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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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外の世界

 他愛のない会話をしながらゲートに向かって車を走らせていると、いよいよ外界への扉が近づいてきた。車列の先には迷彩服を着て自動小銃を構えた自衛隊員らが立ち、高速道路の料金所のような小さな検問所で鉄の扉の開閉を人力で行っている。


 健太郎はもちろん昨日の内に電子申請を済ませており、あとは申請内容と齟齬がないかを確認し合い、ゲートをくぐるだけであった。


 前の車が検問所を通り、次はお前たちの番だと手招きされる。車をゆっくりと前進させ、健太郎は窓を下ろした。


「運転手の方は免許証と資格者証、もしくは通行許可証。同乗者の方も同じく通行許可証のご提示をお願いします」


「はい。お願いします」


 2人は指示された通り、提示する。自衛官はタブレットでそれぞれのライセンスを読み込み始めた。他の自衛官たちは車体の下を鏡を使って確認している。


「今回の目的は……駆逐許可及び保護対象外危険生物の駆除ですね……。回収も……ご自身でなされるんですね」


「はい。これがその登録者証です」


 健太郎は2枚目のカードを差し出す。そこには『危険物回収処理業従事者登録証』とある。


 壁外にハンターや今回駆除予定の堕ち人の死体や武器をそのままにしておくと、ならず者や堕ち人たちの餌となってしまう。


 その為、発見次第回収業者に通報義務が課せられているのだが、回収業者がその場に来るまで留まらなくてはならず、大変危険を伴う。両親共にそういった物の破壊から回収までを行うにはちょうどいい能力を持っていた為、2人で会社を立ち上げ、自分たちで駆除から回収までを行っているのである。健太郎も両親の会社を通し、その能力があると国に登録されているのであった。


「それでは最後にチップのある方の手を出してください」


 自衛官はタブレットを差し出す。2人は左手でそれぞれ、手の平を画面に押し付ける。


「はい、確認が取れました。それではこちらにサインを」


 そう言って、自衛官はタブレットとペンを健太郎に手渡す。それにさらさらと自分の名前を綺麗に書いた。


「ありがとうございます。では、お気をつけて」


 そう言って自衛官は合図を出し、扉が開け放たれる。


「オシッ!! それじゃあ、行くぞ?」


「うん。行こう――」


 こうして2人は検問所を通過し、その先の鉄の扉を潜り抜けた。




 門を抜けると、そこは土手と河川敷が続いている。見晴らしも良く、異変があればすぐに気付くことができるだろう。しかし、川を超えた辺りから世界は大きく一変する。


 天災と人災の猛威を前に敗れた文明の亡骸が今もそのまま放置され、まるで巨大な鬼が暴れ回った後のようだ。潰れた家々の土饅頭が所狭しと並び、ここが元は民家が立ち並ぶ住宅街であったことを思い出させる光景が左右から飛び込んでくる。


「…………」


 少し奥に目を向ければ住宅の瓦礫でできた山があり、整備しようとした跡が見えた。しかし大半は背の高い雑草が多い茂る、死の臭いが充満した世界だ。


「大丈夫か? 八重」


「え? ああ、うん。大丈夫だよ」


 外の世界に飲み込まれたのか、彼女の白く透き通る肌が僅かに青白くなっている。


「じゃ、さっさと母さんのところに行こーぜ。あんまり待たせるとまーた怒られる」


「そうだね。早く行こう」


 ふふふっと、八重は軽く微笑んだ。それを見て健太郎はホッとする。2人は香織を探しに車を走らせた。目指すは川の向こう側。死の国だ。




 香織は1人、荒れた大地を歩いていた。出で立ちは昨日と同じく羽織に袴、タクティカルブーツ。髪は一つに結んで後ろで束ねている。何もしなければ自然と漏れ出る気を完全に抑えている為、誰にも気付かれることなく賞金首に堕ち人らと、その首をどんどんと跳ね飛ばしていき、ちょうど10体目の亡骸をその影の中に片付けていると、2人の弟子の気を察知する。


「…………」


 時計を見ると、いつの間にかもう11時を回っていた。


 さすがにお腹が空いてきたな……。


 2人の初任務は昼食を終えてからにしよう。そう考え、少し遠くまで来すぎたと、息子らを迎えに行く為、香織は音もなくその場から消えるのであった。




 見晴らしのいい場所に車を止め、車内で2人は母親の気を探っている。


「駄目だ。解んね」


 完全に気配を消している母親を見つけ出すなど、今の2人には不可能だ。


「そうだね。全然解んない」


 八重もお手上げといった様子を見せる。


 仕事中は相手に気づかれたら困ると、携帯を影の中に仕舞っている為、連絡の取りようもない。


「ま、ここで待ってりゃそのうち来るだろ」


 もうそれしか探す方法がないと、2人は早々に諦めた。その時である。


 誰か来る……!!


 母親ではない誰かが左前方からこちら側に向かって猛スピードで近づいてきた。


 2人は顔を見合わせ頷くと、気配を消し、運転席側からゆっくりと車外へと避難する。


 スピードからして車か――。……賞金首か?


 同業者の可能性も考慮しなくてはならない。しゃがみ、車体に隠れる2人は目を閉じると、あちら側に意識を集中させた。


「…………」

 

 目を瞑れば描かれる、ゆらゆらと全身から立ち上る気の揺らぎ。


 車が1台……。バイクが……3台。性別は……男か? 数は全部で6人か……。

 

 気を探るだけでは能力者の有無は判断できない。もちろん、同業者かもかだ。


 銃は持っているんだろうな……。


 健太郎は目を開け、八重の左肩を叩き、意識をこちらに向けさせる。


 俺が行く。


 宙で右手を水平に下げ、それから親指で自分を指し示した。その動作に八重はこくんと頷く。


 よしッ……。


 2人は互いに背中を合わせ、八重は刀の鍔に指を掛け、健太郎は右手で地面に触れる。


 まだ少し遠いな……。


 もう少し近づいて来ないかと思っていると、車とバイクが停止し、中から人が降りてきた。その手の動きから自動小銃を構えているようである。車に乗っていた3人の中で一番最後に車から降りてきた人物が、この一団のリーダーだと健太郎は推察した。


 最初に頭を潰したいけど、そうもいかねぇよなぁ……。


 健太郎は頭の中で戦闘シミュレーションを行い、敵を仕留める算段を付ける。


 後はどのタイミングで仕掛けるか……。


 健太郎は気の揺らめきから飛び出す最適な瞬間を静かに待つ。


 そうだ!!


 健太郎は閃き、白い粘土で何かを作り始め、そして――。


 行けッ!!


 放ったそれは丸い目が愛くるしい白い猫である。その瞬間、近付いてきた3人の男たちは笑い、刺々しい気配が急に和らいだ。


 今だッ!!


 健太郎は男たちの足元から白い粘土を一気に伸ばす。


「!!」


 男たちは、さぞ驚いたことだろう。突然体を拘束されてしまったのだから。


 なんなんだッ!!


 リーダー格の男と彼を守る後続の3人は銃を構える。しかし、引き金に指を掛けると同時に健太郎が男たちの目の前に現れ、白い粘土でその身を覆われてしまった。


「ふぅ……」


「クソッ!! 離せ!!」


「ぶち殺してやる!!」


 動くことすらできない男たちは、ぎゃあぎゃあと口汚い言葉を雛鳥のように上げ始め、健太郎を睨み付ける。余りにも聞くに堪えない騒がしさに顔に入れ墨のあるリーダー格の男を残し、他を全て包み込んで小さくしてしまった。


「能力者か……」


 そう言って男は口を閉じる。その反応に健太郎は同業者ではないように思いつつも念の為、ライセンスを提示した。


「同業者ですか」


 その瞬間、男は唾を吐きかけようとしたものの、健太郎の粘土に阻まれ、丸め込まれてしまった。


 やっぱり違ったか……。


 男も1円玉程度の大きさに縮め、薄く伸ばし、腕に貼り付けていく。


「健太郎!!」


 八重に声を掛けられ見ると、男らが乗って来た車を探っていた。


「なんか見つかった?」


 近づき、車内を覗き込むと、トランクに白い粉の塊が大量に詰め込まれている。


「運んでる途中だったのかな?」


 アジトなのか取引相手なのかは男たちが口を割らない限り分かりようがない。


「だろうね。これからどうする?」


「そうだな……。まあ取り敢えず、母さん待つか」


「うん。そうしようか」


 健太郎は車も丸ごと飲み込み、縮めると、2人はぼんやり香織の到着を待った。

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