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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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報告会

「一晩一緒に過ごして、何もなかったあッ!!」


「う……うん…………」

 

 脱獄囚も全て捕まり、解散となったその夜、八重は梓の家を訪ねていた。理由はもちろん、健太郎の件についてだ。


「嘘つくなよぉ!! 信じねぇぞおぉ!! 清純ぶりやがってぇ……。この口かぁ!! この口が悪いんかあぁ!! ああぁんっ!!」


「や……止めてよー……」


 梓は左隣の八重の頬を両手で挟み、押して、唇を上下に伸ばす。その言葉に怒りの表情は微塵もなく、むしろ嬉しそうですらある。彼女がふざけていることはすぐに分かった。


「まったく…………。まあ、軽率な行動をしなかったことは褒めて上げましょう」


 八重と向き合い腕を組み、彼女はうんうんと頷く。


「あ、ありがとうございます……」


 八重は頭に疑問符を浮かべながらもお礼の言葉を口にした。


「それで、健くんには気持ちを伝えるんだよね?」


 梓は確認するように尋ねてくる。


「…………」


 それに八重は気まずそうに口を閉じ、その視線を逸らした。


「え!? 伝えないの!? なんで!?」


 好き好きと当たり前のように好意を全面に押し出す梓は当然、驚く。


「だって、しょうがないじゃん……。家族なんだもん……」


 怖いよ……。口からは出ない、後に続く言葉を梓は耳にした。近過ぎるが故、場合によっては藤村家との関係性が崩壊しかねない問題なのだ。健太郎も同じ気持ちでなかったら……。そう考えると内に抱えていた方がまだマシと思えるほどの生い立ちであることを梓は思い出す。


 それでも……!!


 彼女には自信があった。大好きな2人を1番近くで見ていたが故に、共に過ごし、見守って貰えたが故に答えられる答えがあるということを。


「伝えなくちゃ駄目だよ!! だって健くん。やっちゃんのこと、絶対好きだもん!!」


 その目は輝いていた。自ら光を放っていた。それが紛うことなき真実であると告げていた。確かめた訳ではない。だが、神の目。御仏の声のように八重の心には突き刺さる。放たれた矢は確実にその心を射抜いていた。もう彼女に否定の言葉を述べることはできない。


「…………」


 沈黙——。それが彼女の答えであった。言うべき言葉が見つからないのである。


「——言っちゃいなよ」


 梓は優しく、その小さな背中を押すことしかできない。最後の一歩を踏み出すかどうかは、八重が決めることであるのだから。


「あずちゃんはどうするの? 私と健太郎が付き合って嫌じゃないの? あずちゃんだって好きでしょ? それに健太郎と付き合うってことはもう結婚するってことだよ? それでいいの?」


 結婚。人生を共にするということ。八重はこの部分が上手く想像できない。それほどまでに家族であり、彼女にとっては失う怖さを秘めているものでもあった。それに自分よりも先に健太郎に好意を告げている梓の思いを無視することはできない。結婚したいと言っていたのは梓の方である。


「私? 私は別に2人の愛人枠でいいよ」


 あっさり彼女は籍を入れなくてもいいと口にした。


「——え、ごめん。ちょっと待って……。——愛人枠って、何?」


 しかも2人の?


 なぜ自分も含まれているのか。あまりにも耳馴染みのない単語すぎて思わず聞き返してしまう。


「だから、愛人枠だよ。愛人枠。別に籍は入れずにやっちゃんとも健くんとも淫らな関係でいれればそれでいいっていうこと」


 解った? と彼女は問い掛けてくるが、脳が理解を拒絶する。


「え、うん。解った……。解ったけど、ちょっと待って? 健太郎とは解るけど、なんで私まで?」


 私と、淫らな関係!?


 友達としか思っていなかった八重は混乱をし始めた。


 本気!? 冗談!? いつからそう思ってたの!?


 様々な疑問が脳内を駆け巡る。


「え? だってやっちゃんのこと好きだから」


 何を当たり前のことを。彼女は堂々としていた。


「その好きっていうのは、性的にってこと……?」


 八重の疑問に梓はキッパリと答える。


「うん、そうだね。性的にだね」


「…………」


「…………」


 2人の間に静寂が割り込む。八重の脳内には宇宙が広がっていた。


 性的……? 性的かぁ……。性的なんだぁ……。


 どう答えればいいのか。梓はもちろんのこと、告白自体も初めて出会った。


「あ……ありがとう……」


 とりあえず感謝の意を述べてみる。好きという感情を取り戻したばかりの彼女にとって、これが限界であった。


「……それで、やっちゃん。どうなの? 答えは……?」


「え……?」


 梓の瞳の奥に潜む淫靡な気配。立ち込める甘い香り。唇。首。手を伸ばせば届く距離にある大きく露出した白い柔肌。外れない視線。外さない視線。床を這う彼女の左手が八重の足にゆっくりと触れる。八重の体がピクリと動いた。


 え、どうしよ……。


 固まる八重の太ももを梓は指先でなぞり、ゆっくりと上下に動かし、反応を確かめる。ズボン越しだというのに妙な気持ちよさがそこにはあった。拒絶しない八重に梓が体を寄せてくる。互いの肩が触れ合った。


「…………」


「…………」


 絡み合う視線。温かな吐息。戸惑う八重を前に梓は嬉しそうに頬を緩めた。


 可愛い…………。


「やっちゃん…………」


 梓は心の内を測るように顔を八重の方へと近づけていく。


 だ……ダメッ…………!!


 ようやく八重は身を固め、ささやかな抵抗を彼女に示した。


「…………」


 それに構わず梓は顔を近づけていき――——、


「ふっ」


「ひゃっ!!」


 左耳に息を吹き掛ける。


 可愛らしい悲鳴に笑う梓と頬を染め、眉を吊り上げる八重。そして、2人の笑い声が木霊した。

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