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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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17/24

父と息子

 夕食後、父に呼ばれた健太郎は部屋を訪ねる。


「おーい。来たよー」


 すると中から返事があった。


「おー。まー入れよ」


 なんの話だろ?


 この部屋に入るのも健太郎は久し振りだ。同じ家に住んでいるというのになぜそんなことが起こるのか。特に用事がなくなったからと言えばそうなのだが、なんだか妙な可笑しさを感じる。


 そんなことを思いながら銀色のドアノブへと手を掛けた。


「…………」 


 父の部屋は彼の幼い時の記憶のまま、時を止めている。おもちゃに漫画、ゲームと母と違って物が多い。そのせいで広さは同じ筈なのに妙な圧迫感を感じていた。


 健太郎はこの部屋を見て思う。よく母さんと結婚出来たなと。


 2人の馴れ初めなど興味を持ったことも聞いたこともなかったが、やはり不思議には思う。乱雑に扱われている形跡はない為、物を大切に扱える。整理整頓ができるという点では評価されたのかな等と考えてしまう。


 ま、どうでもいいけど。


 両親の結婚に至る経緯など知りたくもないと健太郎は切り捨てる。


 彼はドアを閉め、振り返った父と対面した。


「まあ、座れよ」


 自分よりも少し年上にしか見えない見た目の父に促されるもベッドに腰掛けるのも地べたに座って父を見上げるのも嫌だった彼は粘土で小さな背もたれの付いた丸椅子を作り、出入口を背に父と向き合う形を取った。


「…………」


 なんだか落ち着かない。怒られた記憶がない訳ではないが、こうして2人きりという状況が久し振り過ぎるせいか、狭い部屋で自分の間合いに人がいる状況のせいなのかは判らないが、そわそわとして仕方がない。もし後者であるとするならば連日の戦いの影響だろう。


 ナインヘッドとの一件が片付いたら1か月ほど休みを貰おう。そう思うよりも先に和人が口を開いた。


「相変わらず、便利な能力だな」


 その素直な感想に健太郎はまたかと思いながらも同じく素直に答えを返す。


「ああ。お気に入りの能力だよ」


 そう言って彼は腕を組む。


 いよいよか?


 彼の警戒心が解りやすく体に現れる。


「そっか。そいつは良かった」


 父も同じように腕を組む。意図したミラーリングではなく、彼もまたどう切り出すべきか考えているのである。


「ホントだよ」


 そう答えるしかない答えを健太郎は口にした。


「……まあ、話っていうのは八重のことだよ」


「ん? 八重? 八重がどうかしたの?」


 別にいつも通りだったけど……。健太郎は首を傾げ、今日の彼女を思い返す。


「いや、なんとなくなんだけどさ。なんかあったんじゃないかと思って」


「なんかって何よ」


 その言葉にああ、そういえばと思い出す。だが、父親に幼馴染と風呂場で抱き合っているところを見られましたなんて言える筈もなく、ここは白を切り通すことにした。


 父さんもただの勘で、八重から直接話を聞いたって訳じゃなさそうだし……。


 こうなって来ると不思議なもので、余裕が現れた結果、健太郎は組んでいた腕をするりと解く。


「なんかはなんかだよ。なんか元気ないなーと思って」


「んー……。あーまー確かに。なんかそう言われると、なんかそんな気がしてきたな」


 後頭部に手をやり、思い出すような仕草をする。


「だろ? ホントはさ、直接聞けりゃあいいんだけど。まあ最近、いやちょっと前からかな。なんかこう、壁を作られてるっていうか距離を感じてさ。なんか声を掛けづらいんだよね。こうやって話すのも嫌なのかなって思って中々できないんだよ」


「あーなるほどね」


 勝った。


 父と闘っていた訳ではないが、健太郎は自身の勝利を確信した。


 父は何も知らない。ということは、八重は母にもあのことを話していないという訳である。


 父はまだしも母に知られることだけはなんとしてでも避けたかった健太郎はこの会話の主導権を完全に掌握しようと父に寄り添い、共感することで完全に信用させようと動き出す。


「まあ八重も大人とはいえ、まだ思春期だし。なんかまあ色々と、悩む年頃なんじゃない? 知らねーけど」


 あくまで自分は何も知らないといったスタンスを貫き通す。嘘が上手いと自分でも感心する。


「なんも聞いてないか?」


 俺よりは話しやすいだろう。そんな問いに健太郎はもちろん即座に否定する。


「いや。何も」


 知らないと首を振った。


「そっか。まあなんか分かったら教えてくれや。親としちゃあ心配なんでね」


「ああ、解ったよ。それとなく聞いてみるよ」


 オシッ!! 終わったー。


 やれやれと立ち上がろうとしたところ、父は健太郎を呼び止める。


「ああ、それと」


「おお、何?」


「最近、なんか梓ちゃんと仲いいみたいじゃねーか。付き合い始めたのか?」


 その問いにまさか!! と健太郎は否定した。


「別に。ただの友達だよ。仲いーのは前からだろ? 何も変わっちゃあいないよ」


「そっか。悪かったな、へんなこと聞いて」


「別にいいよ、んなこと。ま、何かあったらまた言うよ」


「ああ、頼むよ」


 そう言って話は終わり、健太郎は部屋を出る。


 ふうと溜息をつき、自室に戻ろうとしたところ、廊下で香織とばったり出くわす。


「話は終わった?」


 ん?


 その言い方に引っかかりを覚えはしたが、ここは敢えてスルーする。


「ああ、終わったよ」


「どんな話だったの?」


 やけに食いついて来るな。


 勘繰り過ぎか? と思いつつもありのままを手短に話した。


「八重がなんか悩んでるんじゃないかって。聞きにくいから聞いてくれーって言ってたよ」


「そう。で、なんか聞いてる?」


「いや、何も」


 さあ? と肩を竦めて見せる。


「…………」


 すると、香織は何事かを考え始めた。


「どうかした?」


 何か知ってるって訳じゃなさそうなんだけどな……。


 内心、少しばかり焦りながらも健太郎は尋ねてみる。


「いや。健太郎にも話してないのかと思って……」


 なんだ、ただの心配か。


 良かったと警戒心を緩め、健太郎は父と同じ答えを母にも告げた。


「あーまあね。ま、父さんにも言ったけど、何か分かったらまた母さんにも伝えるよ」


「そうしてくれると助かる」


「はーい」


 そう返事をし、母とも別れ、ようやく自室へと辿り着く。


「ふぅ……」


 愛されてんねーうちの妹は。


 少しばかり羨ましいと思う健太郎であった。

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