表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/100

15話「裏切りと真実」

 新たな決意と仲間の誓いが満ちた翌朝。

 グランツ砦の空気は、これまでにないほど一体感に包まれていた。


 夜明けとともに中庭では兵士たちが笑い合い、書庫ではユーリとリリィが新しい魔道具の検証に夢中になっていた。

 フィンは訓練場で後輩兵士に剣術を教え、皆が少しずつ自信を取り戻していた。


 だがその平和は、ある“報告”によってあっけなく破られることとなる。


 


* * *


 


 昼前、作戦室に緊迫した空気が流れた。


「カイラス司令官! ……物資庫の管理記録が改ざんされています!」


 報告に駆け込んだ兵士の手は震えていた。


「しかも、昨夜から今朝にかけて、外部と連絡を取った形跡が――」


 


 作戦室の空気が凍る。

 砦の機密が何者かによって外部へ漏らされた……その事実は、砦の安全だけでなく、これまで築き上げてきた信頼さえも揺るがしかねない。


 


「内部に裏切り者がいる、ということか……」


 カイラスは静かに全員に目を走らせる。


「この砦にいる誰もが容疑者となる。だが、冤罪も絶対に生まれてはならない。慎重に調査する」


 


 私――ノクティア・エルヴァーンは、仲間の不安そうな顔を見つめながら強く思った。


(私たちは、ただ“敵”と戦っているだけじゃない。

 本当に大切なのは、仲間同士の信頼なんだ)


 


 私は、これまで王都で学び、実験室で磨いてきた“真実を見抜く古代魔術”――《真視のトゥルーサイト》の術式を思い出す。


 もはや、力を隠す理由はない。砦のため、そして仲間たちのために――


 


* * *


 


 その日の午後、カイラス司令官の指示で、砦内の関係者全員が食堂に集められた。


「ここにいる全員に話がある」


 カイラスは穏やかながらも揺るぎない声で告げた。


「昨夜、砦の機密が何者かによって外部に漏れた。

 これを看過することはできない。しかし、冤罪を避けるため、魔道的な“真偽判定”も交えて調査を行う」


 


 仲間たちがざわめき、誰もが不安そうに互いを見やる。


 


 私は皆の前に立ち、深く一礼した。


「私ノクティアが、“真実を見抜く魔術”を用いて、必ず真犯人を明らかにします。

 ただし、心にやましいことがなければ何も害はありません。どうか、協力してください」


 


 少し間が空き、ユーリが真っ直ぐに手を挙げる。


「僕は構わない。ノクティアさんの魔術なら、きっと間違いはないはずだ!」


 


 リリィも不安げに、それでも力強くうなずく。


「私も……何も隠してないから、大丈夫です!」


 


 他の兵士たちも、次第に覚悟を決めて席についた。


 


* * *


 


 私は魔道具で場を清め、魔力を静かに集中させる。


「《真視のトゥルーサイト》――開示」


 


 淡い光が私の瞳を包み、

 空間に満ちる“感情の揺らぎ”や“偽りの気配”が、微かな色彩や波紋となって視界に現れる。


 私は一人一人に目を向け、静かに語りかけた。


「名前と所属、昨日から今朝までの行動を順番に教えてください」


 


 皆が緊張しながらも順に報告していく。


 ユーリ、リリィ、フィン、カイラス――

 どの波動にも偽りはなく、誠実な色彩が広がっていた。


 


 しかし、列の後ろ――補給班の下級兵士、ヴァルドという若者の番になった時だった。


 


「……昨日の夜は物資庫で在庫確認をして、その後、持ち場の見回りを……」


 


 その瞬間、私の視界に“黒い霧”のような波紋が広がった。


 


(この感触――明らかに“嘘”だ)


 


 私は静かに口を開く。


「ヴァルドさん、あなたの魔道石に残る魔力痕を確認させてください」


 


 彼は一瞬怯え、しかし強がるように胸のポケットから小さな石を差し出した。


 


 私は石に魔力を流し込み、“記憶の波”を読み取る。


 ――夜闇に紛れ、誰もいない物資庫で何かを探る姿。

 そして、小さな鳥型の伝書魔道具に、何かの書付を託す彼の姿――


 


「……やはり」


 


 私は冷静に皆に告げた。


「裏切り者は、ヴァルドさんです。彼は敵と内通し、砦の機密を伝書魔道具で外部へ流していました」


 


 兵士たちがどよめき、ヴァルドは慌てて立ち上がった。


「違う! 俺は……俺は家族を人質に取られて……!」


 


 その叫びに、一瞬みんなの間に複雑な沈黙が落ちる。


 


「たしかに、お前は脅されていたのかもしれない。しかし、砦を裏切った事実は変わらない。

 この場で償いを受け、今後は正しい道を歩むしかない」


 カイラス司令官の静かな声が響いた。


 


 私はヴァルドの肩に手を置き、そっと目を合わせた。


「誰もが弱さを持っている。……でも、ここからやり直すことはできる。

 砦のみんなで、あなたの家族も守る方法を考えるから、一人で背負い込まないで」


 


 ヴァルドの瞳に、悔しさと安堵が入り混じった涙が滲んだ。


 


* * *


 


 事件の一部始終を見届けた仲間たちは、

 「誰かを疑う」のではなく、「誰かを支え合う」ためにさらに団結した。


 


「裏切りは許せない。でも、誰も見捨てたりはしない。俺たちは仲間だ!」


「これからは、もっとお互いを信じよう!」


 


 ユーリもリリィも、フィンも、そして他の兵士たちも――

 一人の過ちを“孤立”ではなく、“再生”のきっかけに変えようと心を一つにした。


 


 私は、そんな仲間たちの輪の中に静かに立ち、

 砦が“本当の意味で強くなる”瞬間を、胸の奥でしっかりと噛みしめていた。


 


 日が暮れかける砦の空。

 どこか新しい温かさが、皆の心に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ