ACT.12
卒業式前日──ゼンタイ通達
「今年度の卒業式における3年生女子の正装について、
全身ゼンタイスーツ(各自希望色)を許可します。
なお、靴・スカート・上履きの着用義務は解除され、布地にて統一可。
布越しでのセレモニー参加を、学校として正式に認めます。」
通達を見た瞬間、
1年のナツミは机の下で脚をぎゅっと抱いた。
「……本当に、卒業するんだ。布のままで」
「見せて、歩いて、泣いて、卒業するんだ」
スイの青タイツの膝に、朝の光が透けていた。
式当日──ゼンタイセレモニー、開幕
朝8時。体育館の正面ステージに、5色の布を纏った3年生たちが並ぶ。
全身ゼンタイスーツ。
顔も指先もすべて包まれたまま。
それぞれの誓いが色で語られる。
赤は情熱。青は静けさ。緑は元気。黄は美学。そして黒は覚悟。
そして、脚。
生徒たちは椅子に座るときも、立つときも、背筋を伸ばして脚線を崩さない。
それが、卒業式における“布の礼儀”だった。
送辞──ユヅキの最後の叫び
マイクの前に立ったのは、ゼンタイレッド・ユヅキ。
全身タイツのまま、胸を張って言葉を投げた。
「最初は恥ずかしかった。布で全部を隠すのが、見られるのが、脚を晒すのが。
でも、やってやるって思った。
この布を脱がずに、ここまで歩いてきたことが、あたしの“正解”だったって、今なら言える。」
深く一礼。
真っ赤なゼンタイのまま、脚をそろえて。
体育館全体が、拍手ではなく、静けさで応えた。
答辞──3年生代表のゼンタイウォーク
卒業証書を受け取る代表は、ゼンタイブラックの3年生だった。
階段を上がる脚。
黒の布が、脚の筋と関節をすべて包み込む。
スカートもヒールもない。
音もなく歩く。
でも、ひとつひとつの歩みが、重い。
布の中で嗚咽が漏れた。
「ありがとう」と口を動かすのがわかる。声は出ない。
だけど、その姿は、どんな言葉よりも強かった。
退場──涙と布の中の熱
卒業生たちは全員、ゼンタイ姿のまま体育館を後にする。
体育館出口、在校生が並ぶ花道。
そこに立つ後輩たち――全員、脚にタイツを履いていた。
制服の下、色とりどりのタイツが揃う。
その中で、1年のナツミがゼンタイグリーンのまま叫んだ。
「ありがとう!見せてくれて……!
履き続けてくれて、ありがとう!!」
卒業生たちは立ち止まり、ひとりずつ静かに頷いた。
顔は布で隠れても、その頷きの角度、脚の張り、手の指先がすべてを語っていた。
式後──更衣室にて
更衣室の奥、誰もいない鏡の前で、
スイが青い布のフードをゆっくり脱ぐ。
マスクの内側に溜まっていた涙の熱が、冷たい空気に触れてすうっと引いていく。
脚はまだ布に包まれたまま。
「卒業しても、履いてていいよね……?」
誰に言うでもなく、布の下の自分に問いかけていた。




