雨降りて百合の香り立ちぬ
「雨と死」をテーマに短編のお話を書きながら曲を作って動画にしています。
せっかくなのでお話部分だけでもこのような媒体に投稿しておこうと思いたち今に至ります。
自分が生きた証として。
もし少しでもお時間いただけるようでしたら読んであげてください。
忘れられた地に、百合の花が咲き乱れていた。
かつてそこは黄金色に波打つ麦畑だった。
だが今はもう、その面影はない。
風に揺れる白い花々だけが、時の移ろいを静かに語っていた。
その群生地のただ中に、一人の少女が立っていた。
身じろぎもせず、まるで花に囚われた精霊のように。
少女はふと思う。
雨の影響でむせ返るような百合の香りが心地よい……
でもどうして自分はここにいるのだろう……
なぜ……ここから離れることができないのだろう……
記憶を辿ろうとすると、胸の奥が締めつけられる。
まるで深い霧の中を進むような、あやふやで、けれど確かにどこかに存在する記憶。
思い出そうとするたび、悲しみで心が溺れていく。
それでも少女は、懸命に思い出そうとした。
すると――ほのかに蘇ったのは
百合の花束が回転しながら
自分に向かって押し寄せてくる
奇妙な光景
恐怖でもなく、怒りでもない。
そこにあったのは 名状しがたい<絶望>。
理解が追いつかなかった。
少女はさらに深く、記憶の迷宮を進む。
だが、思い出すごとに今度は“痛み”が身体を襲った。
記憶の中。
四方八方に蠢く百合の花。空を裂くように広がる白い花弁<四散>。
朝だったはずの景色が、突然夜に切り替わる<終焉>。
唐突に美しすぎる百合の花々に囲まれ、少女は立ち尽くす<棺>。
そして最後に、ひときわ見事な百合の花が、静かに咲き誇った――<墓花>。
……違う。
これは本当の記憶ではない。少女はそう感じた。
何かが違う。けれど、それが何なのかがわからない。
偽りの記憶に違和感を抱きつつも、少女はただ、思い出せない真実を追い続ける。
終わりのない記憶の輪郭をなぞるように。
まるで夢の底に沈み込んでいくかのように。
そしてその場所に、ぽつんとひとつだけ存在する木の十字架のようなものがあった。
それは、墓なのだろうか。
だとすれば、いったい――誰の墓なのだろうか。
読んでくださった方、ありがとうございました。
1作目は幽霊の女の子が自分の記憶を思い出そうと奮闘するお話でした。
なぜ自分はここにいるのか、
なぜ自分はフラッシュバックを見るのか、
なぜこの場所なのか。
結局思い出せず彼女は今日も百合畑を徘徊します。
そんなお話でした。
またどこかしらで投稿します。
おやすみなさい。