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第三章:愚者の病(雨) ― 〃 ―
◆ 雨 ― 失われた色(下)
傷だらけだった手も、今ではすっかり治り、
包丁も針も、人並みに扱えるようになった。
そんな時、彼が結婚したと聞いた。
「良き友人として、これからもそばにいることを許しておくれ」
たったそれだけの伝言。
……嗚呼。
ああ、私ったらなんて愚かな女。
包丁を置いた手が、かすかに震える。
あの日、薔薇を渡したときのあの寂しげな顔。
あれは──
困っていた顔だったのね。
思い人がいるのに、私ったら、薔薇なんて贈ってしまって。
……ごめんなさい。
好きになってしまったこと、本当に、ごめんなさい。
たとえ想いが届いていたとしても、
それを受け取る手は、はじめから私にはなかったのね。
……雨が降っている。
ずっと、降っている。
止まない。
ねえ、
雨が、止まないの。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次回は、9月29日(月)に更新予定です。
またお時間のあるときに、続きを覗いていただけたら嬉しいです。




