第1話 予定通りの婚約破棄
義妹が帰って来た。予想通り婚約破棄をされたようで落ち込んでいる。
義妹の寂しそうな顔を見るのが切ない。辛い。でも大丈夫だ。これからきっと俺が幸せにしてやるからな。
あんなクソ王子に嫁がなくてよかった。そう思わせてやるからな。
俺はクラム・エルダーウィズ。公爵家の嫡男だ。
義妹はエフィ・エルダーウィズ。義妹と呼んでいることからわかってもらえると思うが、彼女は養女だ。
養女とは言っても、縁もゆかりもない娘ではなく、俺の曽祖父の妹の娘だ。
世代が離れすぎていることに驚く人もいるだろうけど事実だから仕方がない。
そのお婆さんは王国史上最高の魔法使いと呼ばれた人で、かなり長い間若い姿を保っていたから、そういうこともあるんだろう。
それでも15年ほど前に亡くなってしまったので、エフィはうちにやってきた。
ちなみにこれはエフィも、弟のロイドも知らない。
なぜ俺が知っているのかというと、それは俺が特殊スキル持ちのレアな人材だからだ。
俺のスキルは"人物史"。
かなり大量に魔力を使うから多用できないが、特定の人の過去、そして未来をまるで歴史の年表のような形で見ることができるというものだ。
なんでこんなスキルが生えてきたのかはわからないが、きっと俺が昔からこそこそと周囲の人を調べていたからだろう。
理由は言わないぜ?
そんな俺は、可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて仕方がない義妹のエフィにあるとき"人物史"を使ったんだ。
そしたら見えた。いずれ婚約破棄されることが。そしてそのことについて両親や弟から責められ、彼女は出奔してしまう。さらに王都に現れる悪霊に襲われて亡くなってしまうと。
俺は発狂しそうになるのを抑え、心を落ち着かせて考えた。
これはチャンスじゃないかと。
こんなに可愛いエフィをあのクソ王子に渡さなくて済むんじゃないかと。
ついでにアホな弟は折檻できるし、優しいけど権力に弱く優柔不断な父にも喝を入れられる。
そして何より、俺がエフィと一緒に未来を生きることもできる。なぜなら義妹とは結婚できるんだから。
そうと決めたら、俺は努力した。
やるべきことは3つ。
婚約破棄を言い渡されるまでエフィを安全な場所にいさせること、婚約破棄の混乱からエフィを守ること、悪霊からエフィを守ることだ。
もちろん、"人物史"が間違っていて婚約破棄が起きなければ仕方ない。クソ王子ではなかったと思ってあきらめるしかない。
でももしクソ王子だった時のために俺は行動する。
まず学院の教授に連絡を取った。
魔法狂いで有名な教授で、基本授業はしないし、学生の相手もしない。
しかし俺の"人物史"には興味津々だった研究者だ。エフィの素性を内緒で打ち明け、実はエフィが神代魔法まで使える凄まじい魔法使いであることを伝えた。
ある日エフィが『今後、魔法の授業に出る必要がなくなりました。ヴェリア教授は面白い方です』と言っていたから無事、エフィは教授の研究室に匿われたことだろう。
なお、その発言を聞いてエフィが満足に魔法が使えないと捉えた父はエフィに『やればできるから頑張るんだ』とか言い出し、弟のロイドは『王太子の婚約者である姉が魔法が不得意など恥ずかしい』と言い放った。
父は人畜無害だからどうでもいいが、ロイドは斬り捨てることを決意した。
次にエフィが婚約破棄を突き付けられる夜会の日に向けて、両親と末の妹に家族旅行をプレゼントした。
事前に全ての仕事をしれっと片付け、来年学院に入る妹の最後の自由な時間に旅行して思い出を作ってくるように伝えた。
婚約破棄をされたことを知った日、両親は慌てながら無遠慮にエフィを傷つけてしまうことはわかっている。末の妹はもっと酷く、エフィに使えない無能とか、王子に相応しくないとか言い放ってしまう。
ただし、彼らはエフィが死んだあと後悔の念にかられて反省することは"人物史"でわかっているので、距離を取らせればいいと考えた結果こうなった。
道中、俺とエフィからの贈り物という名目で素敵なプレゼントや美味しい料理が振る舞われるから、きっと今後の未来は上手くいくだろう。
そして最後、悪霊だ。
これからエフィを守らないといけない。
混乱の中でエフィが家出しなければ出会わないとは思うが、万が一のために悪霊を倒す力を俺はしっかりと身に着けた。
その過程でヴェリア教授と出会ったわけだ。全ては同じ未来につながっている。
えっ?王家とか、クズ王子にざまぁはしないのかって?
するする♪
その話はこの後じっくり味わいたいからね。