ACT.10
昼──通達:「ゼンタイ訓練」開始
「明日から、ゼンタイ行進訓練を実施します」
放送で告げられたその文言に、校舎全体が沈黙した。
保健指導の一環として導入される新制度。
目的は“羞恥耐性と社会的適応の育成”。
実施内容は――
・午後10時に集合。
・全身ゼンタイを着用し、隊列を組んで校外を2km行進。
・途中、周囲の一般通行人への視認を許可。
・マスクの脱着は不可。
全身包まれ、見られながら歩く。逃げ場のない羞恥の夜。
更衣室──全身を包む夜の布
午後9時45分。
女子更衣室には、タイツ素材のスーツを手にした少女たちが集まっていた。
脚だけじゃない。今日は、顔すら包まれる。
「……視界、ちゃんと見えるのかな……」
ナツミが緊張した声で問う。
「薄い布の内側にHUDがある。外からは顔、見えないけど……」
スイが答える。
「だから逆に、全部“脚とボディラインだけ”が見られるのよ」
マリアが言う。
誰にも顔を知られずに、脚をすべて見られる夜。
スーツ装着──変身とは違う“命令による布”
いつものように叫んで変身するのではない。
無言で、タイツを太腿に通し、布を引き上げる。
胸、腹、背中、腕、指先、首、そして――
顔。
ユヅキはマスクを最後に被った。
真っ赤な全身タイツの中で、自分の呼吸が布に吸い込まれる。
「……行こう」
行進──羞恥の夜を歩く
夜の歩道。
月の明かりに照らされながら、5色のゼンタイ姿が一列で歩く。
スカートもブーツもない。ヒールもない。脚そのものが衣装。
車の音。
コンビニ前の高校生たちの視線。
スマホのシャッター音。
見られている。嗤われている。でも、歩くしかない。
「足音が……生身と全然違う。響かない。布が全部、吸ってる」
レンカが言う。
「布の中にいる感じ、するよね。自分の声すら反響してる……」
ナツミの声が震えている。
羞恥が、自分の中でこだましている。
通過点──「照明ポイント」
道の途中、強制照明エリアに入る。
暗い夜道が、突如として無数のLEDで照らされる。
「やだ……照明、タイツの下のラインが……っ」
布越しに浮かび上がる腹部の陰影。
胸、脚、ヒップライン。すべてがシルエットとして曝け出される。
脚だけじゃない。ゼンタイという布が、羞恥のスクリーンになる。
転倒──ナツミのつまづき
舗装の隙間に、ナツミのつま先が引っかかる。
「きゃっ……!」
緑のゼンタイが地面に倒れ込む。
膝から太腿まで地面に擦れる感触。
マスクの内側で息がこもる。
「だ、だいじょうぶっ……たいじょうぶ、だけどっ、恥ずかしいぃぃっ!」
でも、スイが手を差し伸べた。
「立とう。この布の中にいるのは、私たちだけじゃない。
ここには“仲間”がいる。顔は見えなくても、脚が並んでる」
終点──そして、脱がずに立ち止まる
ゴール地点、学校正門前。
ゼンタイ姿のまま、列は静かに止まる。
通りすがりの女性が立ち止まって、ぽつりと言う。
「……すごいわね、あの子たち。全部隠して、全部見せてる」
見せたいわけじゃない。
脱げば楽になる。でも、履いてる方が“私”でいられる。
「羞恥を布に閉じ込める。
それが、あたしたちの歩き方だ」




