第二話 魔獣の角を喰らう娘
オリオリの角を食べるなんて聞いたことがない。
この娘は大量の媚薬成分を取り込んでも平気なのか?
少女はラベンダー色の髪に、金と銀のオッドアイの瞳で物欲しげに角をじっと見つめている。
キオはその視線がいたたまれず、仕方なく角を渡してみた。
ガリガリ、バリバリボリ
面妖過ぎる少女は、一心不乱に角を平らげてゆく。
あまり聞いていたくはない音だ。
可憐な彼女の強靭な歯牙に目が釘付けになった。
「ふう·······」
彼女は恍惚とした表情を浮かべている。
(角とは一体どんな味なのだろうか?)
「もう1つ食べるか?」
「お腹いっぱいだから大丈夫。1つで数ヶ月くらいはもつんだよ」
「······は!?」
キオは漆黒の髪と同じ黒い瞳を見開いた。
彼女は生まれてからほぼ角しか食べたことがないらしい。
親も角しか食べなかったそうで、その親も幼い頃にいなくなったという。
オリオリの角が主食。
あとは木の実や果物ぐらいしか食わないそうだ。
それも半年に一度の頻度でよいなんて、彼女の方がオリオリよりも特殊な生物、絶滅危惧種だ。
オリオリが絶滅したら彼女は生きてゆけない。
あの日彼女が森にいたのは、お腹が空いたのでオリオリの角を探していたのだとか。
オリオリの角は年に一度自然に生えかわるので、森に落ちているものを探して食べているという。
角が欲しいからと言っても自分ではオリオリは殺さない、殺せないらしい。
密猟者が残していった角のおこぼれを得る時もあるが、あの日は偶然に密猟者とかち合ってしまったのだ。
森で倒れた彼女の服のポケットにオリオリの角が2本入っていたのはそのせいだ。
彼女はキオと出くわす前にオリオリの角を1つ食べたばかりだった。
「君の名前は?」
「名前?······ オリオリの友だち?」
「無いのか。じゃあ······」
彼女は睡魔に襲われているのか、今にも瞼が閉じそうになっている。
半年ぶりの食事に満足したからなのだろうか。
キオが考えた名前を聞かずに、彼女はそのままベッドで眠ってしまった。
それからまた半年、彼女は夢の世界の住人になった。
眠っているうちに背は伸び、髪や爪も伸びていた。
オリオリの角を主食にする眠り姫。
絶滅危惧種、いや、それ以前に新種でもあるのか?
新種発見ということにこれはなるのか?
今後も慎重に保護及び観察しなければならない。
キオは盛大な溜め息をついた。
ある程度生態を把握してからの報告になるだろうが、それはまだまだ先になりそうだ。
彼女にはこちらが聞きたいことを全て聞いてから、色々話を聞いてから角は与えるようにしないとならない。
今度は寝起きですぐに食事を与えるのは避けよう。
そうしなければ、また半年も待たねばならなくなってしまうからだ。
その半年後、さらに驚かされる事態になることをキオはまだ知らなかった。