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第十話 オリヴァーの変容

キオは、クリフトフル邸のリオの部屋に転移魔法でやって来た。


「すまない、リオ、頼みを聞いて欲しい」

「いいよ、なあに?」

「先日、オリヴァー博士に似た人物が見つかった」

「えっ?」

「博士には双子のように似ている兄がいるらしい。理由はまだわからないが、森で見つかったのは、その兄ではないかと俺は思っている」


キオは仮説をリオに伝えると、転移魔法の魔方陣を展開した。


「私、偽物は見抜けると思う」

「ああ、頼む」

「オリィを早く見つけなきゃ」

「もちろんだ」



病室に通されると、わざとらしくリオは抱きついた。


「オリィ、会いたかったよ!」


オリヴァー博士を騙る男は一瞬驚いていたが、「僕も会いたかったよ」と返した。


「ねえ、オリィ、どうして洞の奥にいたの? 具合でも悪かったの?」


遭難したとしても、洞の入り口にいれば、もっと早く見つかった筈だ。

本物のオリヴァーならば、そうしていただろう。

この男は見つかることを避けていたとしか思えない。


「疲れていたのか、物凄い睡魔に襲われてそこで眠ってしまってね。自分でも驚いているよ」


ネイサンはそれについては嘘をついていなかった。


尋常ではない強烈な睡魔に襲われて、5日間もそこで眠ってしまったのは想定外だった。


ネイサンが撹乱した通り、オリヴァーを埋めた洞はまだ誰も捜索していなかった。


「ねえ、オリィ、何で洞の中を調査していたの?」

「えっ? ······それは、洞に入ったオリオリを偶然見て、中に興味を持ったんだよ」


ネイサンは動揺した。


「そうなの。何かそこで見つかった?」

「···い、いや、特別何もなかったよ」


ネイサンは益々動揺した。


「オリヴァー博士はオリオリ研究の第一人者ですよね。それなら博士は角を食べたことは?」

「い、いえ、ありませんよ」

「ええ?オリィ、どうしたの?角は大好物だって言っていたよね」


もちろんそれは嘘だった。相手の反応を見るために言ったに過ぎない。

既にリオはこの男はオリィではないと判断したので、ちょっとしたいたずら心が芽生えた。


「そっ、そんなことを僕は言ったのかな?」

「ええ。抹茶味が好きなのよね。私、持って来たから食べる?」


リオは自分のポケットから一式を取り出すと、満面の笑みを浮かべてオリィの偽物の目の前に差し出して勧めた。


「·······」


オリヴァーを騙る男は、冷や汗を大量に吹き出すと絶句した。


「リオ、博士はまだ本調子ではないから、無理強いしてはダメだぞ」

「そうね、じゃあまた今度一緒に食べましょうね」

「······あっ、ああ」


男は額の汗を拭った。


ホッとしたのも束の間、オリヴァーを騙る男は、アンゼリカ率いる騎士団に身柄を拘束された。



「あの人はオリィじゃない。匂いが違うもの」

「そうか」


リオに抹茶味の角の粉を勧められ、焦りまくった男の顔を思い出してキオはクククッと嗤った。


オリヴァーがオリオリの研究時に角を試食したことがあると聞いていた。

リオがこれが一番美味しいと言っていた組み合わせの抹茶味のものを、ロイゼンタール邸でオリヴァーが味見していたのをキオも見ていた。


彼はオリヴァーに成り済ますには、あまりにお粗末過ぎたようだ。

だがこれはネイサンにはリオの存在を知られていなかったということだ。


彼にとってリオの存在が大きな誤算だったのだろう。


今回のことは偶発的に起きたことで、こちらの情報は漏れてはいなかった。


「それにね、洞の中に何も見つからなかったなんて、絶対に嘘よ」

「なぜだ?」

「カヤナの木の洞は、私達のお墓でもあるの。私も私の子ども達もいつかそこに還るのよ」


リオの母は、六年前一緒に眠りに入った後、リオが目覚めても起きることはなかった。


しばらく洞に一緒にいたが、半年、一年経っても母はついに目覚めなかった。

母の(むくろ)からは、オリオリの角に似た淡い香りが漂っていた。


それが「還る」ということなのだとリオは知った。




騎士団から尋問を受けたネイサンは、オリヴァーを埋めた洞と自分の企ての動機を白状した。


彼はオリヴァーに成り済ますことは元から考えておらず、洞で眠り込んでいたのを見つかってしまい、その場しのぎでオリヴァーのふりをしたということだった。


オリヴァーの研究をネイサンが全部引き継ぐことなどできはしないからだ。



オリヴァーは掘りおこされて保護された。彼は奇跡的に生存していた。ネイサンに刺された傷口は治癒していた。



保護されて三日目、目を覚ますと、オリヴァーの瞳はリオと同じ金色と銀色のオッドアイになっていた。


そして開口一番、「オリオリの角が食べたい」と言って、オリオリの角を渡すと、リオ同様にガリボリ食べはじめて皆を驚かせた。


「ちょっと待て」


キオは機転を利かせて、オリヴァーが食べている角を途中で取り上げた。


何があったか、事情を詳しく聞くのに半年後では困るからだ。


リオも一緒になって「今はこれだけで我慢して」と止めに入った。


「わかっ···た」


睡魔に襲われて寝落ちしたオリヴァーは、二週間後に目を覚ました。


オリヴァーの亜麻色の髪は、頭頂がラベンダー色に染まっていた。

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