11話「謎の古代遺跡」
初夏の朝、グランツ砦の見張り塔に緊張が走った。
「司令官! 南の丘で“何か”が地面から突き出ているのを発見しました!」
見張りの兵士が息を切らし、作戦室に飛び込んできた。
「何か……?」
カイラス司令官は地図を開きながら眉をひそめる。
「この近辺は何度も見回りをしていたはずだが」
「はい、今朝の雨で土砂が流れて……埋まっていた石壁が露出したんです。よく見ると、変な模様や古い文字が……」
私の胸が高鳴る。
古代文字――それは、王都の魔術師たちさえ簡単に扱えない、伝説の知識だ。
「現地を調査しましょう。私も同行します」
こうして、私はユーリ、リリィ、そして数人の兵士とともに調査チームの一員として現地に向かうことになった。
* * *
南の丘の中腹――。
新しく流れ落ちた土砂の中から、古びた石壁が姿を現していた。
その表面には、見慣れぬ文様や、幾何学的な装飾がびっしりと彫り込まれている。
「……これは、アークリア王朝期の“魔術封印式”だ」
私は手袋をはめた指でそっと石壁をなぞる。
冷たい石の感触と、微かに漂う魔力の波動。
「こんな遺跡が砦の近くに眠っていたなんて……」
ユーリが感嘆の声を上げ、リリィは目を丸くして石壁を眺めていた。
「ここに、何か“扉”のような……」
兵士の一人が、土に埋もれた部分を指し示す。
私は、壁面の魔術文様を丹念に観察した。
中心に円形の窪み、その周囲を囲むように複数の古代文字――
そして“鍵”となる魔法陣の配置。
(この封印……現代の魔法では絶対に解けない。だが、古代魔術の理論なら――)
私は深呼吸し、静かに古代語の呪文を唱え始めた。
「《紋章解放》」
空気がびりっと震え、石壁の窪みが青白い光を帯びて回転し始める。
次の瞬間、重い音とともに石の扉がゆっくりと開いた。
「開いた……!」
ユーリとリリィが歓声を上げる。
「中に入ろう。だが、油断は禁物よ」
私は小さな魔道具ランタンを掲げ、慎重に遺跡内部へと足を踏み入れた。
* * *
遺跡内部は想像以上に広く、複雑な回廊と大小の部屋が迷宮のように連なっていた。
壁には古代王朝の紋章と魔術式。
床には“魔法の罠”と思しき刻印がいくつも残されている。
「ノクティアさん、ここに何か書いてあるよ!」
ユーリが石板を発見し、私はその文字を読み解いた。
「“王国を守る理、封じられし災厄、時の巡りて再び目覚めん……”」
リリィが不安げに私の腕を掴む。
「災厄……?」
「うん、どうやらこの遺跡は、かつて“何か”を封印するために建てられたみたい」
私は慎重に進みながら、魔力の流れを読み取った。
途中、仕掛け扉や幻惑陣、毒霧の罠など――
さまざまな障害が私たちの前に立ちはだかった。
「ここは“魔力感知の罠”ね。みんな、私の合図で動いて」
私は古代魔術で罠を無力化し、仲間を安全なルートへ導いた。
* * *
やがて、一行は遺跡の最深部にたどり着く。
そこには巨大な“封印石”が鎮座し、周囲には複雑な魔術式と、途切れ途切れの古代語が刻まれていた。
「“災厄の主、再び目覚める時、選ばれし者が門を閉じるべし”……」
私はその意味に息をのんだ。
(ここには、かつて王国を滅ぼしかけた“何か”が眠っている。
そして、その封印が弱まりつつある――?)
ユーリが辺りを調べていると、床に奇妙な“刻印”を発見した。
「ノクティアさん、これ……最近のものじゃない?」
私は屈みこみ、刻印を見つめた。
(確かに、古代の石板とは異なる新しい魔力の痕跡――)
「これは……外部から侵入した誰かが、封印の力を弱めようとした痕跡よ」
リリィが顔を青くする。
「じゃあ、ここを狙っている“敵”がいるってこと……?」
「その可能性が高いわ」
私は改めて周囲の結界を強化し、魔道具で封印の状態を確認した。
「この遺跡の存在、そして封印の危機は、必ず砦に伝えないといけない。今はまだ大丈夫だけど、敵勢力の動きがあればすぐに対応できるよう、備えを固める必要がある」
一行は緊張しながらも、無事に遺跡を後にした。
* * *
夕方、砦に戻った私はカイラス司令官に詳細を報告した。
「遺跡内部には、古代の“災厄”が封じられていました。
最近になって封印を破ろうとする新たな魔力痕がありました。敵勢力が動き出している可能性があります」
カイラスは険しい表情で頷く。
「……この地の防衛は、いよいよ砦だけの問題ではなくなったな」
「ええ。遺跡の存在を王都にも報告すべきです」
「そうしよう。お前たちも、しばらくは遺跡に近づきすぎるな」
ユーリやリリィも真剣な面持ちで頷いた。
「これから砦の防衛をさらに強化しないと……」
ユーリが言い、リリィは決意を新たにしていた。
「ノクティアさん、わたしももっと魔法を学びます!」
「私も……何か力になれるよう、頑張るよ」
私は静かに微笑み、二人の成長を頼もしく思った。
(いよいよ、この辺境の砦が王国を左右する“鍵”になるのかもしれない)
私は自分の役割と責任を胸に刻み、さらなる試練に立ち向かう覚悟を新たにした。