第5話 魔狼の復活
□エルダーウィズ公爵邸 (クラム)
落ちていく……。
凄まじい音が響き渡り、慌てた部下からの報告を受けて庭に出ると、そこから崩れていく王城がよく見えた。
やっぱり来たな。
俺は何日か前に家に戻ってきて俺とエフィに嫌味や皮肉を言って帰って行ったロイドに"人物史"を使ってこの事態を先に把握していた。
< 封印の守護結界が破られ、古代の魔狼が復活する。封印の守護結界は魔力切れ。魔石は王妃のお小遣いになり、2個だけ供給された魔石の加工もずさんなものだったため >
こんな記述を見せられてどうしろと?
王妃とオルフェって女にこらって言えばいいのかな?
そもそも管理が杜撰すぎるだろ?
しかも残念なことにこれでロイドはさようなら。
俺は整えていた準備を持って、学院に向かう。
えっ?王城じゃないのかって?ないない。もうあそこはダメだ。今さら俺が行ってもなにもできない。
俺は学院に行って、ヴェルト教授とエフィと一緒に魔狼を迎え撃つんだ。
□崩れた王城にて(ギード王子)
くそっ、なんだ?
激しい音と共に降って来た天井。なんとか瓦礫の中から抜け出した俺が見たものは、崩れた王城。
そして恐ろしい魔力をまき散らす巨大で獰猛な狼だった。
「なっなっなっなっなっなっ」
あまりの恐ろしさに口が上手く動かない。
「なっ……いや~!!!」
「たっ、助けて」
そんな俺の後ろからも声が聞こえて来た。
俺と同じく這い出してきたオルフェとロイドだ。
「逃げるぞ!」
俺は2人に声をかけて走り出す。
「まっ、待ってください!私の足が!王子!助けて!」
そんな俺にオルフェが泣き叫ぶ。
どうやらまだ完全にがれきの山から抜け出せていないらしい。
足が埋まったまま。もしかしたらケガをしているのかもしれない。
しかしそんな様子を気にしている余裕はない。
魔狼が足を踏み出し、踏みつぶされる瓦礫の音が響く。
そもそもなぜ王太子である俺が助けなければならない?
お前たちが俺の助けになるべきだろ?
お前らがちゃんと魔石を守護結界に入れていれば、こんなことにはならなかったというのに、まだ失態を繰り広げるのか。
周囲は酷い惨状だ。
これでは埋まってしまった父上はダメだろう。
もしかしたら大臣も。
自分のために確保していた魔石で咄嗟に守護を唱えたおかげで俺は助かったし、近くにいたオルフェたちも辛うじて生き残ったようだがな。
俺は気にせず走る。
「なっ、王子!いや~~」
「王子!頼む!助け……ぎゃ~~------……」
後ろでロイドの声が消える。
一瞬振り返ると、覆いかぶさるようにしている魔狼。
たぶん食われた。
「いや……いや‘---、いや~~----!!!!……」
せいぜい時間を稼げ。俺はがれきの上から飛ぶ。城があったであろう場所から出て、庭があった場所を抜け、城下に降りる道へ向かって走る。
俺さえ逃げのびれば何とかなる。
俺が王になる。
俺が国だ。
周りで倒れていたり、朦朧としている兵士たちを無視して走る。
全員餌になってくれ。
そうすれば俺が助かる可能性があがる。
お前たちは身を犠牲にしてくれればいい。餌になってくれれば。そうすれば国が助かるんだ。
ぐしゃ……。
「なっ……」