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はじめに|愚者の町、旅の記録より
旅をしていたのか、彷徨っていたのか。
はっきりとは思い出せない。
あるのは、ただ、いくつかの記憶と、
曖昧な感情の輪郭だけ。
これは “町” の記録。
記された道もなければ、確かな名もない、
地図にも載っていない町の記録。
私が出会ったのは、
雨が止まない町
陽の昇らない町
風が吹く町
そして、
霧の町
時計塔の町
影の町
どこも人がいた。
誰もが語らず、あるいは語りすぎていた。
町は愚かだった。
でもそれは、彼らだけのことではないようにも思えた。
あなたがこれを読むのなら、
どうかこの町の住人を、ほんの一時だけ、
そっと心の隅に置いてほしい。