第49話 子猫【後編】
朝、早くに起きてきたシンは、段ボール箱の子猫を覗いてみた。すやすやと寝ている。起こさないように朝食の準備に取り掛かった。
その後、一華が起きてきて、シンに小声で「おはよう」と声を掛けた後、同じように段ボール箱の子猫を覗く。すやすやと寝ている。
シンも小声で「おはよう、朝食にしよう。」と答え、テーブルに朝食を用意しだした。
二人は音を立てないように、いつもより静かに小声で今日の予定を確認する。
「動物病院行ったら、帰りにホームセンターかペットショップだねぇ。」
「動物病院ってどこだ???」
「ペットショップと併設してなかった?」
「なら、ペットショップで全て買いそろえる方がいいな。」
「ケージにトイレ、食器、ミルク、キャットフード、猫砂は持って帰れないよね。」
「また、〇ーバータクシー使えばいいよ。」
「うん」
食べ終えた二人は片づけた後、子猫を段ボール箱に入れたまま、シンが抱えて動物病院へ向かった。
動物病院では、大型犬や小型犬、子猫やシニア猫など、様々な患者?が飼い主と一緒に静かに待っていた。
待合室では他の動物たちの痛みや不安が「共感」の魔力で流れ込み、一華は居たたまれない気持ちでいっぱいだ。
(共感の魔力が暴走しそう……。)
一華は辛そうな表情を浮かべている。
(ここでテレパシーを使うのは、動物の感に悪影響させては困る……やめておくか。)
「一華、辛いのか?」
「うん、大丈夫……。」
(ここでは制御できないのか……、出た方がいいのだが……。)
「近くのカフェで待ってるか?」
「ううん、一緒にいる……。」
一華は辛そうな状態のままで結構な時間、待った。箱の中の子猫はすやすやと寝ている。ようやく名前を呼ばれて、診察室に入って行く。
箱から子猫を抱き上げるとようやく目を開けた。まだ、寝ぼけ眼のようだ。
昨夜、保護したまま、何も口にしていないことなどを説明した後、先生は子猫が覚醒する前に次々と診察していった。月齢、性別、検査、ワクチン接種など、一通りのことをしてもらった。
月齢は1か月過ぎている頃で、そろそろ離乳食への移行時期だと。性別は男の子で、健康状態は問題なし。ワクチン接種も受けて終わった。
「よかった。」
(貞操の危機は俺が守る。)
二人は健康状態には安堵した。支払いはパパ初めての仕事だ。ここでも、また打ち出の小槌で支払う。
ここ、数日間での支払金額をパパとママが見たら、……怒られそうだ。
隣のペットショップに向かう。
「ケージにトイレ、食器、ミルク、離乳食、猫砂、爪とぎ、ブラシ、おもちゃ、消臭剤……どうせ、タクシー使うんだから、全部買ってこうよ。」
「あぁ。」
ここでも、また打ち出の小槌で支払う。
タクシー配車アプリで予約したタクシーが店の前の駐車場に入ってきた。確認後、トランクに全てを積み込み、ダンボール箱の子猫と一緒に後部座席に乗車した。子猫はまた、すやすや寝ている。大物になりそうだ。
二人と1匹はマンションに帰ってきた。まずは、2階建てのケージを組み立てて、サンをタオルと一緒に入れた。トイレを下の階に置く。食器に離乳食を入れてケージ内のサンの鼻の先まで持って行って嗅がせてみた。
「食べるかな? サンちゃん、ご飯だよーー。」
サンは声に反応して頭をあげ、匂いを嗅いでいる。一口、ぺろりと舐めた。と思ったらムシャムシャと食べ始めた。相当、お腹が空いていたんだろう。ママ猫と離れてどれくらい食べていなかったんだろうと思うと、昨夜、散歩に行って良かったと思う一華。
「『うまいにゃ、うまいにゃ』って言ってるな。」
「ほんと?」
シンにサンの声が言葉として聞こえてきた。
「あぁ、『うまいにゃ、うまいにゃ』って言ってるぞ。聞こえないか?」
一華には「にゃにゃ」としか聞こえない。
「聞こえないよ。」
「何でだろうな??? やっぱり『うまいにゃ、うまいにゃ』って聞こえる。」
「猫語もわかるの?」
「動物病院では、他の子の声は聞こえなかったはず……??? 一華に助けられた子だけと喋れるのかもな!」
「あぁ、それいい! やったー! サンちゃんとお喋りできるんだーー!」
サンは一華に目もくれず、一生懸命目の前のご飯を食べている。
シンは猫にとって危険な個所がないか確認している。
「部屋を出る時はリビングのドアは必ず閉めること。それから、クーラーは付けっ放しだな。二人が家に居ない時はサンはケージに入れておくこと。今はこれぐらいで大丈夫か……。」
「うん、サンに気を付けてって言ってもダメだから、こっちが注意してあげないとね。」
「にゃんにゃーにゃー……(大丈夫にゃー。守るにゃー。)」
「おっ? サンが答えたぞ! 大丈夫だってさ、守るって言ってるぞ。」
「にゃにゃにゃ……(わかるにゃ、一華。)」
「一華の名前呼んでるぞ!」
「えー、ずるーい。シンとだけ喋れるなんて……私もサンちゃんと話したーーい。」
「仁華に変身してみろ。話せるはずだ!」
「そうなの? じゃぁ、今変身してもいい?」
「あぁ、大丈夫だろ。」
一華はブレスレットを外して、(仁華に変身)と心の中で唱えると、仁華に変身していた。
「にゃにゃーん……(これで喋れるにゃ)」
「にゃーん、にゃんにゃ……(人間が猫に変身したにゃ。にゃんでにゃ?)」
「にゃんにゃみゃ……(ママにゃんはどうしたにゃ?)」
「にゃんにゃにゃにゃー……(知らにゃいにゃ。気づいたらここにいたにゃ。ママにゃんじゃにゃいにゃか?)」
「ママじゃない。記憶喪失か?」
「にゃんにゃにゃ……(どこから来たのかわかんにゃいにゃか?)」
「にゃんにゃ……(わかんにゃいにゃ。)」
「仕方ない。サン、ここに置いてやる。仁華を襲うなよ! 襲うようなことがあれば、ピー(自主規制)して、ピー(自主規制)して、ピー(自主規制)してやる。」
シンはサンが男の子と判明して、仁華の貞操を守ることに必死だ。
「にゃーん……(わかったにゃ。)」
「にゃ~んにゃにゃ……(シン、そこまでしにゃくても、大丈夫にゃぁ)」
「ダメダ! 一華はサンがケージから出ている時は変身するなよ。変身する時はケージに入れてからにしろ。」
「にゃ~んにゃー……(わかったにゃぁ)」
「一華、もう戻れ。」
「にゃーん……(わかったにゃ。)」
仁華は(一華に変身)と心の中で唱えて一華に戻り、ブレスレットを装着した。
「あーぁ、もう、サンちゃんと話せなくなったね。」
「俺が通訳してやる。」
「それしかないよね。でも、なんで猫と話せるの? 魔界語なの?」
「魔界語だな。仁華と触れたことで魔界語が喋れるようになったか……魔界から送られてきたか!?」
「魔界の猫?」
「本人に記憶がないから、不明だが、何のために送られてきたんだ?」
「それとも、私みたいに魔力が覚醒したか……? 人間に換算すると1~3歳らしいけど、子猫の割には、きちんと意思主張してるよね。」
一華はスマホの画面を見せてくる。
「絶対、おかしいって。魔界語で話す子猫って…。」
「黒だな。子猫に変身してる魔界人か?」
「えぇー。それヤダ。今すぐ追い出してーー。」
「にゃにゃにゃにゃー……(魔界人じゃにゃいにゃ、猫にゃー)」
一華はサンを可愛がることに少し戸惑う。魔界人が変身してたらと思うと怖い。
「シン、サンが魔界人が変身した子猫だったらと思うと……やだぁ、無理かもー」
一華は泣きそうだ。今まで可愛がってたのに、急に避けるようにシンにサンを手渡す。
「そうだな。魔界人が変身した子猫なら、護衛にも支障が出る。早々に魔界に送り返す方がいいな。」
サンも泣き出した。
「にゃーにゃーにゃーにゃー……(魔界人じゃにゃいにゃー、猫にゃー、一華信じてにゃー)」
(サンから貞操を守ることより、他の魔界人を受け入れることはできないな。)
「にゃにゃにゃにゃー……(シン、魔界の猫と証明できにゃいか?)」
「魔界の猫としての証明かぁ……?」
(サンが記憶喪失の状態で、どうすれば魔界の猫と証明ができる???)
「叔父上に問い合わせてみるか……」




