第一章:愚者の町(上) ― 雨と闇と風の町 ―
◆ 雨の町
初めに訪れたのは、雨が止まない町。
「ここは雨が止まないの」
――え? 洪水?
「ふふ、洪水なんてないわ。
だって、溢れる川が無いのだもの。
初めから道など無いのだもの」
ここには何もない。
捨てることを選んだ者たちが、最期に選んだ灰の町。
かつて、望んでしまった愚者の町。
歩む人がいないこの町に道はない。
見上げる人がいない町に空はいらない。
家族も親友も、色も未来もなにもかも。
誰かが言った。
『孤独を選んでしまったこの町は、町とは言えない』
――そうかしら?
「ええ。ふふ、そうかもね。
なら、あなたは早くお行きなさい」
ここの雨は冷えるから。
雨宿りすらできないこんな場所、はやく忘れてお行きなさい。
◆ 闇の町
雨の町の隣にあるのは、陽が昇らない町だった。
この町では、街灯だけが灯っている。
太陽を嫌う町。
「ああどうも、やあこんにちは」
――え? 顔色が悪いだって?
「ははは、心配してくれるのか。
なら、あの力強くも美しい、忌々しくてたまらない崖を崩してくれよ。
日差しを遮るあの青々とした木をすべて燃やしてくれよ。
陽を浴びない僕らは、いつだって病弱なんだ」
――でもそれでいい。それがいい。
「無茶を言うな」と告げると、
男は皺くちゃな笑顔で去っていった。
すれ違う人々は皆、一瞥して背を向ける。
見透かした目をして去っていく。
「ほら、私たちを救うことはできないんだろう?
なら、さっさと行っちまえ。
言葉なんていらない。
お前の心配なんて、明日の飯にもならない」
同情を求める愚者に、明かりはいらない。
◆ 風の町
陽の昇らない町の隣は、絶えず風が吹く町だった。
「なに? なんだって? 聞こえない!
風が強くて、聞こえない!」
風のせいで声は届かない。
風がなければ、聞こえるだろうに。
この町の住人は耳を塞ぐ。
冷たい風から耳を守るため。
心を轟音から守るため。
“聞こえない”と、盲信する。
向かい風に、立ち向かう。
「ここは渓谷だ。引き返せ」と言ったって。
「この先は航海が待っている」と言ったって。
忠告なんて聞こえないと、
聞きたくないと、今日も言い訳を重ねている。
ああ…また、話ができなかった。




