14話「砦の決断、仲間の誓い」
因縁の激突から一夜が明けた。
グランツ砦の空には静けさが戻り、薄紅色の朝日が石壁にやさしく差し込んでいた。
だが、その静けさの裏側には、長い激戦の余韻と、新たな決意が息づいていた。
前夜の戦いでリュゼル王子は敗北し、敵軍は砦から撤退した。
王都の威信とプライドを背負ってここに現れた彼は、ノクティアの前に膝をつき、仲間の力と“絆”の強さに圧倒された――
しかし、それだけでは終わらなかった。
* * *
夜明けとともに、砦内では重大な会議が開かれていた。
カイラス司令官のもと、兵士、補佐、そして戦いを支えた全員が作戦室に集う。
リュゼル王子はすでに監禁され、砦の一室で身柄を拘束されている。
カイラスが静かに切り出した。
「昨夜の戦い――我々は多くの犠牲を出したが、守り切ることができた。
その陰には、ノクティア・エルヴァーンをはじめとする仲間たちの奮闘があった」
兵士たちは頷き、ユーリやリリィ、フィンも誇らしげに胸を張る。
「ノクティアさんがいなければ、正門も障壁もとっくに破られていました!」
「南門の防衛も、魔導障壁の修復も、みんなノクティアさんの力で……」
私は小さく頭を下げながらも、心の奥でほんの少しの誇らしさと、まだ拭いきれない緊張を抱えていた。
カイラスは私をまっすぐ見つめる。
「ノクティア、お前にはずっと“何か隠している力”があると感じていた。だが、それを理由に疑ったことはない。
昨夜のお前の戦いぶりは、もはや偶然や“閃き”で片付けられるものではないだろう?」
私は一瞬、躊躇したが、静かに頷いた。
「はい……。私は王都では“無能”と蔑まれましたが、本当は魔力計では測れない古代魔術の力を持っています。
それを隠し続けてきました。でも、もう砦のみんなを守るために、その一部を――使わせてもらいました」
会議室が一瞬だけざわつく。
「ノクティアさんが……?」
「やっぱり、ただの補佐じゃなかったんだ……」
私はまっすぐ顔を上げ、仲間たちに向き直る。
「私はこの砦で、たくさんの人に助けられました。だから、これからは自分の力を“皆のため”に使いたい。
もし、それでも私を仲間として認めてくれるなら――」
その時、ユーリがいち早く立ち上がった。
「認めないわけがないだろ! ノクティアさんがいなければ、僕たちは今ここにいなかった」
リリィも続く。
「ノクティアさんは、わたしの憧れです。どんな力を持っていても、一番大切なのは“気持ち”です!」
フィンも真っ直ぐな瞳で言う。
「ぼくは、ノクティアさんに何度も救われた。これからは、みんなで一緒に戦いたい」
他の兵士たちも一人、また一人と声を上げる。
「無能なんて誰が言ったんだ、冗談じゃねえ」
「仲間だよ、俺たちは!」
会議室が温かな熱気に包まれていく。
カイラスは静かにうなずき、私に歩み寄る。
「ノクティア。これからは、お前をグランツ砦の正式な“戦力”として信頼する。
力を隠す必要はもうない。砦の未来のため、共に歩んでくれ」
私は胸の奥が熱くなり、自然と涙がこぼれた。
「ありがとうございます……! 私も、これからは砦のために全力で戦います!」
* * *
会議が終わると、私は静かにリュゼル王子のいる一室を訪れた。
窓の外には朝日が差し込み、リュゼルは虚ろな目でその光を見つめていた。
「……ノクティアか」
「リュゼル殿下。あなたの陰謀はすべて暴かれました。
ここでの戦いが、王都の正義ではなく、あなた個人の野心だったことも――」
リュゼルは静かにうつむく。
「俺は……ずっと間違っていたのかもしれない。
力に執着しすぎて、大切なものを見失った……」
私は、彼の悔しさも哀しさも知っている。
「でも、これからやり直せます。あなたの過去を責めるつもりはありません。
人は、何度だって変われるから」
リュゼルはぼんやりと私を見つめ、かすかに微笑んだ。
「……もし、もう一度やり直せるなら。俺も、誰かと歩みたい」
「ええ。どうか、あなたにも新しい未来がありますように」
私はリュゼルの部屋を後にし、砦の廊下を歩く。
どこか心が軽くなった気がした。
* * *
夕暮れ。砦の中庭には、仲間たちが集まっていた。
「これからも、みんなで砦を守ろう!」
ユーリが声を上げると、リリィやフィン、兵士たちが次々と誓いの言葉を口にする。
「ノクティアさん、これからも一緒に!」
「もちろんよ。みんなで、もっと強い砦を作っていきましょう」
私は心からの笑顔で答えた。
空には赤く美しい夕陽が沈み、砦の石壁が淡い黄金色に染まっていた。
多くの困難と痛みを乗り越えて――
私たちは、真の仲間として、これからも共に歩むことを誓った。