第三章:愚者の病(闇) ― 〃 ―
◆ 闇 ― 怨み(下)
冷たい夜の底で、
ただひとり、誰にも愛されない俺がいる。
ああ、神よ。
どうして俺を見捨てたんだ。
毎晩、ひとり布団の中で祈ったじゃないか。
声を殺して、涙を枕に染み込ませながら。
こんなにも切実な祈りが、他にあるだろうか?
──それなのに。
なぜ、何も変わらない?
なぜ運命の誰かは現れない?
俺ほど不幸な人間が他にいるだろうか?
俺は頑張ってきた。必死で、ずっと。尽くして、傷ついて──
それでも何も報われなかった。あまりにも、酷い。
なあ。
俺を見ろ。俺は…何も悪くなんかない。
俺はこんなに、こんなにも可哀想じゃないか。
……なのに、お前らは俺のことを見ようともしない。
誰かの幸せには手を叩いて笑って、
誰かの不幸には顔をしかめて距離を取る。
誰が本当に苦しんでいるのか、
誰が本当に救われるべきなのか、
なんで助けてくれなかったんだ、役立たず。
でも、いい。
もう誰にも期待しない。
俺は、待つと決めた。
神よ。
貴方だけは、俺を見捨てないと信じている。
貴方が遣わす天の使いを、俺はここで待っています。
脇目も振らず、ひたすら、ただひたすらに。
──ひたすら祈っているふりをして、誰かの罪悪感を掻き立てる。
俺の中に、清い心なんてもう残っていない。
俺が求めているのは、救いなんかじゃない。
この世界が、俺の不幸に気づかなかったことへの、
正当な報いだ。
いつだったか、馴れ馴れしい女が言っていた。
「辛い思いをさせて、ごめんね」と。
…?辛い?
ああ、辛いとも。辛くて辛くて堪らない。
……今、謝ったのか?
この俺に?
なんだ、これは──
どす黒く、じわじわと胸の奥で湧き出るような──
嫌悪とも、快楽ともつかない。
濁っていて、熱を孕んだ液体が心の底から込み上げてくる。
ひどく、心の奥を"満たしていく"。
そうか、俺は謝罪をされたかったのか。
俺に詫びて欲しかったんだ。
「ありがとう」なんていらない。
お前らが笑う証明なんて聞きたくもない。
俺はただ、俺を助けられなかったお前らが、
自分自身を恥じるように、頭を下げる。
それが、俺の望んでいたことだったんだ。
ああ、そうだ。
……全部、お前らのせいだ。




