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陰キャエンジニア矢野峻の異世界黙示録  作者: 兎束つるぎ
初級冒険者編
42/45

第42話 エマの町


「久しぶりにベッドで寝れるー!」


僕たち3人はヴァリオニアを目指し、街道を西へ西へと歩き続けてきた。

道中は、昼間よりも夜の方が魔物の襲撃も多く、睡眠不足と筋肉痛で体が悲鳴をあげている。

3日ほど歩くと交易で比較的栄えてる町エマに着いたわけだ。


エマは、南の国レツエムにある町で、西の国ヴァリオニアとの国境近くにある。

そのため異文化交流が盛んで目新しい物がそこかしこに見受けられるのも楽しい。


しかしそんなことよりも、早く横になってぐっすり眠りたい気持ちが大きい。

悲しいかな。

お財布事情が厳しいことも事実なので、討伐した魔物の素材部位を売って先に現金を作る必要があった。


・・

・・・


魔物の素材は解体屋で買い取ってくれる。

こういう時ってお決まりのフラグが立つよなーとかって思っている。


「こんにちはー!」

元気な声と共にお店のドアを開けると、白いドレスを着たトカゲっぽい亜人が僕を見て穏やかな笑顔を向けた。


「いらっしゃい」


「え?なにここ、明るくて清潔感しかないんだけど!」

ありがとうミレイユ、説明してくれて。


そう、解体屋は一般的に薄汚れていて薄暗くて、雰囲気は最悪なんだ。

しかし、この店は違う。

現代日本のオシャレ雑貨屋さんの雰囲気がある。


魔物の素材を加工して作られた調度品のような武器やアクセサリなどが綺麗に並べたり飾られている。


「あら、ありがとう。ゆっくりしていってね」

トカゲっぽい亜人の店員さんは、再びアクセサリに向き直り、飾っては顎に手をやり悩んで、並べなおしたりと楽しそう。


「あの、すみません。買い物というより買い取りをお願いしたいのですが・・・」


「あら?ごめんなさいね。買い取りなのね?持ってきてくれる?別棟で査定させていただいてるの」

ニッコリ笑うトカゲっぽい亜人の店員さんは、僕に「着いてきて」と、ミレイユやテオドラには、「一緒に来る?待ってても暇だからアクセサリでも見てる?」と声をかけたが二人とも目はアクセサリーに釘づけだ。


「そっか、そうだね。ごめん、ミレイユにテオドラ。じゃあ、ここで待たせてもらってて?」

「わかった」「うん」

ミレイユとテオドラは大きな窓から降り注ぐ光を受けてキラキラ輝くアクセサリに魂を奪われたようだ。



「ただいま。結構な収穫とまではいかないけど当座の資金は・・・どうしたの?」


「アタシ、これ欲しい」


「・・・。私も、これ欲しかったりする」

ミレイユが持っているのは、ミレイユが着けられるくらいに小さなハチの模様の入ったブローチ。

すごく小さくて、よくこんなもの作ったな。ってくらい変態的な小ささだ。

何かの素材らしくキラキラと金色と黒で煌めいている。


「おう。換金したお金は三等分にするから買えるならいいんじゃない?」


「じゃ、買う」


「いや、金額くらいは聞こうよ・・・。テオドラは?」


「私はこれ」

テオドラが持っていたのは、犬っぽいもこもこしたぬいぐるみ。


「え?犬?好きなの?」


「え?変かな?」


「いや、変じゃないけど。なんていうか、テオドラって思ったよりも子供っぽいなって」


「子供じゃないもん!シュンくんよりもずっとお姉さんだし!」


「いやいや、お姉さんはぬいぐるみとか欲しいなんて言わないって」


「もういい!やっぱり私はいらない!」

そっぽ向いて怒るテオドラ。

ニヤニヤ笑うミレイユ。

そんなことでムキにならなくてもと困る僕。

それを眺めて微笑んでるトカゲっぽい亜人の店員さん。


「今日は、そっちの妖精さんの分だけにしておきましょう。彼女さんの分は、そうね。誰が聞いても少年が悪いわ。しっかり謝って仲直り出来たらまたきてね」

ミレイユのお財布からは、換金したお金は結構な額が入ったけど、同じく結構な額が出て行ってしまった。


「また稼げばいいよ!」

なんてミレイユが言ってたけど、それは君のセリフじゃないよと僕は思いつつ、テオドラの機嫌が悪いことで居心地の悪さは宿に着くまで続いた。


宿に着くと、部屋に荷物を投げ置き、再び宿の1階の食堂で簡単な食事を済ませると、僕はこの雰囲気を打開すべく口を開いた。


「あのさ、テオドラ。なんかごめんね。別にバカにしたつもりじゃないんだ」


「嘘だー!あれはバカにしてたでしょ」とミレイユ


「いや、違うんだ。本当に。そういう意味じゃなくて。まぁ、でも傷付けたことは確かだから」

テオドラと目が合う。紫色の宝石みたいな目だ。


「ごめんね、テオドラ」

僕は目を逸らすことなく真摯に、自分の非を認めた。

小さな宿屋の小さな食堂。

再び重たい沈黙がテーブルに降りてきて、隣の席の人達の会話が楽しそうに聞こえてくる。


場の雰囲気に耐えられなくなったミレイユは、残っている串肉に噛みついてこの雰囲気から逃げた。

テオドラの紫色の目は、僕の目から逸らされることなく、真正面から僕をとらえて離さない。


「ごめん、テオドラ。傷付けてしまってごめんね」

さらにそこから数分、もしかするともっと短い時間だったかも知れないけど、沈黙が続いた。

テオドラの唇はときどき動くけど、言葉はない。



「じゃあ・・・・。じゃあさ、ヴァリオニアについたら何か私に買ってくれる?」

テオドラが絞りだした声は小さくて、いつも通りの可愛い声で紡がれた。


「よかったね!シュン!許してくれたよ」

ミレイユが僕を見てにやりと笑った。


「あ、あぁ!そうだね。じゃあ、ヴァリオニアについた最初の街でお詫びにプレゼントするよ」


「え?テオドラだけ?私には?」


「いや、ミレイユはブローチ買ってたよね?ていうかなんで僕が買わなきゃならないの?」


「うわ!ズルい!テオドラばっかりズルい!アタシも欲しい!何か買って!買いなさいよ!」


ミレイユがワーワー騒ぎ始めて、僕たちのテーブルにも明るさが戻ってきた。

僕はチラリとテオドラの顔を覗き見ると楽しそうにミレイユと一緒に笑っている。

そして僕たちは部屋に戻って、ベッドに転がるのだった。


「久しぶりにベッドで寝れるー!」


「そうだね」


「せっけんと、太陽のニオイがするね」


「そうだね」


「明日は、ゆっくり朝から飲む?」


「飲まないね」


「清潔なにおいだね」


「そうだね」

満腹になり、ベッドに横になっていても隣のベッドで寝ているミレイユとテオドラが交互に話しかけてくる。



次第に僕の意識は落ちていく。

「ちょっと!シュン!聞いてる?ヴァリオニアまであとどれくらい?」


「うぇっ?ヴァリオニア?2日くらい?」

寝落ちの最高に気持ちいい瞬間をミレイユに邪魔される。


「じゃあさ、テオドラ。明日一緒にお風呂屋さん探さない?」


「それいいね」


「じゃあ、シュン。明日は・・・、準・・・・ね?」


「そうだね」


「お・・、・・・ンくん・・・」



ミレイユとテオドラの言葉が断片的に聞こえ、適当に応えたあと僕の意識は急速に夢の中へ落ちていった。


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