チームともスペアから始まった。女子三人はガターか数ピン程度しか倒せない。男子三人の力で勝敗が付きそうだ。三人ともスペアを取りに行こうとするも、左右に数ピンずつ残った場合は、左右どちらかの数ピンを倒すか素通りするかだ。逆に女子の残したピンで勝敗が決まりそうだ……。
1時間弱たったころ、勝敗が決まった。浩輔・理那、シン・一華、直哉・真由の順位だった。
「今度は男子三人で対戦してみてよ。私たちは応援してるから。」
理那が三人だけでゲームをするよう勧めた。
男子だけのガチンコ対決が見てみたかった。というのは建前で、本音は単純に女子三人でおしゃべりをしたかっただけだろう。
「おー、シン、直哉、俺がぶっつぶしてやる。」
浩輔は自分が一番だと息巻いているが、魔界の戦士であるシンの闘争心に火が付いた。
「あぁ、勝負だ。」
「***(シン、魔力は使わないでよ。)***」
一華はテレパシーで注意する。
男子三人はじゃんけんした。直哉、浩輔、シンの順番だ。
(やっぱり、わざと負けたな。)
さぁ、ゲーム開始だ。直哉が第1投から始まる。まずはストライクだ。真由が手を叩いて大喜びだ。
次は浩輔だ。第1投は勢い過ぎて左半分だけが倒れた。第2投でスペアは取った。ぶっつぶすと言った手前、悔しがる。理那もドンマイと慰める。
シンは精神統一から始まる……第1投だ。案の定、ストライクを出す。一華は普通に見えたので安堵した。
2フレーム目に入ると、浩輔も落ち着きを取り戻し、ストライクを出すことが出来た。
女子は三人が固まり、理那と真由の恋バナに花を咲かせだした。
理那は仲直りデートの後も、ほぼ毎日会ってるらしい。真由とは、花火以来だから、理那の仲直りデートの事は知らない。理那が事細かく説明しだした。一華の顔は真っ赤っかだ。
一華とシンのけんかの理由に、真由の反応は大爆笑だ。そうなのだ。人から見れば笑いの種だ。にもかかわらず、浩輔と理那は自分たちまで口げんかすることになったのだ。
直哉と真由も週に数回程度、会ってるらしい。図書館デートや水族館デート、穏やかなデートを楽しんでいるようだ。
(堂々とデートできるなんていいな。ブラコン、シスコン設定を貫いてもいいよね。)
一華は二組のお惚気に微笑みながら心の中で呟いてみる。
シンはゲーム対戦中も、一華の状態を感知していた。特に崩れるようなことはなく、安定しているようだと見ていたが、一華の心の呟きまでも感知していた。
(堂々とデートか……今の状態ではあくまでも兄妹だからな……。少しでも兄妹設定を解いてしまうと、……元に戻す自信がない……な。)
女子三人はゲームに夢中の男子三人の事は、ほとんど見ていなかった。
直哉、浩輔ともに、中盤から体力が落ちてきていた。10フレーム目はお互いスペアで終わった。最後のシンはストライクだった。おまけで2投できる……結果、12連続ストライク(パーフェクトゲーム)だった。
順位はパーフェクトゲームのシン、続いて浩輔、直哉の順位になった。一華からしてみれば、1位のシンは当然だった。ただし、魔力を使用していないか確認する方法はない。
「シン、おめでとう」
「***(魔力使ってないよね。)***」
「あぁ、ありがとう」
「***(もちろん、使ってない!)***」
「***(使ってないのに、全部ストライクってすごいね。プロになれるんじゃ???)***」
「***(ならない! 俺は魔王候補だ!)***」
「***(はいはい)***」
ゲームを終えて、解散することにした。
帰り際、浩輔がシンに負けた事を悔しがったが、今までシンに勝てたことがないので、素直に負けを認めた。
「ボーリングまでもシンには勝てなかったな。」
「あぁ、お前が俺に勝てるのは理那の事だけだ。」
浩輔だけに聞こえるよう小声で言い放つ。浩輔の真っ赤な顔で理那の顔を見る。
浩輔はシンの顔に向き直り、「お前、やっぱかっこいいな。」と呟いた。
「それから、待ち合わせ場所は涼しい所にしろよ。今日は何時から来てたんだ?」
「っおぉ、次は気を付けるよ。」
待ち合わせ場所に関しても小声で気遣いするよう注意され、もう、勝てる気がしない浩輔だった。
「一華、帰るぞ。」
シンは子猫サンの留守番が気になり、一華の背中を押す。
「じゃぁ。またね。」と一華は振り返ってみんなにバイバイと手を振ってシンに押されながら帰っていく。
ボーリング場を出たところで、一華が「サンちゃんの離乳食と猫砂買ってこうよ。」とシンを誘う。
「あぁ、そうだな。大人しく待ってるかな?」
「待ってたら、おやつもあげようか?」
「大人しかったって、どうやって判断するんだ?」
「猫だけに、猫被って判断できないだろ。」
「シン、うまい! はははは」
魔界人がそんなユーモアを言うなんて思ってない一華は大爆笑だ。
ペットショップに寄って、猫砂、離乳食、おやつ、おもちゃを買って帰る。
◇◆◇
マンションに帰ってきた。一華はリビングまで走ってゆく。
「サンちゃーん、ただいまー。」言いながら、ケージのロックを解除してドアを開く。
サンは寝ている。泣き疲れて寝ていたのか、ただ、寝ていたのかは二人にはわからない。起きたらお留守番のお土産として、おやつをあげることにした。
猫砂と離乳食を片づけていたシンもリビングに入ってきた。一華にサンのおやつを渡すが起きてくるまでお預けだ。猫砂を替え、おやつを用意して起きてくることを待つことにした。




