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いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

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第47話 台風

「台風〇号が本州に上陸する可能性が出てきました。」


一華の耳にテレビのお天気ニュースが入ってきた。


思わず天気予報を見入る。

予報円は大きく進路は定まっていないようだが、数日後、この地域は暴風域に入っていた。しかも、進路の右側に位置している。最悪だ。しかも、台風前の方が雨風・雷が激しい。もう準備しておいた方がいいはずだ。


「シン、もうすぐ、台風が直撃するって。」


「台風?」


「うん、嵐が来る。風が立っていられないほど吹いて、物が飛ばされたり、雨が激しく降って道路や家が冠水したり、雷が落ちたり、停電したり、生活できなくなる。」


「それは大変だな。どうするか……どこかへ避難するか?」


「避難?」


「あぁ、テレポーテーションする。台風が来ない所に移動すればいい。」


「なるほど……でも、どこに移動するの? 移動先に人がいれば見つかるよ。」


「別邸でもあれば、自由に行き来しても誰にも見られないが……ダメだな。」


「仕方ない。ここでやり過ごすしかないね。」


「魔界で台風ってある?」


「ないな。季節がほぼ一定だからな。」


「そうか、初めてだね。じゃぁ、生活必需品の準備だね。」


「何が必要なんだ?」


「台風当日は外出しない。ここは5階だから、冠水することはないけど、1階のエントランスが冠水したらエレベーターは止まる。移動は階段のみ。それから、最悪、停電が起きたら、エレベーターだけでなく、貯水タンクの水揚げが止まるから水道は出なくなり、お湯も出ないからお風呂に入れない。ここはIHだから料理もできない。室内は照明がつかないから暗いし、クーラーも止まる。テレビも見れないから情報がつかめない……」


「なんか、野外の鍛錬みたいだな。わかった、準備をしよう。」


「まずは、電源の確保だね。ポータブル電源。スマホの充電や扇風機ぐらいは使いたいし、電気ケトルがあればカップラーメンは作れる。後は水、飲み水。あとは非常食。パンとか……」


購入リストを作成していく。

ポータブル電源、扇風機、電気ケトル、ペットボトル入り飲料水、パンやカップラーメン、非常食、非常用トイレ、熱中症対策グッズ、懐中電灯、ランタン


「こんなもんかなぁ」


「結構あるな。」


「うん、ただの停電だけなら、これぐらいあれば大丈夫かなぁ。」


「ただの停電じゃなかったら???」


「電柱が倒壊したとか、家の屋根が飛ばされたとかで、自宅に住むことが難しい場合は避難場所に行くことになると思う。」


「避難場所とは?」


「体育館とか公民館とか、大勢の人が集合して寝起きを共にする……。」


「それは護衛が難しいな。」


「ここはマンションだから、地震とか竜巻じゃなければ大丈夫と思うけど……」


「そうか。なら、今から買い出しに行くか?」


「そうだね。品切れになる前に購入しておく方がいいよね。とりあえず、今日はホームセンター行ってみよ。……でも、重いし嵩張るよ。ママがいれば車で行けるんだけど……」


「重い物は大丈夫だが、嵩張るとなるとテレポートしたいが……ダメだよな。」


「さすがに、ダメだね。タクシーを利用するしかないね。」


「タクシー?」


「うん、料金払えばどこでも車で送ってくれるの。〇ーバータクシーアプリ使えば、配車できるよ。」


「なら、ホームセンターとスーパー、両方行こう。」


一華とシンは着替えて、先にスーパーに足を向けることにした。



◇◆◇



スーパーでは、カップラーメンやロングライフパンなどの非常食となるものを買い込むことにした。


「夏の暑いときにカップラーメンって食べられるかなぁ?」


「汗だくだな。停電がなければローリングストックの仲間入りをさせればいいし、あっても困らないだろ。」


と言うことで、とりあえず数種類カゴに放り込んでいく。


「夏の停電は死活問題だよね。」


「祈るだけだな。」


「シンでも祈るだけなの?」


「魔力でクーラー動かせない?」


「魔界でやったことはあるが、人間界の電化製品は破壊しそうだな。試してもいいが!?」


「賃貸だから、破壊だけはやめてね。」


「あぁ、諦める……一緒に祈ろうか!」


「ふふっ、うん、一緒に祈ろう!」


「他に買い忘れないよな……。次はホームセンターまで歩くか。」



汗だくになりながら、シンが食料品の袋を持って、ホームセンターまで歩いてきた。

大きなカートに食料品の袋を入れて、クーラーの効いた店内にホッとする。


まずは、ポータブル電源を探す。手のひらサイズからキャンプでもできそうな大型タイプまで、たくさん種類がある。どの電化製品を使うかだ。スマホの充電、電気ケトル、扇風機は最低でも同時に使いたい。翌朝までは持つのか? 停電の復旧時間の想定時間は? 何を選べばいいのかわからない。


同時に使う電化製品の消費電力を上回るものを選択した。高額であり、重くて結構な大きさだ。


「これなら、1つあれば、何とかなりそう?」


「そうだな。重いのは問題ない。」


シンは軽々とポータブル電源をカートに積み込む。

あとは、扇風機、電気ケトル、ペットボトル入り飲料水、熱中症対策グッズ、ランタンなども、どんどん、カートに詰め込む。


「もう買い忘れないかなぁ……」


「今は思いつかないな。」


「買い忘れあったら、明日また来ればいいよね。」


「そうするか!?」


「会計済まそう。また、打ち出の小槌よろしくね。」


「あぁ」


レジで表示された金額に一華はあんぐりだ。

自分で購入するもので高いと言えば、文房具ぐらいで、ほとんどママに支払いしてもらっていた。洋服ぐらいの金額は知っている程度だ。この前の夏服もシンが支払いをした。それでも、想定内の金額だった。それなのに、今日の表示された金額は1桁違う。女子高生からすると心臓はドクンドクンと高鳴っている。


シンは動じず、家族カードで支払う。カートに積みなおし、今度は〇ーバータクシーで配車予約する。

タクシーが来るまでベンチに掛けて待つことにした。

自販機でシンは嵌った〇ーラを、一華は果汁入りの天然水を買って、乾いた喉を潤す。


1口飲んで「「フーっ」」二人は一息つく。傍目から見ても仲の良いカップルにしか見えない。


タクシーが駐車場に来たようだ。アプリの情報と車両の一致を確認した後、荷物を積み込み乗車すると発車した。

これで台風を迎え撃つ準備は万端だ。



◇◆◇



台風直撃予定は翌日の未明あたりだ。前日の今日は風雨がだんだんと強くなってきた。

ポータブル電源はコンセントに繋ぎっぱなしで、いつでも満充電だ。扇風機も組み立て、電気ケトルに、懐中電灯、ランタン全てのものを手に届くところに集めておく。

冷凍庫は詰め込み、簡単には溶けないようにペットボトルも凍らした。冷え対策グッズも準備万端だ。


夕方ごろになり、一華はスマホでお天気ニュースを確認する。


「いよいよ、近づいてきてるね。」


「あぁ、いつでもOKだ。」


シンは戦闘態勢に入った。


「早めにお風呂入って、片付けも済ましておこうね。」と一華はお風呂の準備をする。


シンはキッチンに向かい、簡単な夕食の準備を始めだした


「今日は、何にするの?」


「簡単に焼きそばはどうだ? 冷めても食べれるし。」


「じゃぁ、キャベツに玉ねぎ、人参、もやし、豚肉だね。」


キャベツはざく切り、もやしは洗うだけ、玉ねぎはシンに渡し、一華は人参を皮むき器で剥いていく。


シンから鼻をすする音が聞こえ「うっ」と涙を流しだした。


「はい、ティッシュ、ティッシュ」と一華はティッシュを箱で持ってくる。


「うーっ、目が痛くなるのは、どうにか回避する方法はないものだろうか?」


「あはは、ゴーグルでもする?」


「今度買ってくるか。」


そんなこんなで、豚肉を炒めて、切った野菜を入れる。火が通ったら、麺をほぐしながら4人前入れた。


「こんなに食べるの?」


「余ったら冷蔵庫に入れておく。夜食にいいだろ。」


「カップラーメンは熱いもんね。」


「それに、火が使えるうちは非常食には手を付けたくないからな。」


「なるほどー。」


「できたぞ。」


「ちょっと早い夕食だけど、食べよ。」


早い夕食を食べ終え、片づけた後、入浴も済ましておく。

風雨がさらに強くなり、窓ガラスに打ち付ける雨の音がうるさい。風の音もヒューヒューうるさい。


停電も起こることなく、一日が終わっていった。

もう寝てしまうことにして、それぞれ自室に戻っていった。



◇◆◇



風雨の音がうるさかったが、眠りにつくことはできた数時間後、雷鳴が轟きだした。

だんだんと近づき、稲妻と雷鳴との間隔が短くなってきた。一華は眠れずに起きていた。


「うぅっ……きゃっ……怖い…」


少しでも聞こえないように頭から布団をかぶってはいるが、それぐらいでは効果がない。

そんな一華の状態をシンは感知した。


「ん?」


(一華が怖がっている?)


「***(一華、どうした?)***」


「***(シン? 雷が怖い……)***」


「***(一緒にいた方がいいか?)***」


「***(うん、来れる?)***」


「***(わかった)***」


シンは一華のドアを擦り抜けて、ベッドサイドに座って声を掛ける。


「一華、大丈夫だ!」


「シン、朝まで隣にいて……」


朝までとお願いされたシンは、一緒にベッドに横たわる。隣にいる一華にドギマギするが(これも護衛だ)と心に誓うも、心臓の鼓動が早まるのを止められない。

稲妻と雷鳴の間隔はどんどん短くなり、近づいてきている。

一華はシンの腕の中で、雷鳴が轟くたびに肩を震わせて怖がっている。一華は雷が怖くて眠れずにいるが、シンは腕の中の一華のせいで眠れずにいる。



初めての添い寝だが、一華の頭はシンの胸元にあり、シンの心臓の鼓動がドクドクと少し早く聞こえてくる。

シンの力強い音を聞いているうちに、次第に恐怖が薄れ、深い眠りへと落ちて行った。



雷鳴が遠ざかる中、シンの腕の中で安らかな寝息を立てる一華。シンもまた、彼女を守り抜いた安堵感の中で、いつの間にか眠りについていた。



◇◆◇



翌朝、台風は過ぎ去り、窓の外にはいつもの静かな景色が戻っていた。

シンが気が付いた時、一華はまだ腕の中で眠っている。このまま、抱いていたかったが、朝食の準備がある。起こさないよう、そっと腕を抜きベッドを抜け出した。


(ふー)


シンはドアを擦り抜けて自室に着替えに戻った。

台風のために買い込んだものは、片づけてから朝食の準備をする。



一華が眠りから覚めた時、既にシンの姿はなかったが、昨夜の自分のお願いを思い出して顔から火が出るほど赤くなった。


(……起きて行かねば……どんな顔して挨拶すればいい?)


一華は着替えて部屋を出た。

キッチンにいるシンに普段通りと意識して「おはよう」と声を掛ければ、シンもいつも通りに「おはよう」と迎えてくれた。


(いつも通りだ。良かった。)


「結局、停電は免れたね。お祈りのお陰かな。」


「あぁ、きっとそうだ。パン以外は片づけておいた。」


「ありがとう。」


「さあ、朝食にするぞ。」


二人はダイニングテーブルに座って朝食を食べ始める。

いつも通りのシンと思うと、いつもの一華らしく疑問を投げかける。


「ねぇ、魔力で台風とか制御できない?」


「魔力で制御?」


「うん、台風とか竜巻とか豪雨とか、被害の出そうな天気の時に魔力で閉じ込めるとか……霧散させるとか……魔力で出来そうな感じがするんだけど……。」


「そうだな……別世界にテレポートさせれば出来なくもなさそうだけど……直径何百キロもする大きさのものを一飲みさせるには俺一人では無理だな。逆に霧散させても台風の力が強大すぎて引き寄せてしまうだろうな。」


「そうか……魔力を以てしてもダメかぁ……『天気を制す者、世界を制す』は実現できないかぁ……」


「一華は天気を制したいのか?」


「私がってわけじゃないけど、最近の天気は集中的に被害が出るぐらいひどくて、被害に合わないのは運としか思えないし、」


「昨夜の台風だって、たまたま被害が出なかっただけで、離れた場所では豪雨で道路が冠水したり、強風で屋根が飛んだりしている……。」


「天気を制すことが出来れば、雨も風も適度に、暑さも寒さも過ごしやすい程度に抑えることが出来れば、みんなHAPPYと思うんだよね。」


「なるほどな。確かに。ただ、天気を制す者が悪人だと問題だな。」


「うん、そうだね。そこは魔界人に受け持ってもらう方が平和じゃない?」


「人間界の天気を魔界人が制すのか?」


「だって、人間界で善人がいつまでも生きていけないし、魔界人なら別世界だから私利私欲に走らないでしょ。」


「あぁ、魔界人が私利私欲に走ったら制御料を巻き上げるな!」


「えぇーっ、魔界人も鬼か悪魔なの??? ダメじゃん。」


二人とも大笑いしだす。


「もう、この話は封印だーー!」


特別な夜を迎えた二人は結局、いつもの二人で、いつも通りの一日が始まった。

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