表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/100

13話「因縁の激突」

 リュゼル王子率いる敵軍が撤退した翌日、グランツ砦には不穏な空気が残っていた。

 夜明けとともに、見張り塔の鐘がふたたびけたたましく鳴り響く。


 


「敵軍、再び進軍! 今度は本格的な包囲です!」


 兵士の声が響き、砦内は一気に緊張に包まれる。

 私はすぐに軍装を整え、作戦室に駆け込んだ。


 


「カイラス司令官!」


「全員配置につけ! 東と南の門に敵主力が展開している。魔術師班、障壁維持を最優先だ!」


 カイラスの声が低く鋭く響く。

 リュゼルの軍は昨日よりさらに規模を増し、重装歩兵に加え、魔術師団や精鋭騎兵まで動員していた。


 


 ――全面戦争が始まった。


 


* * *


 


 敵軍の攻撃は苛烈を極めた。

 火矢が空を覆い、魔術師団が雷撃や衝撃波を繰り出す。

 砦の外壁には幾度も激しい衝撃が走り、兵士たちは必死に防戦した。


 


「ノクティアさん、南門の障壁が破られそうです!」


 リリィが駆け寄り、息を弾ませる。


「ユーリ、フィン、負傷者の搬送と補給を! リリィは魔力補助をお願い!」


 


 私は魔導障壁の制御室へ駆け込み、回路の乱れを古代魔術で修復する。


 


「《循環再生――リジェネ・サイクル》!」


 


 私の手から紡がれる青白い魔力の流れが、障壁のヒビを素早く補修し、再び光の壁を砦全体に張り巡らせる。

 魔核が脈動し、防御結界が再び高まった。


 


「障壁、復活! 敵の衝撃波も防げます!」


 リリィの声が高らかに響き、兵士たちの士気もわずかに回復する。


 


 だが、敵軍の勢いは止まらない。

 リュゼルの号令で魔術師団が砦の東壁へ集中攻撃を始める。


 


「これほどの魔力……王都の上級魔術師がそろっているのか……」


 私は砦の各所に設置した補助魔道具を次々に起動し、魔力の循環を増幅させていく。


 


「《複写陣展開デュプリケイト・サークル》」


 


 魔道具が光を放ち、敵の攻撃魔法を分散・減衰させていく。


 


「ノクティアさん、すごい……!」


 ユーリが呆然とつぶやいた。


 


「大丈夫、絶対に守り切るから!」


 私は仲間たちと声を掛け合いながら、砦のあちこちを奔走した。


 


* * *


 


 激戦は日が傾くまで続いた。


 ついに、砦の正門が破られ、敵兵が雪崩れ込んでくる。


 


「敵兵、城内侵入! 全員迎撃に移れ!」


 


 私は剣を抜き、リリィとユーリ、フィンと共に砦の中央広場へ急行した。

 傷ついた兵士たちの中に混じりながら、私は古代魔術で敵兵の武器を無力化し、足止めを繰り返す。


 


「これ以上、好きにはさせない――!」


 


 その時、広場の中央にリュゼル王子が現れた。


 


「ノクティア! これが貴様の“居場所”か!」


 


 リュゼルは高らかに叫び、兵士たちの前に立ちはだかる。


 


「かつての無能令嬢が、辺境の砦で英雄気取りとは――笑わせるな!」


 その瞳には、かつて王都で私に浴びせた侮蔑の色がありありと宿っていた。


 


 私は静かに、だが毅然と彼を見返す。


「英雄気取りなんてしていません。私はただ、仲間とこの場所を守りたいだけ。

 あなたのように、力や名声のために戦っているわけじゃない」


 


「戯言を!」


 


 リュゼルは剣を抜き、私に向かって突進してきた。


 私は即座に魔道具で防壁を展開し、リュゼルの一撃を受け止める。


 


「まだそんな奇術に頼るのか。やはり“無能”は変わらんな!」


 


 私は息を整え、静かに古代語を唱えた。


 


「《重力結界――グラヴィティ・フィールド》!」


 


 足元に陣が浮かび、リュゼルの身体が一瞬沈み込む。


「なっ――!?」


 


 私はさらに詠唱を重ね、光の鎖を空中に編み出した。


「《光縛の鎖――リュミエール・チェイン》!」


 


 リュゼルの剣が空中で弾かれ、彼はバランスを崩す。


 


「これが、あなたの知らない“私の力”です」


 


 私は一歩踏み出し、リュゼルの真正面に立った。


 


「あなたはずっと“人を信じること”も、“誰かに頼ること”もできなかった。

 だから仲間を見下し、己の力だけを信じた。

 でも、私は違う。ここで多くの人と支え合ってきたから、今の私がいるんです!」


 


 リュゼルは悔しげに歯を食いしばる。


「そんな……認めない、俺は……!」


 


「もう、あなたの“王都”にも、“過去”にも縛られません。

 私はここで、仲間と生きていく。あなたがどれだけ否定しようと、私の歩みは止めません!」


 


 兵士たちの間から、拍手と歓声がわき起こる。


「ノクティアさん!」「よく言った!」


 


 リュゼルは剣を拾い、最後の力で私に斬りかかろうとしたが、私は手のひらをかざして静かに言った。


「もうやめて。これ以上、誰も傷つけたくない」


 


 リュゼルの動きがふっと止まる。


 


 彼はしばし呆然と立ち尽くし、やがて力なくその場に膝をついた。


 


「俺は……何をやってきたんだ……」


 


 私はそっとリュゼルの肩に手を置いた。


「あなたも、きっと変われるわ。過去にとらわれず、誰かと歩むことだってできる」


 


 その言葉に、リュゼルは静かに涙をこぼした。


 


 敵軍はリュゼルの敗北と動揺を受けて撤退し、グランツ砦にはついに平和が戻った。


 


* * *


 


 夕焼けの砦で、兵士たちや仲間が私のもとに駆け寄る。


「ノクティアさん、本当にすごかった!」

「あなたがいたから、みんな守れた!」


 リリィやユーリ、フィンも満面の笑みで私を抱きしめる。


 


(これが、本当の“居場所”――)


 


 私は温かな涙を拭い、砦の空を見上げた。


 もう、誰にも自分の価値を否定させはしない。

 仲間とともに歩む道を、胸を張って進んでいこうと心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ